No.3 誰が連携を進めるのか
愛知医科大学医学部衛生学講座 教授
柴田 英治
すでに見てきたように、中小企業の安全衛生を守る活動には様々な連携の仕方があり、地域、業種、人材など様々な事情に応じて最適な連携の在り方を模索する必要があります。ある意味ではこのような連携のあり方を提案することが最も重要といえるのかもしれません。
しかし、この提案の仕事はいったい誰がやるのでしょうか?少数の労使が分散している中小企業をサポートする仕事は効率が悪く、ビジネスになりにくいという難点があります。これを克服しなければなりませんが、条件さえあれば、それは不可能ではありません。
職能としてこのような仕事ができる条件が最もそろっているのは間違いなく保健師です。公衆衛生の専門教育を受けている保健師はここの労働者やそれぞれの職場で行われている業務が彼らの健康に及ぼす影響を認識することができます。
ただし、中小企業のサポートをする保健師の活躍の場も様々であり、保健師がどこに属して、どのような形態で活動するのかという問題も実は大変大きな検討課題になっています。
新規に資格を得た保健師の進路は行政、企業、健診機関、健康保険組合などですが、いずれも中小企業のサポートを主要な業務とするものとはいえません。
例えば、行政に入り、保健所勤務となった保健師は地域職域連携などの担当になれば、確かに中小企業を念頭に置いた健康支援に取り組むことになりますが、それは他にも多数ある保健所の業務の一つに過ぎません。多忙な保健所の仕事に追われながら、気がついてみるとセレモニーのような会議の準備に追われていることもないとは言えないのではないでしょうか。
また、健康保険組合、中でも中小企業の労働者が加入者の多数を占める協会けんぽあるいは総合健保組合所属の保健師も中小企業との接点があり、組合員への特定保健指導などの仕事で現場の作業者と接することもあることと思います。
そんな時に生活習慣病予防の一般論をいくら話しても、彼らの心に響かないものです。公衆衛生の専門職である保健師はそれぞれの人たちが抱える健康リスクを的確に把握して、相手の状況に応じた支援、アドバイス、アイデアを提案することが求められています。
そのためには彼らがどんな環境でどんな仕事をしていて、受けている様々な社会心理的な要因、体調不良が仕事と関連していると実感しているのかなど、つかんでおかなければならないことがたくさんあります。問題は健保所属の保健師にしても1人当たりの担当組合員が膨大な数になるため、個別対応に多くの時間を割くわけにはいかないことです。