【日本食はメンタルヘルス改善に有用】食事が日本食パターンの人はうつ病が少ない 日本企業の1.2万人超の勤労者を調査

食事が心の健康を保つ手段のひとつに
うつ病は、労働者の生産性低下や長期欠勤の原因として深刻な社会問題になっている。心の健康を保つ手段のひとつとして、「食事」に注目が集まっており、欧米では地中海食などの特定の食事パターンが抑うつのリスクを下げることが報告されているが、日本の伝統的な食習慣との関連については、これまで十分に検討されていなかった。
そこで国立健康危機管理研究機構(JIHS)などの研究グループは、職域多施設研究「J-ECOHスタディ」に2018~2020年に参加した、5つの企業に勤務する従業員1万2,499人の生活習慣データについて、日本食パターンと抑うつ症状との関連を調査した。
J-ECOHスタディは、関東・東海の企業10数社の約10万人の勤労者が参加している職域多施設研究。働く世代の生活習慣病や関連する疾患の実態や要因などを明らかにし、その予防や管理を改善することを目的に実施されている。
日本食パターンの人は抑うつ症状が少ないという結果に
その結果、いずれの食事パターンでもスコアが高い群ほど、抑うつ症状の有症率比が段階的に低くなる傾向がみられた。
スコアがもっとも低い群に比べて、もっとも高い群では、抑うつ症状の有症率比は、伝統的日本食スコアで0.83[95%信頼区間 0.80~0.86]、改良型日本食スコアで0.80[同 0.76~0.8]になった。抑うつとの関連は両食事パターンで明らかな違いはみられなかった。
なお、調査の参加者1万2,499人の88%は男性で、平均年齢は42.5歳で、全体の30.9%に抑うつ症状が認められた。
なぜ日本食はメンタルヘルス改善に有用? メカニズムは?
今回の研究は、日本の伝統的な食パターンをスコア化し、抑うつとの関連について、日本の企業の勤労者を対象に調べたはじめてのものとしている。
日本食をとっている人はうつ病が少ない傾向があることについて、疫学的な関連を裏付けるメカニズムとして、研究者は次のことを指摘している。
- 海藻、大豆食品、野菜に含まれる葉酸は、セロトニンやドーパミンといった脳内の神経伝達物質の合成を助ける。
- 脂の多い魚に豊富に含まれるn-3系脂肪酸には、抗炎症作用があり、神経伝達物質の働きをサポートする。
- 緑黄色野菜、緑茶、納豆や味噌などの発酵食品に含まれる抗酸化物質は、脳に悪影響を与える酸化ストレスを軽減する。
- 海藻、野菜、大豆食品、キノコ類に豊富に含まれる食物繊維は、腸内細菌のバランスを整え、抗炎症作用やセロトニン産生を促進する作用のある短鎖脂肪酸を増やし、抑うつ症状を緩和する。
- 日本食に特徴的な「うま味」成分が、副交感神経を亢進させ、心理的な安定をもたらしている可能性もある。
日本食には心の健康を支える働きがある? 前向き研究による検証が必要
研究は、国立健康危機管理研究機構(JIHS)臨床研究センター疫学・予防研究部の三宅遥上級研究員、溝上哲也部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載された。
研究グループは今回、独自に開発した簡易食事調査票を用いて、白米、味噌汁、大豆食品、調理野菜、キノコ類、海藻、魚、塩分の多い食品、緑茶の摂取状況にもとづいて、「伝統的日本食スコア」を作成。
これに、日本人が不足しがちな食品(牛乳・乳製品、果物、生野菜)を追加し、白米を精製度の低い穀類に置き換え、塩分の多い食品の得点を反転させて、「改良型日本食スコア」も作成した。
さらに抑うつ症状について、自己記入式の抑うつ評価尺度の短縮版であるCES-D11項目版を用いて調べた。食事以外の要因の影響をできるだけ取り除いて、食スコアと抑うつとの関連を解析した。
「今回、勤労者を対象にした大規模な疫学研究により、日本食には心の健康を支える働きがあるという仮説を支持する結果が得られました。前向き研究による検証が必要ですが、日本人におけるエビデンス(科学的証拠)として、抑うつの予防に関する職域や地域での公衆衛生対策の一助となることが期待されます」と、研究者は述べている。
国立国際医療研究センター 臨床研究センター 疫学・予防研究部
職域多施設研究(J-ECOHスタディ)
Association between the Japanese-style diet and low prevalence of depressive symptoms: Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study (Psychiatry and Clinical Neurosciences 2025年6月16日)


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