ニュース

健診で心臓病・腎臓病・糖尿病の異常が出ても3人に1人が再検査を未受診 「ナッジ理論」を活用した受診勧奨の開発へ

 健康診断や人間ドックを受診し、心臓病・腎臓病・糖尿病にいずれかで異常所見がみつかった人のうち、3人に1人以上が二次検査を受診していないことが全国調査で示された。

 「保健師さんの活動が活発な市町村では、二次検査のみならず、一次健診の受診率も高く、末期腎不全に至る患者さんが少ない、あるいは減少傾向にあります」と、識者はコメントしている。

 健康診断の異常所見に対する二次検査(ニジケン)の受診などを促進する取組みとして、健診結果で異常所見を指摘されてもその後のアクションを起こさない、いわゆる「既読スルー」の防止を促す、「ニジケン Project」が発足された。

 人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする手法である「ナッジ」の理論を活用し、二次検査の「受診勧奨通知書」を用いるという。

健診で異常がみつかっても3人に1人以上が二次検査を受診していない

 健康診断や人間ドックを受診し、心臓病・腎臓病・糖尿病にいずれかで異常所見がみつかった人のうち、3人に1人以上が二次検査を受診していないことが全国調査で示された。

 さらに、心臓病・腎臓病・糖尿病のうち、1つでも適切な治療を受けずに放置していると、将来に合併症を引き起こすおそれがあることを、4割の人が認知していないことも分かった。

 二次検査とは、健康診断などで異常がみつかり、再検査や精密検査が必要となった場合に、医療機関を受診して検査を受けるもの。

 二次検査は、病気の予防と早期発見を目的としており、健診結果が必ずしも重大な病気にかかっていることを示すわけではない。しかし、企業・従業員などでは義務にはなっておらず、「自覚症状がない」などの理由で受診しない人が多い。

 調査は、日本ベーリンガーインゲルハイムと日本イーライリリーが依頼し、2023年7月にインターネットで実施したもので、全国から6万857件の有効回答があった。

二次検査の受診率は都道府県により差あり、宮崎県と岡山県は、3つの検査項目(糖代謝検査、腎尿路検査、心電図検査)の受診率が上位に入った

二次検査を受診しない理由は、「現時点での緊急性/必要性を感じないから」が平均32.6%ともっとも多く、次いで「自覚症状がないから」「面倒だから」「時間がないから」が多かった
出典:日本イーライリリー、2023年

保健師の活動が活発な市町村では一次健診と二次検査の受診率が高い
視覚的に分かりやすいパンフレットなどを用いながら理解を促進

 今回の調査について、埼玉医科大学 医学部 腎臓内科の岡田浩一教授は、「保健師さんの活動が活発な市町村では、二次検査のみならず、一次健診の受診率も高く、末期腎不全に至る患者さんが少ない、あるいは減少傾向にあります」とコメントしている。

 「これまでにも、受診率の低い市町村が保健師の数を増やし、同時に検査結果の意味や放置した場合の経過について、視覚的に分かりやすいパンフレットなどを用いながら理解を促進、さらにタンパク尿の陽性者にも分かりやすい説明をしたことで、ぐっと二次検査の受診率が向上したということ事例があります」。

 「二次検査の受診率向上は、透析導入率の減少に結びつきます。検査によって判明した異常所見のある項目のほとんどは、生活習慣の改善や治療によって良くすることや悪化を止めることができます」としている。

 青森大学 客員教授の竹林正樹先生は、「二次検査を受診しない理由の1位が『現時点での緊急性/必要性を感じないから』だったのは、将来的に訪れるかもしれない苦痛より目の前の面倒を過大評価し、行動を先送りしてしまう『現在バイアス』が働いた可能性も考えられます」とコメント。

 「実際に、喫煙者や肥満者は現在バイアスが強いという先行研究があることからも、『ナッジ(認知バイアスに沿った行動促進方法。提唱者の R.セイラー博士(米国)はノーベル経済学賞を受賞)』のような、新しい手法の必要性を実感しています」としている。

