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生活改善により糖尿病予備群から脱出 就労世代の1~2割が予備群 未病の段階から取り組むことが大切 日本の企業で働く1万人超を調査

 健康的な生活習慣を続けている人ほど、糖尿病予備群のリスクが減少することが、日本の企業の従業員を対象とした大規模職域コホート研究で明らかになった。

 糖尿病と診断される前の段階から、食事や運動、飲酒などのライフスタイルを見直すことが大切であることが示された。

 研究グループは、職域コホート研究「J-ECOHスタディ」の運動疫学サブコホートに参加者した労働者1万人超を、最大8年間追跡して調査した。

糖尿病予備群の段階で心筋梗塞や脳梗塞などのリスクは上昇

 糖尿病予備群は、糖尿病と診断されるほど血糖値は高くないが、正常値に比べると高めであり、将来に2型糖尿病を発症するリスクが高い状態。日本の就労世代の1~2割が糖尿病予備群で、10人に1人の割合で毎年、糖尿病に進行するとみられている。

 糖尿病予備群の段階で、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクは上昇しており、就労世代での死亡リスクの上昇と関連することも報告されている。

 「まだ糖尿病になったわけではないから、いますぐ食事を改善したり、運動をする必要はない」などと考え、油断していると、取り返しのつかないことになるおそれがある。

 日本では、2型糖尿病になる前の段階は「予備群」や「境界型」と呼ばれているが、海外では糖尿病の前段階であり積極的な対策が必要という意味を強めて「前糖尿病」(prediabetes)と呼ばれている。

 米国糖尿病学会(ADA)は前糖尿病を、空腹時血糖値が100〜125mg/dL、負荷後2時間血糖値が140〜199mg/dL、1~2ヵ月の血糖の平均をあらわすHbA1cが5.7〜6.4%と定義している。

生活改善に取り組んだ人は前糖尿病リスクが減少

 横浜市立大学の研究グループは、日本の職域コホート研究「J-ECOHスタディ」の運動疫学サブコホートに参加者した、研究開始時に血糖値が正常と判定された労働者1万人超を、最大8年間追跡して調査した。全体的な生活習慣について、喫煙・飲酒・運動・睡眠・肥満の5つで評価した。

 このサブコホートでは、J-ECOHスタディに参加する大企業のうち、身体活動・運動についての情報が多い企業1社の従業員約5万人を対象に、大規模職域コホート研究を行い、参加者が毎年受診する定期健康診断の情報を用いて、長期的な健康影響を追跡して調査している。

 その結果、健康的な生活習慣を続けている人ほど、前糖尿病のリスクが減少することが明らかになった。もっとも健康的な生活習慣を続けた群では、不健康な生活習慣を続けた群に比べ、前糖尿病のリスクは26%低かった。

 さらに、もともとは不健康な生活をしていたという人でも、途中で生活改善に取り組むと、前糖尿病のリスクは18%低下することも確認された。

もっとも健康的な生活習慣を続けた群では前糖尿病のリスクは26%減少
生活習慣の推移パターンと前糖尿病発症リスク
出典:横浜市立大学、2025年

未病の段階からの生活習慣を管理することが重要 企業も取り組みの後押しも

 米国では18歳以上の成人の38%が前糖尿病と推定されている。日本でも、働いている成人のうち、空腹時血糖値のみで前糖尿病の基準を満たす人は13%、HbA1cのみで基準を満たす人は20%という報告があるという。

 糖尿病と診断される前の段階から、食事や運動などのライフスタイルを見直すことが大切だ。生活習慣のうち、喫煙や過度の飲酒などは前糖尿病のリスクを高めるが、適度な運動を行う習慣や適正体重の維持、十分な睡眠時間の確保などはリスクの低減につながることが知られている。

 「今回の研究では、複数の生活習慣を総合的に評価し、それらの長期的な変化と前糖尿病発症リスクとの関連を検討することができました」と、研究者は述べている。

 「健康な人では軽視されがちな"未病の段階からの生活習慣管理"の重要性を示すものであり、今後の取り組みの後押しになると期待されます」。

 「就労世代では、健診などで血糖値は正常と判定された人でも、未病の段階から生活習慣の管理に取り組む一次予防が重要であり、企業は従業員の取り組みを後押ししていくことが期待されます」としている。

