オピニオン/保健指導あれこれ
終の棲家を決めるときの支援者の判断根拠

No.1 超高齢社会への提言「エイジング・リテラシー」

一般社団法人 有料老人ホーム入居支援センター理事長(代表理事)
上岡榮信

超高齢社会とは、今までと何が違う

 目にする新聞、雑誌、書物の記事、そして、耳にするテレビの報道、日常の話題に高齢者、高齢社会のトピックや、ニュースが取り挙げられない日は、ない毎日です。

 何がどうしたというのでしょうか?

 昔も老人はおられましたが、数が圧倒的に少なく、家族、親類も多く、親子、あるいは親、子、孫との同居も普通で、付合いも密でしたし、地域社会の連帯、絆も強かったのです。

 ところが、2005年、高齢化率21%を超えたあたりから日常生活と年中行事を支えてきた家族や、親類縁者、隣近所、町内会のような、おせっかいをやき、支えあう環境が崩れ、日本は縁なき社会に突入しました。加えて、国の高齢者福祉予算も少子高齢化とともに厳しくなり、同時に親孝行などの言葉だけでなく、社会通念も大きく変わっています。特に長寿命からくる認知症の増加で家族介護、老老介護にも限界が来ています。

 本来、老人、長老は、我らの大先輩であり、人生の達人であり、知恵者であり、社会において、又、家庭においても老人の役割があり、出番も多く、頼りになる存在だったのですが、最近の先端技術の進歩と変化のスピードは想像を上回る物があり、産業界、ビジネスの分野では彼らの知識や情報、ノウハウは、必ずしも有用、有益ではないのです。

人間の加齢とは、個人にとっても、日本社会にとっても、初めての未知の分野

 個人と社会が、空前絶後のスピードで、ここまで長寿化した例は、歴史的にも、地理学上も日本が初めてであり、世界中にも、諸外国にも、参考にするお手本もないのです。

 当センターに相談に見えるお客様には、最高学府で学問をおさめた方、社会的地位の高い方、功成り名を挙げて富も築かれた方も、少なくないのですが、皆様全員が退職後の住まいと暮らしに、何の不安もない方は皆無のようです。

 超高齢社会において歳を取るのはみんな初めての経験であり、自信を持って自らの終末期、臨終までを見通せる方はないと断言できます。根拠のない強がりは、別として、ADL(日常生活動作)の劣化、認知症、介護と施設、病気と医療、延命治療、遺言、相続などについて何のアドバイスも、手助けも不要であり、専門家の助言もなしで選択、判断、決断ができる人にはお目にかかったことがありません。

 特に、後期高齢期からの重度の認知症や、複数の疾病で体力、知力、気力がなくなった状態で、自らの希望、要望、注文、不満、苦情などを相手にうまく伝えられなくなった状態までは、想像がつかない、あるいは考えたくないということもあります。

 このような状態では、残念ながら、介護の現場においても、最悪の場合、放置、無視、軽視ごまかし、嘘、虐待、殺人さえもあり得る時代であり、社会の現実です。

加齢とともに生じる ADL, ニーズ、価値観の変化

3つのステージ そのニーズの変化、優先順位

・高齢者65歳~ 身体的(ボデイ)
・後期高齢者75歳~ 精神的(マインド)
・超高齢者85歳~ 霊性的(スピリッツ)

 大きく分けると、高齢者65歳~、後期高齢者75歳~、超高齢者85歳~の3つのステージがあり、ニーズの変化や優先順位が異なります。

 目にも見えて、分かりやすい変化は、歩行の際の補助器具などで、最初にお洒落な杖、そして滑らず、安定した支えの四足の杖、次に捕まり易く、買い物に便利なシルバーカー、全身を預けられる歩行器、最後に車椅子、車椅子にも水平になり、ベッド代わりにもなるようなものもあります。

 高齢者を戸籍年齢で、束ねたり、特徴付けたり、決めつける事は多くの場合、間違いであり、乱暴過ぎることであり、避けるべきなのですが、個人、個人のニーズ、希望、好き嫌い、考え方(人生観や価値観)が時間とともに変化し、変質することは十分、理解し、承知しておく必要があります。

