オピニオン/保健指導あれこれ
元気づくりの栄養指導をめざして

No.1 保健指導の難しさ

神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部栄養学科 教授
鈴木 志保子

 皆さんは、対象者が「グッとくる一言」を持っていますか?

 「グッとくる一言」を探し続けた結果、万人に共通の言葉がないこと、探すことが難しいことがわかりました。どうして難しいかをまとめました。

 保健指導の意義は、「健康(現状)を維持・増進(改善)させる」ことでしょうか?

 個人の目線で意義を考えると、「大切だとわかっていても、すぐにやらなくてはいけないことではない」と思うでしょう。会社などの組織で考えると、社員が健康でいてくれれば、確実な労働力が確保され、健保組合での運用が良好になります。国で考えると、大きな問題である医療費の削減になります。

 個人と集団では保健指導のとらえ方が違います。個人では意義を感じづらいけれども集団が大きくなればなるほど意義は高まります。しかし、個人の成果が上がらなければ、会社も国も効果を得ることができません。したがって、個人を行動変容に導くための「グッとくる一言」は、重要なのです。

 「グッとくる一言」は、エビデンスにより導かれた自分の身体に起こるメリットであると考えます。たとえば、病気になって「この治療をすると95%の確率で効果が上がる」というエビデンスを提示されればグッときます。

 さて、健康に関してこのような表現でエビデンスを示すことはできるのでしょうか?

 先日、「健康づくりのための運動基準」の改正検討会の席で、基準で示す身体活動量を高齢者が実施することによってどのくらいの成果を上げることができるのかという質問に対し、「エビデンスを分析した結果、3か月間寿命が長くなります」と宮地先生(国立健康・栄養研究所)がお答えになりました。

 フロアからは笑いが起こりました。笑いは、フロアにいた人たちは、個人の目線で考えたため起こったと思います。しかし、国として考えたならば「大きな成果」となります。個人と集団では、エビデンスのとらえ方が違います。

 残念ながら、個人の目線でグッとくるエビデンスを示すことができません。なぜなら、同一の対象者で比較することができないからです。たとえば、同一人でタバコを吸わずに生きた場合と、タバコを吸って生きた場合でデータを取って、その比較した結果からタバコの害を示すことができません。したがって、疫学的に得られたエビデンスが個人にぴったりと当てはまるかわかりません。

 現場では、「当てはまるかもしれないからやってみましょう!」としかエビデンスを使うことができないのです。遠い将来かもしれないエビデンスしかないので、「グッとくる一言」をエビデンスの中から探し出すのが難しいわけです。

 しかし、エビデンスを理解して指導することによって、自信を持って指導でき、説得力のある説明をすることができます。エビデンスを活用した保健指導は必要です。

 保健指導を進める(勧める)ことは難しいですね。しかし、日本の将来のために、前進していくしかありません。頑張りましょう!

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