都市に自然を増やすと健康増進につながり気候変動対策にも 木を植えて環境を改善すると赤ちゃんの体重にも影響

樹木の多い公園や川にそった緑地などの自然を増やすことは、地球温暖化への対策になるだけでなく、住民の健康増進にもつながることが、新しい研究で明らかになった。
近隣に樹木の多い公園や緑地のある環境にいる赤ちゃんは健康的という調査結果も発表された。
「都市緑化は、気候変動や生物多様性の喪失、健康格差の拡大など、私たちが直面しているもっとも差し迫った課題に対する、費用対効果が高く実用的な解決策となりえます」と、研究者は指摘している。
緑地などの自然を増やすことは健康増進にもつながる
都市に樹木の多い公園や川にそった緑地などの自然を増やすことは、地球温暖化への対策になるだけでなく、住民の健康増進にもつながることが、新しい研究で明らかになった。
研究は、11ヵ国の専門家が参加して行われている。都市の緑化は、熱負荷の軽減、都市気候の改善、省エネルギー化、空気や水の浄化、生物多様性の増大など、多くの利点をもたらすだけでなく、地域社会の健康増進、快適性の向上、メンタルヘルスの改善にも役立つとしている。
都市の緑化を推進する試みは世界中ですでにはじめられている。たとえばシンガポールでは、10年間で国内に100万本以上の木を植えることを目指す「自然の中の都市」プロジェクトが進行中だ。英国のカーディフやデンマークのコペンハーゲンなどの都市でも、数万本の樹木を植えて居住性を向上させ、洪水リスクの少ない、気候変動に強い地域づくりが進められている。
「緑化が多くのメリットをもたらすことを考えると、もはや都市の計画や開発に緑化を取り入れるのをためらう正当な理由はありません。世界中で温暖化が進むなか、都市の緑化は屋外環境を冷却し、猛暑から解放するのに不可欠です。緑化は都市に自然をもたらし、健康や福祉にもプラスの影響を与え、住みやすさを向上させます」と、オーストラリアのアデレード大学環境研究所のヴェロニカ スバルト教授は強調する。
「いまや自然を基盤としたインフラは、単に"あったらいい"という美観上の対策ではなく、持続可能な都市開発の根幹を成す要素になっています。都市緑化は、気候変動や生物多様性の喪失、健康格差の拡大など、私たちが直面しているもっとも差し迫った課題に対する、費用対効果が高く実用的な解決策となりえます」と、英国のサリー大学のクリーンエア グローバル研究センターのプラシャント クマール教授は言う。
都市緑化を実現するために最新のテクノロジーを活用
都市の緑化には、コストがかかる、建物に負担がかかる、メンテナンスの手間がかかる、都市の富裕化により格差がより拡大する「グリーン ジェントリフィケーション」などの課題もある。
研究グループは、都市の緑化を大規模に実現するため、人工知能(AI)、地理情報システム(GIS)、リモートセンシングといった最新のテクノロジーを活用し、都市の環境リスクのマッピング、よりスマートな設計の策定、さらにはグリーンインフラの長期的な影響のモニタリングなどを推進する「Reclaim Green」プロジェクトを立ち上げた。
「大規模な都市緑化を実現するため、開発の計画と政策のあらゆる段階に自然を組み込む統合的な行動が求められます。そのために、開発業者に自然ベースのインフラを優先するようインセンティブを与え、長期的な資金を確保することも必要です。持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みを加速させるために何が必要とされているかを特定する必要があります」と、クマール教授は述べている。
木を植えて環境を改善すると新生児の体重などにも影響
近隣に樹木の多い公園や緑地のある環境にいる赤ちゃんは健康的という調査結果も発表された。研究は、米国のドレクセル大学によるもの。
研究グループは、非営利団体「Friends of Trees」が1990~2020年にオレゴン州ポートランドで3万6,000本以上の樹木を植樹したプロジェクトの調査結果と、オレゴン州保健局の新生児の出生データを解析した。
その結果、近隣に樹木のある地域で母親が生活している新生児では、健康に関する3つの主要な指標、すなわち出生体重が健康的で、在胎不当過小児のリスクが低下し、早産リスクが低下している傾向が示された。
たとえば、100メートル以内に10本以上の木のある環境にいると、新生児の出生体重は約50グラム増えるという。健康な出生体重により、赤ちゃんの発育不良のリスクは減るとしている。
「もともと樹木の多い環境に住んでいる新生児だけでなく、樹木が新たに植えられた地域にいる新生児でも、出生体重は健康的である傾向が示されました」と、同大学公衆衛生大学院のイヴォンヌ マイケル教授は言う。
「これは、植樹が人生のもっとも早い段階から公衆衛生を改善するために有用であることを示唆しています。環境を改善するために木を植えることは、比較的容易に行えコストも多くは必要になりません」としている。
ストレスは、早産のリスクの増加や、赤ちゃんの健康状態の悪化とも関連している。研究グループは、家の近くにある樹木は、心理的な回復を促し、多くの恩恵をもたらす可能性を指摘している。人工的な自然環境であっても、人工的な環境に比べると、心理的な消耗を引き起こす可能性は減少する。
樹木がそうした健康効果をもたらすことを証明するには、ランダム化比較試験の実施が必要になるとしながらも、自然が豊かな環境が健康増進を促進することを裏付けた報告は増えているとしている。
Reclaim Green: Innovating Waste for a Greener Future
International experts lead calls to embed nature in city infrastructure for better health and climate resilience (サリー大学 2025年4月30日)
Urban greening for climate resilient and sustainable cities: grand challenges and opportunities (Frontiers in Sustainable Cities 2025年4月30日)
Newborns Living Near Trees Tend to Be Healthier. New Data Suggests It's Not Because Healthier People Reside Near Parks (ドレクセル大学 2025年4月23日)
The association between tree planting and birth outcomes (Science of The Total Environment 2025年5月)


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