職場の熱中症対策が義務化へ 罰則付きで6月1日施行
厚生労働省は3月、労働政策審議会安全衛生分科会を開催し、職場における熱中症対策を事業者に義務付ける方針を決定。初期症状の早期発見や迅速な対応、医療機関への搬送といった適切な措置を講じることが求められる。
改正省令は6月1日から施行され、違反には罰則が科される。
熱中症死亡災害の約7割が屋外作業、初期対応の遅れが主因に
厚生労働省によると、職場での熱中症による死亡災害は、令和4・5年と2年連続で30人を超え、6年もそれを上回るペースで発生している。死亡災害に至るリスクは他の労働災害の5〜6倍にのぼり、深刻な問題だ。
死亡者の約7割が屋外作業で、近年の気候変動の影響によりさらに増加することが懸念されている。また、厚労省の調査で熱中症死亡災害のほとんどが「初期症状の放置・対応の遅れ」が原因だということもわかった。有識者からは「現行の労働安全衛生法の規定では、初期症状の放置、対応の遅れに対応する明確な規定がないことに起因するのではないか」との指摘もあった。
そこで、労働安全衛生規則見直しの検討が行われ、事業者には、熱中症による健康障害の疑いがある者の早期発見や重篤化を防ぐための対応を義務化することとなった。
出典:厚生労働省「第175回労働政策審議会安全衛生分科会」資料1-1 P2, 2025年 3月12日
WBGT28度または気温31度以上の現場で「1時間以上または1日4時間以上の作業」が対象に
労政審で示された案は、「見つける→判断する→対処する」を熱中症対策の基本とし、現場の実態に即した対応を求めるものだ。
義務の対象は、暑さ指数(WBGT)28度以上、または気温31度以上の環境で「1時間以上の連続作業」または「1日4時間以上の作業」が行われる現場。日本生気象学会はWBGT28度を「すべての生活活動で危険性が生じる」としており、この基準に沿って定められた。
今後、事業者は具体的に現場対応として、以下の「体制整備」「手順作成」「関係労働者への周知」が罰則付きで義務付けられる。事業者が対策を怠った場合、6か月以下の懲役または罰金50万円の罰則が科される可能性がある。
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熱中症のおそれがある労働者を早期に発見できるよう、「熱中症の自覚症状がある労働者」や「熱中症のおそれがある労働者を見つけた者」が その旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係労働者に対して周知すること。
※報告を受けるだけでなく、積極的に「熱中症の症状がある労働者を見つけるための措置」とし て、職場巡視やバディ制の採用、ウェアラブルデバイス等の活用や双方向での定期連絡等現場に おいて取り組まれている効果的な措置を通達で推奨する。
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熱中症のおそれがある労働者を把握した場合に迅速かつ的確な判断が可能となるよう、
- 事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
- 作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送等熱中症による重篤化を防止 するために必要な措置の実施手順(参考例は別添のとおり)を事業場ごとにあらかじめ作成し、関係労働者に対して周知すること。
出典:厚生労働省「第175回労働政策審議会安全衛生分科会」資料1-1より作成, 2025年 3月12日
労政審は、今回提示された熱中症対策を罰則付きで事業者に義務付ける省令案要綱を了承。これを受け、厚労省は4月15日に労働安全衛生規則を一部改正し、熱中症対策を罰則付きで事業者の義務とする省令を公布した。施行は6月1日。
福岡資麿厚労大臣は同日の会見で、職場の熱中症対策は喫緊の課題としたうえで「熱中症の死亡災害の減少に向けて取り組んでいきたい」と話した。
「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」で早期周知へ
さらに、福岡厚労大臣は「改正省令の着実な施行に向けて、事業者への周知啓発が大変重要になることから、5月から開始する『STOP!熱中症 クールワークキャンペーン』をはじめとする機会を捉え、リーフレットの配布や労働基準監督署による説明会を実施していくことを考えており、こうした取組を通じてしっかり周知を図っていきたいと思います」と見解を述べている。
このキャンペーンは毎年5月から9月まで展開されており、厚労省と労働災害防止団体が連携し、予防対策の実施を促進している。
義務化対象外の作業でも、対応が望まれるケースあり
今回の改正は、熱中症による労働災害の抑止を目的とした制度強化であり、法令上の安全配慮義務とも密接に関係する。新制度の対象外の業務であっても、作業強度や服装、現場環境によってはリスクが高まるため、キャンペーンを活用した早期の対応が推奨される。
産業保健スタッフにとっても、この制度改正は現場における安全管理体制の強化につながる重要な機会となるだろう。今後の対応準備として、キャンペーン情報や厚労省の周知資料を活用し、関係部署と連携しながら体制整備を進めることが求められる。
参考資料
第175回労働政策審議会安全衛生分科会(資料)|厚生労働省
令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施します|厚生労働省
マニュアルダウンロード|職場における熱中症予防情報
熱中症予防情報サイト「暑さ指数とは?」|環境省


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