関連情報

心臓・腎臓・代謝の3つの領域は相互に関連 「心腎代謝連関」に注目

 近年、心臓と腎臓の病気が相互に影響しあっているという「心腎連関」という考え方が注目されている。最近では、2型糖尿病に代表される代謝疾患も、これらに連関しており、相互に影響しあう「心腎代謝連関」があることも分かってきた。

 この心臓・腎臓・代謝の3つの領域の疾患は、いずれも日本でも患者数が多い。厚生労働省が発表した「2020度 国民医療費の概況」によると、3つの領域の疾患だけでも、かかる医科診療費の合計は6兆円を超えているという。

 これらの慢性的な疾患は、QOL(生活の質)を下げる可能性が高い。その連関を防ぐためには、早期に発見し治療を開始することが大切になる。

 調査では、心臓病・腎臓病・糖尿病に関わる項目で異常所見があった人のうち、「心臓・腎臓・代謝の各機能は相互に関連しあっていて、1つの機能障害が他の臓器に悪影響を及ぼすこと」について知っていた人は、6割に上った。

 健診で異常がみつかっても、二次検査を受けないで放置している人の4割は、「心臓病・腎臓病・糖尿病を放置すると将来的に合併症を引き起こすリスクがあることを知っていれば、二次検査を受診する」と回答した。

 実際に、すでに心臓病・腎臓病・糖尿病といった心腎代謝にかかわる疾患で通院中の人のうち、9割以上は「二次検査が治療のきっかけになった」と回答している。

二次検査を受診し、「再検査や精密検査を受けたことが、治療を開始するきっかけになった」という人が9割以上に上った
出典:日本イーライリリー、2023年

二次検査(ニジケン)の受診を促進する「ニジケン Project」を発足

 健康診断または人間ドックでの「異常所見あり」とは、各項目で正常所見以外のチェックが入っている、または総合評価で「要再検査」「要精密検査」「要治療」「要医療」などが記載されている状態。

 心臓病や腎臓病、糖尿病に関わる検査項目としては、「糖代謝検査(血糖値)」「腎尿路系検査(腎機能、尿検査)」「心電図検査」「呼吸器系検査(胸部X線)」などがある。

 日本ベーリンガーインゲルハイムと日本イーライリリーは、健康診断の異常所見に対する二次検査(ニジケン)の受診促進、および心臓病・高血圧系疾患・腎臓病・糖尿病の早期の発見・治療を促進する取組みとして、健診結果で異常所見を指摘されてもその後のアクションを起こさない、いわゆる既読スルーの防止を促す、「ニジケン Project」を発足した。

 二次検査受診促進に向け、「ナッジ理論」を導入した実証研究も実施するという。

 人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする手法である「ナッジ」の理論を活用した「二次検査受診勧奨通知書」を用いる。得られた知見を公表して社会全体の健康課題の解決に寄与したいとしている。

 「より多くの人に、二次検査を受診することの重要性を知っていただき、隠れた疾患の早期発見・早期治療への一歩へとつながることを目指します」としている。

日本ベーリンガーインゲルハイム
日本イーライリリー
Interconnection between cardiovascular, renal and metabolic disorders: A narrative review with a focus on Japan (Diabetes, Obesity and Metabolism 2022年8月5日)
[Terahata]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2024年04月25日
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠
2024年04月22日
【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
2024年04月18日
人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
2024年04月18日
健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
2024年04月09日
子宮の日 もっと知ってほしい子宮頸がんワクチンのこと 予防啓発キャンペーンを展開
2024年04月08日
【新型コロナ】長引く後遺症が社会問題に 他の疾患が隠れている例も 岡山大学が調査
2024年03月18日
メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 特定健診などの56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
2024年03月11日
肥満は日本人でも脳梗塞や脳出血のリスクを高める 脳出血は肥満とやせでの両方で増加 約9万人を調査
2024年03月05日
【横浜市】がん検診の充実などの対策を加速 高齢者だけでなく女性や若い人のがん対策も推進 自治体初の試みも
2024年02月26日
近くの「検体測定室」で糖尿病チェック PHRアプリでデータ連携 保健指導のフォローアップなどへの活用も
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