オピニオン/保健指導あれこれ
限りない看護の世界観の追求のなかで

No.4 低体重クリニックでの子育て支援の場で学んだこと ~わが子を可愛いと思えないことで悩む母親~

桐生大学医療保健学部看護学科 教授 保健師
小此木 久美子
 私が群馬県の保健師として、仕事を始めた昭和50年代は保健所の役割が大きく変わりつつある時でした。自分が保健師としてどのように育ってきたかを「低体重クリニックという子育て支援の場」の事例で振り返ってみます。

 保健所の低体重クリニックは子育て支援の場です。保健所と市町村の役割機能を調整しながら保健所の事業名から見ても保健活動の推移が読み取れます。今日では母子保健の実施主体は市町村に移譲されました。保健所の業務の変化の中で保健所保健師のスキルを学ぶ場は縮小していることに、こころを痛めているのは私ばかりではないと思っています。

 ある日、低体重クリニックに化粧で着飾っているが何とも疲れた顔をしている30代の母親が乳児をぎこちなく抱いて来所しました。私は乳児の顔をのぞきながら声をかけると、反応は弱々しく感情の乏しさが伝わってきました。「お母さん今まで大変だったでしょう。大きくなりましたね」と問診をさりげなく進めました。かたわらの長女は、母親にまとわりつきながら弟の顔をのぞき込んだりしていました。

 こんな出会いから第2子は経過観察児とて見守ることにしました。その後も、乳児の体重はなかなか増加せず、また、母親の乳児への接し方も子供に対する愛情があまり伝わってきませんでした。私はその親子を要支援親児として配慮しながら接していきました。

 出会ってから3カ月後の健診終了後に、母親が私に近づき聞き取れないほど小さな声で話しかけてきました。「あのー少し話してもいいですか・・・保健師さん子どもって可愛いですか・・・」と。私は自然に「ええ可愛いわ、○○チャン」と乳児に話しかけました。乳児は笑みで応答し、それは何ともいえぬ子供の笑顔の返事でした。

 そんな様子を母親はしげしげと見ながら「私・・・かわいいと思えないんです・・・どうしてだか・・・この子は特に思えなくて、なんだか変な気持で・・・」と、本音と思われる気持ちが言葉になって出てきました。

 健診に来所しながら同年代の子どもを持つ母親を見ながら客観的に自分自身を見つけ出したとのことです。その後も時々育児に疲れたりすると電話が入るようになりました。次第に私は保健師としても具体的に助言を伝えられるようになっていきました。

 また、母親自身も気持ちの切り替えが出来るようになり、声の調子も明るくなっていきました。時おり、電話の後ろから元気な子どもの声が聞こえることも多くなり、暮らしぶりを感じられるようになってきました。

 これまでの母親との関わりで以下のことがわかりました。

  • (1)男児を出産した直後の義父母の態度に戸惑い
     男児誕生で跡取りができたと大喜びし、第1子の長女の誕生の受け入れの時との差があった
  • (2)低体重児で連日様子を見に来る義父母の訪問。時間を構わず隣家からのぞきに来る対応に抱く嫌悪感
  • (3)イライラする気持ちをどこにもぶつけることもできない日々
  • (4)順調に発育していく第1子の姉と比較している自分
  • (5)理屈では分かっているつもりだが、なんだかいつもイライラの癇癪玉がさく裂しそう
  • (6)なかなか泣きやまず、我が子をかわいがれない自分自身に悶々と過ごす日々
  • (7)そんな気持ちをなかなか夫にも言えず、連日続く姑の訪問
 相談内容の多くは、子どもの発育をめぐっての思いや、家族への感情のことで翻弄している母親の育児心からの問題でした。

 そんな中であっても愛想よく笑う愛らしい子どもは表情も良くなってきました。何よりもゆっくりであるが母親が変化し、子どもの発達もよくなっていることが伝わってきました。

 育児は楽しいことばかりではありません。むしろ煩わしく苦しい連続のことが多いものです。子供の笑顔で救われたり癒されたりと相互関係の中で親として育って学んでいくものです。専業主婦は周囲から暗黙の了解として家事全般と育児の中で生活していきます。

 その母親は、「家制度」の中で男児出産をするまではあまり意識しなかった多くのことに、ぶつかり、悩みながらの子育奮闘の日々であったといいます。また、低体重ということで不安を感じながら重たい気持ちで健診会場へ出かけていたそうです。

 健診会場の中で、何かを感じ息抜きの場を体感できた母親自身は、そんな中で回復していきました。「一人で悩まないで」というメッセージが届いていたのかもしれません。

 その後、就学時健診が無事に終わった晩秋に一本の電話が入りました。「ちょっと小柄だけれど問題ありませんでした。あの時保健所で保健師さんに話して本当に良かったです。聞いてもらったことで助かりました。あの頃の自分はなんだか変でした。ここまで時間がかかったけれど私が子どもに育てられました」と。これを最後に相談には来なくなりました。入学を機に母親は、次への成長へと進んだようです。子供の成長とともに育児は育自と。

 私の心はホンワカと温かさを感じていました。それとともに育児支援の開始とエンドポイントを学びました。保健師も生活者自身であり、我が子と重なる部分もあり、印象深く学びも大きいものでした。自らの生活体験を他者との関係で再構築しながらスキルをみがいていく保健師成長の一コマでもありました。

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