オピニオン/保健指導あれこれ
地域での看取り
No.9 日本人の死生観
看護師、社会福祉士、介護支援専門員、MBA(経営学修士)
2016年09月12日
写真:高齢者と看護師の心と心が通じ合う瞬間
1.「死を口にすることは」縁起でもないこと
医療の現場では治療に対する説明をインフォームドコンセントと言い、主治医から現状と今後の治療の方針を聞くことがあります。可能な治療と効果、リスクについて説明を受けても専門用語が多いと理解しずらく、なんとなくわかったような気になって同意してしまいます。一方で、セカンドオピニオンとして別の医療機関や医師に相談するこにより、病気の理解が深まり、治療方法の選択肢がひろがることもあります。
しかし、医師や看護師は「死」を口にすることはほとんどありません。病院では生きるための治療やケアが中心となるため「死」を口にすることは本人・家族の希望を損なうことになると考えます。さらに医療者は治療やケアの専門家であって「死」の専門家ではないのでそこに立ち入ることを避けてしまいます。
2.人生50年から人生90年時代へ
昭和20年頃までは人生50年と言われ、家制度のなかで子供や孫といった家族に囲まれて最期を迎えたご老人が多く、子供のころから死は身近な存在でした。それほど医療が発達していたわけではないので町のお医者さんが死亡を確認して、親族や隣近所の人に見送られ、お墓に埋葬されるまでの過程を経験して生から死への営みを自然に受け入れていました。
しかし、人生90年時代は、生と死の間に病や介護といった課題に直面するようになります。仏教用語に「生老病死」と言う言葉がありますが、ポックリと死ぬことは難しく、老化や病といった避けられないハードルが現れます。私たちはこのハードルを避けては通れないので、初めての体験として頑張るしかないのが現状です。
3.死生観は自然観
京都ではお盆の終わりに大文字焼きで有名な五山の送り火という行事が行われます。亡くなった方の魂がお盆の間は家のお仏壇に帰ってきて皆を見守り、お盆が終わるとまた、あの世に帰っていくという言い伝えで、あの世を五山、この世を京都の市内に見立てた祭りごとです。
多くの日本人にとっては死後の世界を「あの世」、今いる世界を「この世」と区別していますが、お盆になると魂が行ったり来たりするというような繋がりがあり、私たちを取り巻いている山や森や土に帰るという自然感があると考えられています。命は自然の営みから生まれ、自然に帰るのだと考えれば、死は苦しいことや怖いことではなく、もとに戻ることであり、またこの世に帰ってきて私たちをいつまでも見守ってくれるのだと考えることができます。
4.自然な看取りのとき
安らかな死を迎えようとしている高齢者は、余分な水分及び脂肪や筋肉を燃焼し、痩せていきますが命の指標となる心臓の動きはむしろ楽になっていると言われます。少しずつ力が弱って行き、最後は眠るように静かに呼吸が止まります。元気な時とは表情が違うため戸惑う家族もいますが草花が枯れるときを想像してみるとわかるように最後は細く、小さくなっていく経過と同じです。
自然な死を迎えようとするとき、それまで病気や障害など患者を苦しめていた症状は息をひそめ、ただ自然に最期のときを生かされているのだと感じることができます。医療に頼ることがなくても、安らかな「死」を迎えることができるし、むしろ医療がないからこそ尊厳のある「死」を迎えることができるのではないかと考えます。
最終回は親を看取る時のサポートについて、ご紹介します。
<参考文献>1)山折哲雄「文化としての看取り」BasicEye Vol.10 No1 2014
2)須田治「老病死(いのち」の寺」―現代仏教にみる看取りの風景 川辺書林2000
3)中村仁一「大往生したけりゃ医療と関わるな『自然死』のすすめ」幻冬舎2012 ■共同著者 栗岡 住子(保健師、産業カウンセラー、MBA、医学博士) 詳細はこちら≫(オピニオン連載)公衆衛生看護に必要なマネジメント
「地域での看取り」もくじ
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