オピニオン/保健指導あれこれ
公衆衛生医、骨折で入院しました

No.1 入院からリハビリまで

公衆衛生医
鈴木 忠義
 昭和36年、医師免許を得てすぐに保健所医師として勤務して55年、最初の15年間ほど赤痢患者に、結核患者に、精神障害者になど数知れない人々に入院を指示してきました。

 家族では妻の乳がん切除(32年前)と卵巣がん切除(22年前)、その後の抗がん剤治療を繰り返して死までのほぼ5年間入院に付き添った経験があります。

 さらに、はるか昔、母の乳がん治療に付き添いました。昭和27年戦後復興も未だの国立東京第二病院(旧軍病院)の病室でした。付き添い用の設備などないから母の鉄製のベッドに添い寝して、二晩目に転げ落ちました。さすがに母は「もういいから帰りな」と言いました。

 でも私自身の入院は35歳時の虫垂炎切除(一週間)、2年前の左肺尖部腫瘍疑いで胸腔鏡下切除(8日間、結果は結核性)の経験しかありません。

 余談ですがこの母の乳がんの経験が医師志望の原点です。だが学費のため就職した保健所の医師1年目、ポリオの大流行阻止のために日本国中が生ワクチン一斉投与に取り組みました。

 投与は6月下旬から始まったのですが一か月ほどで患者発生が下向きになり始め、年間で前年の半数、翌年はさらに下がって20分の1になりました。発症、診断、治療という臨床が不要になる公衆衛生の実力を認識し私は臨床医を捨てました。

そんな私が今回72日間におよぶ入院を経験することになったのです!

 自分自身の入院生活の中、改めて、学生、インターン時代の病室経験を思い出しながら、時代の変化した部分、変わらぬ部分を心の中で比較しつつ過ごしました。


 入院まで

 2月25日夜、転倒、股関節受傷。翌日受診、経過観察しつつ、3月9日に入院し5日後の14日に右大腿骨頚部離断による人工骨頭置換術を受けました。人生初の本格的入院経験です。手術施行はM病院。3週間後、Nリハビリテーション病院に転院しました。

 両病院とも改築したばかりや新築まもない故もあってキレイだし入院生活の物理的環境は予想以上に快適でした。病室の水回りは窓がわに配置され、廊下がわにクローゼットと引き戸です。これは肺切を受けた県立がんセンターも同様の構造でした。例えば入り口を開けるとカーテンを少し動かすだけで患者が視野に入ります。

 ベットの頭側壁面は配管類がセットされています。この状態は特に就寝時の回診に効果的であると思われます。エアコンは適切に管理され3月中旬とはいえパジャマ1枚だけで起きても寝ても快適でした。

 医学的には、術後翌日はすでにリハビリテーションの準備が始まり、車いすへの移乗やトイレへの移動と便器への着座などが課せられました。最初は看護師の介助がありましたが4・5日で独立させられました。

 それからほぼ2週間、車いすや歩行器を使って歩行訓練とリハビリテーション。リハ室へは3日ほどは看護助手の送り迎え介助付きでしたが以後は車や歩行器の自力走行が期待されたのでした。20日間で転院を指示されました。

 リハビリテーション

 施術病院では、リハは患者の大腿、下腿のマッサージ、股関節の腹側屈伸の繰り返しや内側や外側への運動、また左右への回旋などが主でしたが後半は平行棒を使った直線歩行や方向転換が課せられました。健康者が受傷し、その外傷の治療や看護・リハビリテーションは公衆衛生医の私にはまったくもって物珍しく担当の看護師・運動療法士さんたちを質問攻めにしました。

 会話の中で驚いたことは看護師でさえ保健所に医師がいることは予想外だったらしく、ほぼ全員がこう聞いてきました。

「それで何科の先生だったんですか?」
私は「ゼンカ(全科/前科)」と答えました。

このやや皮肉めいた意味は人間の健康問題すべてを扱うということでした。

 しかし、健康者が骨折して治療する類いはほとんど例外で、今回の受傷は自分の知識経験から最も遠い領域の事柄でした。だからこそ、術後の諸注意やリハビリテーションの一つ一つの動きや目的を知りたいと思い図解した絵が欲しかったのです。でも、そういう絵解きのようなものも言葉で説明することもほとんどありませんでした。

 例えば、このような図解があればわかりやすいと思いました。


【指導図/蜂谷 將史先生】


 私は医療とは個々の医療技術を習得し、駆使することも大切ですが、もっと重要なことは「患者の心に寄り添うこと」ではないかと考えてきました。今扱っている患者が何を考え、何を知りたいか、という認識こそ医療の根源であるというのが公衆衛生医としての私の原点であり、衛生行政の中での私の大きな課題であったのでした。だがそれに迫る医療者は多くはないという事実をあらためて認識しました。

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