オピニオン/保健指導あれこれ
保健師スピリッツと実践活動
No.2 測る、見る、知る
長野県看護大学名誉教授、 鹿児島大学医学部客員研究員
2016年10月07日
サーベイメータで放射線の存在を知る
放射線は五感に触れないので、その存在を直接感じることはできません。しかし、測定器によって、手軽に正確に測ることができます。「サーベイメータ」と呼ぶ携帯型の測定器は、原子力災害以降、人々にすっかり馴染み深いものになっており、保健所などに貸与している自治体もあります。
サーベイメータのスイッチを入れ、測定可能な状態になると、ピコピコという音と共に針や数値の動きで放射線の存在と共に次のことを知らせてくれます。
(1) 指針はゼロにはならない
-これは、身のまわりには自然放射線がいつでもどこにでも存在しているからです。
(2) 指針は絶えず振れている
-体重計などの指針は一定の値を示すと静止するのに、サーベイメータの指針は静止することがありません。これは、放射線は規則的ではなくランダムに出るためです。
以上から、「値が毎日変わる」理由がおわかりですね。
自然放射線による被ばく
測定器は必ず自然放射線も一緒に測っています。
人は誰でも自然放射線によって常に被ばくしており、日本では自然放射線による我々の被ばく線量は1年間に約2ミリシーベルト(2mSv)です。CTやX線撮影などの診断による被ばく、あるいは原子力事故による地域住民の被ばくなど、様々な被ばく線量が実測され、公表されています。それらによる被ばくの大きさは、自然放射線による2ミリシーベルトという値と比較すると、理解しやすいし、人々への説明にも役立ちます。
国連科学委員会2008年報告と、原子力安全研究協会「生活環境放射線」
平成23年より作成
図は、世界と日本の公衆の平均被ばく線量です。その内訳は自然放射線と診断被ばくに大別されますが、日本は世界平均に比べて診断被ばくがとくに多いことが特徴です。放射線診断は医療に欠かせないのですが、被ばくは一層少なくすることが求められます。
自然放射線被ばくの内訳は次の4つです。
1. 自然放射性物質のラドンやトロンの吸入による内部被ばく
2. 自然放射性物質のカリウム40等を食品から摂取することによる内部被ばく
3. 大地に含まれる自然放射性物質からの外部被ばく
4. 宇宙線からの外部被ばく
自然放射線と人工放射線の健康影響は同じ
自然放射線でも、医療や原発事故などによる人工放射線でも、線量が同じであれば影響は同じです。
世界には土壌に含まれる自然放射性物質の量が多いために、自然放射線による被ばくが10ミリシーベルト/年を超える地域があります(インドのケララ州、ブラジルのガラバリ市、アメリカのデンバーなど)。これら地域の住民について大規模な健康調査が行われていますが、他の地域との差は認められていません。
放射線の演習
私たちは、原子力災害の教訓から、保健師学生に放射線の授業を行っています。全体で2コマ(180分)で、そのうちの1コマを放射線の測定演習にあてています(写真)。上述の看護職の会話から、測定演習が不可欠と気付かされたからです。
学生は、放射線が絶えず変動しながら存在していることを、サーベイメータの音でピコピコ実感し、「福島の問題はとても遠いところの話だと思っていたけれど、私達も実際に浴びて生活していると知ると、もっと知りたい、知ってよかった」等と述べ、すごい変化を見せています。
そして、今回登場した2人の看護職の対話について意見をきくと、「一般の人がもしきいていたら、やっぱり放射線は怖いということだけが伝わることになる」、「もし怖いと思うなら、その理由をきちんと言えないとダメ」と、専門職の発言が社会に与える影響に思いをはせていました。
保健師学生の放射線測定演習
サーベイメータの有効利用
サーベイメータは放射線を知る不可欠なツールです。しかし高価であり、国内有効利用を積極的に進めることが大切と思います。たとえば、サーベイメータの下取りシステムはどうでしょうか。原子力災害被災地では除染が進み、除染対象区域が狭まってきました。これに伴い、除染で使われた膨大な数のサーベイメータが余る訳です。それを販売店等で下取りし、保健所や教育機関に安く販売してほしいです。実現されることを切に望んでいます。
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