オピニオン/保健指導あれこれ
振り返ると31年経過していた産業保健・産業看護の研究会
No.1 産業看護活動に必要なスキルの習得と研究・開発に取り組んで
独立行政法人労働者健康安全機構 神奈川産業保健総合支援センター 産業保健相談員
2016年05月23日
(1)産業看護事例研究会発足のきっかけ
筆者が事業所に就職した1960年(昭和35年)時代は事業所の大企業では結核管理から成人病に向かおうとしていた時代である。筆者は600人の中規模事業所からスタートした。結核管理が整備されていなかった状況であった。事業所で働く保健師も少なく、公衆衛生看護として学習してきたのに、行政、事業所と場が違うだけなのに理解が図りにくいのはどうして?事業所で保健師が何をしているのか、何を目指しているか事例から整理できることを確信して北尾誠英先生を迎え発足した。
(2)産業看護事例研究会の成果
1.1985年(昭和60年)当時日本看護協会・中央研修「産業看護」プログラムに日本看護協会保健師職能委員会の産業看護(事業所)小委員会が協力していた。産業看護に従事する人は産業組織での役割・期待を理解した活動が必要である。そのスキルを学習することの必要性から現場の事例を用いたシステム思考による問題解決能力を高める演習をプログラムするため、神奈川大学工学部工業経営学科教授北尾誠英先生にお願いしていた。当時病院婦長さん方の研究会が1980年(昭和55年)に看護管理事例研究会として発足していた。 2.1981年(昭和56年)以降日本看護協会・中央研修「産業看護」へ受講者から提出された事例と自作事例227例を3年間システム思考によって解析、産業看護の領域、機能、職務内容、産業看護の課題の明確化、産業組織における課題解決行動、産業看護の7つの技法等1報~第7報まで産業衛生学会に報告した。そのまとめが日本看護協会出版会から産業看護 問題解決事例演習として発行された。(1991年3月(平成2年))
研究成果は1992年(平成4年)~1998年(平成10年)第1報~14報を産業衛生学会に毎年2報づつ発表してきた。事業所展開についてはできなかった。検証から教育システムを構築できていればと今も残念である。一因として研究指導者に内容報告できるまで、まとめられなかったことであった。
(3)1993年(平成5年)産業看護事例研究会から産業看護システム研究会に変更
産業看護事例研究会当時より事例解析の手法の一つとして「システム思考による事例研究」があり事例研究をおこなうためのシステムチャートを活用していた。このチャートは基本的枠組みの状況診断・意志決定という問題解決過程の事例解析であり、問題解決能力の育成(マネージメント力の習得)を目的にした研究会である。
このスキルは産業組織での一人職場では入職当初から専門職として要求されるスキルであり、管理職に期待される管理能力(マネージメント力)が期待されている。産業組織では、産業保健、産業看護の展開であり、個別のケースでも組織とのかかわりなしで問題解決が図れないという、産業看護の特徴ともいえる。
私たちが行っている事例研究の目的と方法を紹介する。
■1. 目的
- 1)知識を活用する技能の習得と論理的思考の開発を促進する
- 2)個々の素質を引き出し、個別経験に訴えながら現実的体験に迫る
- 3)断片的な社会事象を全体関連的、相互関連的に捉え、合理的な問題把握と問題解決の手法を身につける
- 4)参加者の自学自習、相互啓発(討議)に基づく累積効果によって、問題意識の向上を図る
- 5)参加者のより現実的な問題中心志向と管理能力の育成を促進する
- 1)学習の「素材」として「事例」を用いる
- 2)学習の「過程」として、「状況診断および意思決定の手法」を用いる
- 3)学習の「場」として「事例討議」をシステムチャートに基づいて進める
(4)雑誌「ナースデータ」に産業看護の広場として、一年間(1995.8~1996.7)産業看護問題解決事例解析の取り組みが掲載された(出版社 日本総合研究所)
産業組織で働く保健師・看護師の組織に働きかけるスキルの習得を願っていた。経験と知識が別物として積みあがり、せっかく獲得した知識が往々にして問題解決のカギになりえないことが多い。頭の中で理解された知識は、現実への適応性を欠くためにしばしば無力である。知識をより高い価値を生み出すために、創造的な実践力にまで発展させる努力は、実践の分野である私たちは要求されるものであるが、特に問題解決能力育成の場においてこそ、最も切実な課題である。
日常の仕事を通じて(on the job training)技能の習熟を図る必要がある。実務知識と実務経験に裏付けされた技能を習得し、一人前の労働衛生専門職として通用するまでに成長することである。
特に一人職場では産業組織での事務的問題解決での指導は受けられるが、専門職としての問題解決技法の指導者はいない。外部の個人を求めるか、研究会に求めるかになると考える。経験だけの積み上げでは科学的態度の形成が無理か、習得に時間がかかる。
事例から状況診断と意思決定が期待されているが、この過程を習熟していくのが私たちが行っている研究会であり、研究会に参加することで専門職としての各自の自己成長を望み、期待し研究会を継続している理由の一つであるともいえる。
この問題解決能力スキルにより事業所の中で保健師・看護師の活動の理解が認められていくと確信している。自分の必要なスキルの一つとして求めないのかなと当時の印象が残っている。振り返ると個別事例解決に当たり、課長、部長、工場長と判断するレベルが異なる、それぞれの立場に対応するため事例を作り、関連図から意見の出し方を検討したりしたし、経営とは何と考えたくて、部長クラスが外部の教育を受けてくると教わったりしたが、産業組織での専門職が必要な条件である。もちろん、保健計画、指導、相談、教育等遂行できるという前提でということになると思っている。
(5)2005年(平成17年)から産業看護マトリックス研究会と改名
■2006年(平成18年)~2010年(平成22年)にかけてパソコン有効活用するための研究と検証の学会発表 第1報~第10報
現場の事例解析から、産業看護機能、産業看護展開する主領域、産業看護課題が整理され量が蓄積されたのでほぼ現実の産業看護活動を網羅できる産業看護課題が整理できたであろう。今後は、産業看護活動における意思決定へのマトリックス分析技法の検証をおこない、パソコンの有効活用で、直面する事例から一人でも問題解決職場の看護職が、問題解決のための方向性を見える化できるようにした。
パソコンの有効活用するための設計。基本構想、事例作成の標準化、産業看護組織の設計等 第1報~第10報を産業衛生学会で報告した。次の課題はパソコン活用による問題解決技法の習得のための教育システムの体制、運用である。
http://tokuteikenshin-hokensidou.jp/dantai/matrix.php
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