オピニオン/保健指導あれこれ
地域での看取り
No.7 高齢者の看取りのあり方
看護師、社会福祉士、介護支援専門員、MBA(経営学修士)
2016年08月08日
1.自然な看取り
89歳のTさんは、2008年に入所した脳出血による後遺症のある介護度4の入所者です。施設生活も6年目に入り、徐々に機能低下が進み、食べ物や飲み物を飲み込む力が弱くなったことから終末期であるという共通認識を家族と共に行いました。ときおり、発熱などがあり誤嚥性肺炎(食べものや、だ液が気管に入ることが原因でおこる肺炎)の可能性が高くなりました。
飲み込む力が弱り誤嚥をしている限り、治療してもまた、肺炎を繰り返すことが予測されます。また、Tさんは6年にわたり寝たきりに近い状態であったことや、コミュニケーションがとれず、認知症による不穏症状もあったことから、胃ろうなどの延命治療は望まないと決断され、看取り介護をおこなうことになりました。
肺炎の治療は内服薬を使用することと、とろみをつけた水分や栄養補助食品を可能な範囲で食べていただくことにしました。居室内での生活が多くなりましたが、最期までストレッチャー(特殊機械浴)で気持ちよく入浴し、枯れるように自然に亡くなることができました。息子さん夫婦をはじめ親族は頻回に面会にこられていましたが、たまたま家に帰られたあとにTさんは安らかに旅立たれました。
2.後悔のない看取りとは
Tさんのように、最後は肺炎を繰り返す方は少なくありません。施設内でも点滴や内服薬での治療を行いますが、最期までご本人にとって苦しくない、辛くない生活とはいかにあるべきかを最も大切に考えます。自分が高齢者となり十分に生きてきたと考えるなら、次にはどのように死にたいかを考える必要があると思います。人として尊厳のある人生を最期まで生きたいと願うからこそ、配偶者や子供にゆだねるのではなく、自分でどのように死にたいか、つまりは「最期までどのように生きたいか」を考えなければならないのではないでしょうか。
そして、最も大切にされるべきは「本人にとって最善の看取りをする」ことだと考えます。安心できる環境で生活し、痛みや不安が無く穏やかに眠るように逝くことが望まれます。つまり、住み慣れた安心できる場所で、身近で馴染みのある人々に支えられ苦痛なく、朦朧とする意識の中に身をゆだねることができる最期となることが理想だと言えます。
写真:終末期の患者さんから語られることは少ないが、
看護師は思いを読み取ろうと表情を観察します。
(特養の看護師と入所者様)
3.家族の思いを支える
先日開催した遺族の集まりでは、ほとんどの方が老人ホームでの看取りに感謝の気持ちを持っておられ、後悔の言葉はほとんど聞かれませんでした。「家族だけでは十分看取ることができなかったと思うが施設の介護職員さんや医師、看護師さんの助けがあったからこそ、最期までここで過ごすことができたと思う」と述べておられます。今の家族は「死にゆく過程」を全く経験していないことが伺えます。食べなくなったらどうなるのか、意識がなくなった大切な人に何をすればいいのか、わからないまま不安ばかりが募っていきます。
そんな家族を支えるのが施設の介護職員や看護師、医師の役割になります。家族は、何もできないのではなく、死にゆく過程のありのままの状態を受け入れ、そばにいてもらうようにします。もし、死の瞬間に間に合わなくてもご本人が満足して、家族に感謝していたことを伝えます。
4.エンド・オブ・ライフの考え方
親や配偶者の看取りを経験してもなお、自分のエンド・オブ・ライフについて具体的に考えている方は少ないといえます。それは、まだ自分の健康が脅かされることを実感していないからでしょう。誰でも病の宣告を受けたとき、ショックを感じ、「なぜ自分なの?」「なぜ今なの?」「何が悪かったの?」と複雑な気持ちで受け止めます。平均寿命を過ぎても、まだやりたいことがあるし、死ぬのは怖い、まだ生きていたいと願うのは自然な感情だと思います。
しかし高齢になり、活動量が減り、寝ていることが多くなり、また、食事ができなくなり、体重が減るなど、老化と共に生活の状況が変化してきた時は、そろそろ「人生のしまい方」を考えるときに来ているといえます。その時と、何らかの病気とが重なることが往々にしてあるということを受け止めなければなりません。
次回は尊厳死について説明します。
<参考文献>1)厚生労働省:高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者介護」~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~.2003
2)厚生労働省:終末期医療の決定に関するガイドライン.2007 ■共同著者 栗岡 住子(保健師、産業カウンセラー、MBA、医学博士) 詳細はこちら≫(オピニオン連載)公衆衛生看護に必要なマネジメント
「地域での看取り」もくじ
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