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自治体健診で「心房細動」を早期発見 健康寿命と平均寿命の差を縮める 日本初の「健康寿命延伸事業」 大分県

 大分大学、大分県臼杵市、大分県杵築市、大分県後期高齢者医療広域連合、臼杵市医師会、杵築市立山香病院、JSR、日本コンベンションサービスは、「心房細動」の潜在患者を自治体の健康診査で早期発見する「健康寿命延伸事業」を開始した。

 健診でハイリスクと判定された65歳以上の高齢者を対象に、1週間の連続測定が可能なホルター心電計を装着してもらい、心房細動を早期発見し治療介入につなげる。健康寿命と平均寿命の差を縮めるための、全国に先駆けた循環器病対策のモデル事業としている。

心房細動は深刻な病気 脳梗塞や心不全の原因に

 「心房細動」は、心房と呼ばれる心臓内の部屋が痙攣し、うまく働かなくなってしまう不整脈の一種。心臓が正常に血液をおくりだすためのリズムを維持するために必要な信号が混乱し、心房の収縮が不規則かつ弱くなる。

 心房細動を発症すると、動悸、めまい、脱力感、胸の不快感、息苦しさと言った症状がでることもあるが、自覚症状のない人も少なくない。

 高齢者に多くみられる疾患だが、高血圧、糖尿病、心不全、肥満などのある中高年者でも多く発症する。

 心房細動そのものは、死亡の直接的な原因にはなりにくいが、脳梗塞や心不全を引き起こす原因になる。

 心房細動になると、心房の中で血液がよどみ、固まりやすくなる。そして血液の塊である血栓ができ、徐々に大きくなる。心臓でつくられた血栓が脳に運ばれ、脳の血管がつまらせ起こるのが「心原性脳梗塞」。

 心房細動から脳梗塞を発症すると、重症化しやすく、命を失う場合もある。自力で歩けなかったり、寝たきりになるなど、社会復帰が難しくなることも多い。

 心房細動の治療法としては、抗凝固薬、抗不整脈薬、カテーテル治療(カテーテル アブレーション)などがある。心房細動を早期発見して、適切な治療を行うことが極めて重要だ。

自治体健診で「心房細動」を早期発見 65歳以上のハイリスク群が対象

 このほど大分大学、大分県臼杵市、大分県杵築市、大分県後期高齢者医療広域連合、臼杵市医師会、杵築市立山香病院、JSR、日本コンベンションサービスが開始したのは、「心房細動潜在患者の早期発見による健康寿命延伸事業」。

 このほど大分市で、大分大学の北野正剛学長、同医学部循環器内科・臨床検査診断学講座の髙橋尚彦教授、中野五郎・臼杵市市長、永松悟・杵築市市長などが出席し、記者会見を実施。

 全国に先駆けた、市民の健康寿命延伸に寄与する循環器病対策のモデル事業としており、実施期間は、2023年6月1日~2024年3月15日。

 国の交付金を活用して、最大600人のリスク保有者のなかから、心房細動の患者を発見し、早期の治療介入を行う。

 「日本の医療費の2割を、循環器系疾患が占めており、発症予防をすることは重要です。循環器系疾患は、要介護の最大の牽引にもなっており、本人のみならず家族にも多くの負担がかかります」と、研究グループでは述べている。

 「循環器系疾患のうち、心房細動は、脳梗塞の原因疾患になっており、健康寿命と平均寿命の差を広げる要因のひとつです。心房細動を早期発見し、治療を行うことで、脳梗塞の発症を予防することが可能になります」としている。

最大600人のリスク保有者のなかから、心房細動の患者を発見し、早期の治療介入につなげる

出典:大分大学、2023年

世界最薄型・最軽量クラスのホルター心電計を装着 最大600人に実施

 現行の特定健診や後期高齢者健診では、発作性心房細動の患者は見過ごされやすく、脳梗塞発症後に心房細動が発見されるケースが多い。

 そこで事業では、65~74歳の高血圧などのリスク保有者と75歳以上の後期高齢者を対象に、1週間連続して測定できるホルター心電計を装着してもらい、心房細動患者の早期発見と治療につなげることを目指す。

 この携帯型のホルター心電計は、胸の数ヵ所に電極を貼り付け、24時間ふだん通りの生活をおくったまま、どのようなときに不整脈が起きているかを調べる検査。ホルター心電計は小型化されており、防水タイプのものも出ている。

 対象となるリスク保有者は、▼高血圧、▼脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の既往、▼心不全、▼糖尿病、▼心筋梗塞の既往のなかから1つ以上を有する、もしくは受診時の所見で認められた人。

 「今回の事業は、臼杵市と杵築市で、最大600人に対して実施することを計画しており、600人に実施した場合は、30人の心房細動患者が予想されます。このうち10人が心不全、1人が心原性脳梗塞を引き起こすと考えられます」と、研究グループでは述べている。

軽量・フレキシブル・コードレス設計のホルター心電計「Heartnote」を使用
世界最薄型・最軽量クラスのホルター心電計
防水仕様ため、装着したままシャワーや半身浴が可能(IPX4、7適合)
最大7日間の長時間データを測定可能

出典:出典:JSR

脳梗塞になると3,600万円の以上の医療・介護費の負担が

 1人の脳梗塞患者にかかる医療費は、1回入院当たり170万円で、介護費用は年間に約360万円とみられている。また、70代男性の脳血管疾患の平均余命は5~13年であるため、仮に10年介護の場合、生涯に3,600万円の以上の医療・介護費の負担が予測されるとしている。

 心房細動を早期発見し治療介入につなげ、健康寿命の延伸を実現すると、患者の生活の質(QOL)を向上できるだけでなく、医療・介護費の負担も大幅に減らすことができる。

 「臼杵市は男性・女性とも、循環器系疾患(心疾患および脳血管疾患)による死亡が全国より多い。杵築市の心疾患は、全国・県の死亡率との差がもっとも大きく、課題のひとつになっています」と、研究グループは指摘している。

 「心房細動の大きなリスク因子のひとつが加齢です。2025年には、両市とも高齢化率40%を超えることが予想されており、循環器疾患の早期発見と治療は重要な課題になっています」としている。

心房細動潜在患者の早期発見による健康寿命延伸事業

出典:大分大学、2023年

大分大学医学部循環器内科・臨床検査診断学講座
臼杵市・杵築市等との連携による脳梗塞予防のための心房細動検出研究 (大分大学 2023年5月29日)
心房細動ってなに? なぜ脳梗塞を起こすの? 治療はどうするの? (大分大学)
[Terahata]
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