オピニオン/保健指導あれこれ
改めて公衆衛生看護とは

No.3 公衆衛生活動を担う保健師

日本保健師活動研究会会長
平野 かよ子
 はじめに

 公衆衛生を担う職種で最大多数を占めるのは保健師です。全国の保健所、市町村に配属されている保健師数1)は平成24年度末現在全国で45.645人です。

 保健師になるのは一般的には高等学校卒業後、3年間の看護師養課程を修了し看護師の免許を持ち、保健師養成機関で1年以上の公衆衛生看護の教育を受け保健師免許を取得しますが、現在の保健師免許取得者の97%は看護系大学卒業者です。平成27年度には大学院修士課程で保健師養成を行う大学が7校になり、高度専門職業人として養成する流れが始まってきています。

 保健師資格は昭和16年保健師規則の制定から始まり、昭和23年には保健師助産師看護師法で規定されるようになり、資格が制定されて今年で74年目を迎えます。

 図1に第2次大戦前からの保健師活動の領域の広がり1)を示しました(図1)。戦前の結核対策や蚊とハエのないまちづくり、母子保健等の予防活動から、昨今では生活習慣病、難病、虐待、自殺・うつ等のこころのケア対策、災害時保健活動、健康なまちづくり、健康増進計画をはじめとした各種計画の策定へと広がっています。

 このような保健師ではあるが、年々保健師の公衆衛生の理解が脆弱化し、公衆衛生マインドが継承し難いとの声が聴かれます。「公衆衛生」という言葉は、新型インフルエンザの流行やデング熱の派生が国内の問題になるとニュースで用いられますが、日常的には聞かれないものとなってきています。しかし保健師は"公衆衛生の担い手"でありたいと思い、その活動の基盤は「公衆衛生看護学」とし、保健師による公衆衛生の活動方法論を確立させようとしています。

 公衆衛生活動の担い手としての保健師

 公衆衛生看護学として公衆衛生活動を学んだ保健師は、ウインズローの公衆衛生の定義を学び、看護師が個々の患者のトータルな把握から始めるように、保健師は責任を持つ地域(職域)の全体を捉えることから始め、活動を組み立てる者と理解しています。

 また、地域で活動する保健師の活動の基本は、地図で地勢を捉え、地域にある社会資源の組織の全様を、地域で暮らす住民の生活の全体を捉えることであるとされています。地域の実情は保健統計からも把握しますが、日常業務での個別的な対応から個人の健康・生活問題を捉え、それが個別の支援で終わらせてよいかを洞察し、問題の本質を捉え、それを地域課題と設定します。問題解決のために組織内の関連部署と連携することは勿論、地域の住民や関係者とつながりネットワークを築いて協働し、「地域関係者の組織的努力で問題を解決する」という公衆衛生の定義を具現化しようとしています。

 そのプロセスでかかわる人々(住民や関係者)は、他者に問題解決を要望するのではなく、自らもできる範囲で問題解決の担い手となって主体的に取り組むようにエンパワメントされます。保健師は「地域の課題解決」と共に関わる者の「人材育成」の両者の目的を輻輳(ふくそう)させ同時並行的に展開します。

 また、公衆衛生活動は単に目の前に起きた問題を解決するだけではなく、なぜ、その問題が起きたのか、今後それが起きないように予防することを課題とします。

 事故発生へ対処としての問題解決行動ではなく、事故発生を未然に防ぐための投資行動であって、そこに公衆衛生の専門性があるとしています。未然に防ぐ力は個人だけが培うのではなく、家族全体あるいは集団が身に着け、さらに地域が全体としてその力を高めなければ予防は実現しません。「みんなはひとりのために、ひとりはみんなのために」という「公共性の理念」を持たなければ成立しません。

 様々な意見をもつ人々が目的を共有し、科学的な根拠を持ち寄り、さらにそれぞれの経験知を突き合わせ、解決策を話し合う過程で地域に即した方策が見出だされ、それについて合意を得て取り組みます。この話し合いの過程は民主的に運営されることを原則とし、公衆衛生活動は健康・生活課題の解決を通して民主主義を具現化するものです。

 多くの保健師は、公衆衛生が大事にしている理念と方法論は以上述べてきたものと確信していると思います。現実の保健福祉活動は法定業務が多く、トップダウンで示される基準に沿って事業を展開することが実際には多いといいます。

 しかしその中で捉えた個々の問題から問題の本質を捉え地域の課題に設定し、地域に即したボトムアップに解決する公衆衛生活動へと統合しています。こうした公衆衛生を担う保健師の活動方法論は日本公衆衛生学会が平成25~26年に収集した保健所と市町村の活動事例「21世紀の公衆衛生活動事例集」2)に収録されています。

 公衆衛生活動は行政だけで担うものではありません。支援やサービスの担い手だけで担うものでもありません。当事者を含めかかわることが望まれる人々が会して民主的に話し合い、合意を得て進める作業です。保健師は多職種や住民と共に、このプロセスを推進し地域社会の成熟の一端を担うことを専門性として行こうとしています。

<<引用文献>>
1. 井伊久美子他編、新版保健師業務要覧第3版、日本看護協会出版会、p3、2013.2
2. 日本公衆衛生学会公衆衛生看護あり方委員会第5期活動報告書、日本公衆衛生学会、2014.9

<<参考図書>>
1.奥山則子他編、踏みしめて七十年~保健師老人保健法施行後約30年間の激動の時代を支えた保健師活動の足跡~、日本公衆衛生協会、2013.2
2. 社会保障制度改革国民会議報告書、2013.8.6
3. 平野かよ子、公衆衛生における保健師のアイデンティティ、p14-17、公衆衛生Vol.79(1)、2015

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