改正労働施策総合推進法が成立 ハラスメント・女性活躍・両立支援を強化
2025年6月4日、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定および職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立した。
今回の改正により、ハラスメント防止策の強化、女性活躍推進制度の拡充、治療と仕事の両立支援の明確化が図られ、企業には一層の具体的な対応が求められる。
改正の背景と成立の経緯
厚生労働省は、労働政策審議会などでの議論を踏まえ、改正法案を第217国会(令和7年常会)に提出。5月20日に衆議院で修正可決、6月4日には参議院で可決・成立した。
この法改正の大きな柱は、①ハラスメント対策の強化、②女性活躍推進法の有効期限の延長を含む女性活躍の推進、③治療と仕事の両立支援の推進という3つである。
出典:厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の
一部を改正する法律案の概要」(令和7年3月11日提出)
ハラスメント対策を強化 カスハラ・就活セクハラへの対応を義務化
職場におけるハラスメントは、被害者の就業環境を悪化させ、心身に影響を及ぼすだけでなく、生産性低下や職場の雰囲気にも大きな影響を及ぼす深刻な問題だ。
2019年の法改正では、パワーハラスメント(パワハラ)防止措置が義務化され、大企業では2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から適用されている。
今回の改正では、それに加え、カスタマーハラスメント(カスハラ)防止策を追加した。条文では「何人も職場における就業環境を害する言動を行ってはならない」と明記している。
カスハラについては、加害者を顧客や取引先、施設利用者、その他の関係者などとし、「社会通念上、許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害する言動」などと定義した。そのうえで企業にカスハラ対策を義務付けている。
具体的な対策の内容は今後、厚労省がガイドラインを示すとしており、企業にはマニュアル整備や相談体制の構築が求められる見通しだ。
また、改正男女雇用機会均等法では、就活中の学生などに対するセクハラ防止を企業に義務付ける。面談時のルール策定や相談窓口の設置・周知などが義務となる方向で検討が進められている。
これらの施策は、いずれも公布日から1年6か月以内に施行される予定だ。
女性活躍推進法を延長・強化 賃金差異の開示義務など拡大
改正の2つ目の柱は、女性活躍の推進だ。
女性活躍推進法は、当初10年間の時限立法として制定され、2025年度末(2026年3月末)で期限を迎える。今回の改正でそれをさらに10年延長し2036年3月31日までとした。
また、男女間賃金差異・女性管理職比率の情報公表を、常時雇用する労働者数101人以上の一般事業主及び特定事業主に義務付ける(2026年4月1日施行)ことも定められた。
加えて「女性活躍の推進に関する取組が特に優良な事業主に対する特例認定制度(プラチナえるぼし)」の認定要件に、求職者等に対するセクシャルハラスメント防止に係る措置の内容を公表していることを追加するとしている(公布日から1年6か月以内に施行)。
ちなみに、先ごろ世界経済フォーラム(WEF)が発表した、世界各国の「男女平等」の達成率を指数化した2025年版「ジェンダーギャップ報告書」によると、日本は対象148か国のうち118位で、平等の実現には123年かかるとの報告があった。格差の改善・是正は強く求められている。
治療と仕事の両立支援を明文化 企業に努力義務を課す
3つ目の柱は、治療と仕事の両立支援の推進である。
高齢者の就労の増加や医療技術の進歩により、何らかの疾患で通院しながら働く人の割合は4割に上るとされ、今後も増加すると予想される。
こうした状況を踏まえ、2018年に労働施策総合推進法が公布され、治療と仕事の両立支援は、国が総合的に講じるべき施策として位置付けられた。
厚労省はガイドラインやマニュアルを作成するなど両立支援の推進を図ってきた。企業側でも働きながら治療を続ける人の就業環境の整備なども進められている。
今回の改正法では、企業の任意対応であった両立支援が強化され、「事業者の努力義務」として、必要な措置を講じることが法的に位置付けられたのが大きなポイントだ。
こちらも公布日から1年6か月以内の施行とされている。
改正法を受け、日本労働組合総連合会(連合)の清水秀行事務局長は「さらなる女性活躍の推進に向けた情報公表義務の拡大や、ハラスメント対策、治療と仕事の両立支援が強化されることは、人権が尊重され、誰もが安心・安全に働き、活躍できる社会を実現する観点から評価できる」と談話を出した。
今後、厚労省による省令改正やガイドラインの具体化が進められる。企業や産業保健スタッフは、それらをしっかり把握し、従業員が安心して働くことができる職場づくりを一歩ずつ進めていくことが求められる。
参考資料
第217回国会(令和7年常会)提出法律案|厚生労働省
令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について|厚生労働省
第80回労働政策審議会雇用環境・均等分科会|厚生労働省
第174回労働政策審議会安全衛生分科会(資料) |厚生労働省
「ハラスメント基本情報」ハラスメントの定義|あかるい職場応援団
女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)|厚生労働省
治療と仕事の両立について |厚生労働省
日本労働組合総連合会(連合)


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