オピニオン/保健指導あれこれ
笑いと健康長寿

No.1 笑いの健康効果 -笑いましょう

岐阜薬科大学名誉教授、岐阜保健短期大学教授兼学長
永井 博弌
 「笑い」
 笑いは人間の生活で最もありふれた、一般的には好ましい行為の一つ。アリストテレスは「笑いは人間に与えられた特権」と言ったが、ダーウインは「霊長類も笑う」と反論した。サルやチンパンジーなどが笑うかどうかは大変興味深いが、ヒトは必ず笑う。ヒトの笑いについては古今より多くの研究がある。哲学的には諸説紛紛だが、医学生理学には健康に良いものとして科学的解明が進んでいる。今回はその成果を日常生活や保健活動に活用できるのではないかと思い寄稿した。

 子供は一日に300~400回、大人は10~20回笑うと言われている。しかし、高齢者やある種の患者さんは一日中ほとんど笑わないヒトがいる。一般的な笑いは「可笑しさ」と言う感覚刺激に対する身体反応であり、視覚、聴覚、あるいは思考の刺激を受けて大脳の前頭野や側頭野、あるいは辺縁系の扁桃核や視床下部が刺激されて生じるとされている。笑いが少なくなったヒトはこの経路のどこかが鈍化しているのであろう。このような笑いの少ないヒトに保健指導や治療の目的で笑いを誘発させるためには、積極的に「可笑しさ」を導入する必要がある。

 「笑い」の誘発方法
 健康に良いからと言って笑いが不足している人に自発的な笑いを起こすことは難しい。方法としてこれまで、良く知られているものは表のようなものである。

 この表は、笑いを疾患治療の手段(Laughter therapy)にした場合の例をまとめたもの。

 まず、ホスピタル・クラウンと呼ばれる笑いによる治療に専念する「道化師役の医療スタッフ」が挙げられる。アメリカの精神科医ハンター・アダムスが提唱し、専門家としてのトレーニングを受けた者しかなれない。通常の「道化師」教育のほかに医療の知識が必要である。1980年代にアメリカから始まり、全世界に広がった。日本でも名古屋の大棟先生らが先駆的な活躍をされている。麻酔導入時にホスピタル・クラウンがいることで子供の不安が減少したことや、高齢者、認知症患者、精神疾患患者の生活改善に有用なことが報告されている。医師や看護師の場合、日常の診療にユーモアや笑いをとり入れるよう努力している先生も多いが、なかなかクラウンとして専任することは難しい。しかし、その中でクラウン専任として働かれる貴重な医師もおられる。その先生方はクラウン・ドクターとよばれている。

 二番目はコメディー映画やコメディービデオである。チャップリンやエデフィー・マーフィーのみならず日本の喜劇映画が使われている。笑いを誘発するには最も手軽な方法である。ビデオショップやテレビ番組にはコメディー専用の棚や枠があり、ここから良いと思ったものを選んで使うことができる。可笑しさとヒユーマニティーやサスペンスを組み合わせたものもあり、感動やときめきをも期待でき、選択の幅が広い。

 また、日本では漫才や落語などの話芸が笑いの文化として根付いている。これらは日本独特のもので戦国時代の御伽衆の語る滑稽話が起源。加えて、日本各地には「笑いの神事」を執り行っている神社も多く、文化として根付いているので日本人には受け入れやすい。これらの話芸は江戸時代に、上方と江戸でそれぞれ独自の発展を遂げたが、いずれも笑いのセンスや健康効果は同等である。劇場に出かけて観賞するのも良いし、ビデオやカッセットテープを利用しても良い。日本人にはイチオシの方法である。

 もう一つよく用いられるのは笑いヨガ。昨年(2015)テレビ番組でも紹介されて一躍有名になった。笑いとヨガの腹式呼吸を組み合わせたもの。20年ほど前にインドから始まり、世界中に広まっている。日本でも健康効果を期待して多くの試みがなされている。各地に教室があるので、そこに参加して経験することができる。

 このように笑いの誘発方法はいろいろであるが、目的によって方法を選んで工夫すれば効果は上がる。

 「笑い」は作り笑いでも効果がある、また、笑いは伝染する
 もともと笑いには単に笑顔だけの笑いもあれば「ワハハ、ハハ」と大声で腹を抱えた笑いもある。笑いの種類はいろいろだが、笑いはたとえ作り笑いでも効果があり、ワハハと声を出して笑うとさらに効果は増すとされている。

 米国、ウエイン州立大学では1952年にプロ野球選手になった230人を対象に笑いの寿命への影響に関する研究が行われた。2009年までの平均寿命についての結果はよく笑うヒトは79.9歳、作り笑いをするヒトは74.9歳、笑わないヒトは72.9歳となった。このように笑うヒトは最も寿命が延びたが、作り笑いでも効果があることが証明された。別の研究でも作り笑いにより脳神経系や循環器系が活発になるという科学的データーも出ている。声を出して笑えば、さらに効果的であるようだが、自発的な笑いが減ってくる高齢者、特に男性では日常生活の中で作り笑いやコメディー番組を見るなどの「笑う努力」は健康上、心がけると良い。

 また、笑いを保健指導や治療に応用するときは、それを実践する本人が明るく、大声で笑うトレーニングをすることが大切。有名な清涼飲料水のコマーシャルに地下鉄の車内でターブレット端末を見ていた青年が、画面を見ながら笑い出すと、乗客がみな笑い出すというものがあった。笑いは伝染するのである。

 もし、自分が健康指導の目的で笑いの発生源となる時には明るい笑いが何よりも必要である。このためには毎朝、鏡を見て笑う練習をすることが大切。自身のためにも、周囲のヒトのためにも良いことである。笑いを健康指導の選択肢に加えて笑いの輪を広げていきたいものである。

 大いに笑いましょう!!

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