生活改善は将来の糖尿病のリスクを下げる有効な手段に

 研究は、横浜市立大学医学部公衆衛生学・大学院データサイエンス研究科の桑原恵介准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Communications Medicine」に発表された。

 今回の研究の主な内容は次の通り――。

対象 30~64歳の就労者のうち、2009年度(平成21年度)時点で血糖値が正常範囲(糖尿病および前糖尿病のない)であった10,773人(男性8,986人、女性1,787人)
追跡期間 最大8年間(2009年度~2017年度)
生活習慣の評価 喫煙、飲酒、運動習慣、睡眠時間、肥満の有無の5項目について、定期健診時の問診または測定値(身長・体重)から評価
健康的な生活習慣スコアの計算 上述の5項目に対し、「健康的な習慣(1点)」「不健康な習慣(0点)」とし健康的な生活習慣スコア(計0~5点)を算出
健康的な習慣は、(1) 非喫煙または禁煙、(2) 多量飲酒(男性は1日46 g以上、女性は1日23 g以上のアルコール摂取)なし、(3) 週に7.5メッツ・時以上の運動(例:週に2時間以上のウォーキング)あり、(4) BMIが25未満であること、(5) 睡眠時間が1日に7時間以上であることと定義
前糖尿病発症の定義 空腹時血糖値 100~125mg/dLまたはHbA1c値 5.7~6.4% の基準を満たした場合を「前糖尿病」と判定(米国糖尿病学会の基準による)
統計解析 2006~2009年の健康的な生活習慣スコアの推移を集団軌跡モデリングで解析し、スコアの推移パターンから対象者を以下の5つのグループに分類
  (1) とても不健康(維持):平均的に1点
  (2) 不健康(維持):平均的に約2点
  (3) 不健康 → 中程度の健康(改善):2点から3点に増加
  (4) 中程度の健康(維持):平均的に3点
  (5) とても健康(維持):平均的に4点弱
さらに、コックス比例ハザードモデルを用いて、生活習慣パターンごとに前糖尿病発症のハザード比を算出し、パターンと前糖尿病発症リスクの関連を検討
解析にあたっては、年齢、性別、職種、残業時間、交代勤務の有無、通勤時の歩行時間、高血圧、糖尿病の家族歴などの背景因子を統計的に調整し、それらの影響をできる限り除外
主な結果
  • 対象者1万773人のうち、追跡期間中に6,935人が前糖尿病と判定された(累積発症割合 64.4%)。
  • 生活習慣スコアの推移パターン別に発症リスクを比較したところ、生活習慣が「健康的」である度合いが高かったグループほど、前糖尿病の発症リスクが低いことが明らかになった。
  • 「とても不健康な生活が続いた」グループに対し、前糖尿病発症の調整ハザード比は「不健康な生活が続いた」グループで0.92、「不健康から中程度に健康的な生活に改善した」グループで0.82、「中程度に健康的な生活を続けた」グループでは0.83、「とても健康的な生活を続けた」グループでは0.74となった。

生活習慣を改善できた人は4%と非常に少数
健診で正常値が出ていても安心しないで健康的な生活習慣を

 「長期にわたり健康的な生活習慣を維持し続けることが、前糖尿病の発症リスク低減につながることが示されました。また、完全に健康的とは言えないまでも、生活習慣をより健康的な方向に改善できれば、健康リスクを減らせることも確認されました」と、研究者は述べている。

 研究結果から、たとえ健康診断の血糖が正常値であっても、将来に前糖尿病になるのを防ぐために、日頃から健康的な生活習慣を心がけることの重要性が示された。たとえ前糖尿病になったとしても、健康的な生活習慣の維持・改善で糖尿病になりにくいことが分かっている。

 一方で、今回の研究では、多くの労働者が同じような生活習慣を続けており、改善にいたった人は約4%と非常に少数だったことも示されている。

 「このことから、企業や産業保健スタッフ、医療従事者が連携して、労働者の生活習慣改善の取り組みを支援・促進することが今後いっそう求められます。研究面では、日常生活の中で効果的に生活習慣を改善する方法や、その行動変容を促す戦略の開発が望まれます」と、研究者は指摘している。

横浜市立大学医学部 大学院医学研究科 公衆衛生学教室
Trajectories of healthy lifestyle index and prediabetes risk of adult workers in Japan (Communications Medicine 2025年6月20日)

[Terahata]
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