 例えば、75歳未満の高齢者が多い、セミナーなどで、「何歳まで生きたいですか?」とか「介護が必要になったらどうされますか?」 などの質問に、ほとんどの方が、

●「重篤な介護を受けてまで生きていたくない」
●「重い認知症になって周りに迷惑をかけるくらいなら死んだほうがましだ。」

などの類の回答をされるのですが、75歳以上の方々の集まりで、同じ質問を投げかえると、ほぼ全員が全く反対のお答えが来ます。

●「何としてでも生きていたい。」
●「不自由、不便があっても長生きはいいこと、望むところ。」

 というような回答です。

 これは同じ人にも当てはまるようです。歳をとって、枯れる方もいらっしゃるのでしょうが、歳と共に生への執着は強くなるようです(但し、表面的な会話では、長寿に否定的)。

 それに、お元気で、資産の余裕のある方々は、老人ホームに入居されても、依存、依頼、任せきり頼り切り、という姿勢、態度は強くないのですが、85歳あるいは90歳を過ぎて、財力、体力、知力、気力、交渉力などが衰え、自信がなくなると、依存度が高まり、相手の誠実さ、真摯さ、遇直さなどが貴重であり、感謝の度合いが強くなるようです。

 初期には安全、清潔、快適が優先し、次には美味しく、楽しい、面白い体験が大事で、最期に不自由、不便、障害、疾病、老衰などとも折り合いをつけたうえで、生きる喜び、生きる意欲を持ちます。

自信を持って推薦できるホームはほぼ20件に1件!

 日本にはたくさんの老人ホームの種類があり、内容も複雑です。ただし、実際にあるのは「基準に届かないレベル」「基準を満たすレベル」「基準を上回るレベル」の3つのみです。どの対象者も「基準に届かないレベル」は望まないは確かでしょう。

判断レベル 内容 存在割合
上.基準を上回るレベル ・全ての公的基準、規制、指導を遥かに超える経営者の自主的、良心的
・基準を超える生活、介護、看護、医療サービスを提供している
・入居者、家族、スタッフ、全ての利害関係者が納得、満足、感謝している
遥かに上回る自主基準
全体の15%
中.基準を満たすレベル ・厚生労働省、都道府県の基準、規制、指導を満たし、人員配置もクリア
・違法、違反もないが入居者満足、家族の感謝、職員の納得は稀である
基準はクリア違法性はなし
全体の70%
下.基準に届かないレベル ・厚生労働省、都道府県の基準、規制、指導を満たさず、人員配置も不足
・大抵、建物、設備、環境も劣悪で、スタッフの研修、教育も不十分
基準は無視、又は未達
全体の15%

 当センターを創設以来、7年間で見学調査した2,000ホームのうち、約15%は素人目にも、不潔で、暗く陰気で、匂いもするような劣悪なホームが摘発も、業務停止も受けることなく存続している現実には、呆れると同時に、怒りを覚えています。

 本当に自信を持って推薦できるホームはほぼ20件に1件、確率5%~10%という稀有さであり、残りの70%は、施設の見栄えは良いが入居者満足度、従業員満足度が低く、離職率が高く、空き部屋も多いというのが事実です。

エイジング・リテラシー (Aging Literacy) を高めることが重要

 現在の社会において、高齢者問題は、下記のような背景があります。

   ① 速すぎる・・・・・・・(高齢化のスピード) 
   ② 多すぎる・・・・・・・(ケアを必要とする高齢者、 労働人口に比べて)  
   ③ 少なすぎる・・・・・(福祉予算) 
   ④ 足りない・・・・・・・(智慧と工夫)(介護の人手) 

 そして、高齢者問題は実に複雑です。対象者やそのご家族から老人ホームについて尋ねられる機会が多い専門職の皆さんに知っておいていただきたいのは「エイジング・リテラシー」です。このエイジング・リテラシーを高めること、それが超高齢社会を理解するために重要です。

エイジング・リテラシー (Aging Literacy)…
高齢化 加齢とは何か、その結果として生まれた社会現象、社会通念、政策、制度、規制、施設等の知識、理解、情報など そしてそれらの実態

個人として知る事、備えること

個人の意志&家族の希望の確認
・認知症=後見人制度 
・遺言=エンデイングノート 
・相続 
・看取りケア 延命治療=平穏死

 地域資源基本情報:介護保険申請、地域包括支援センター、小規模多機能型居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、介護予防教室についての情報など

 次回は、実際に、対象者が入居し、日々を過ごす介護施設、高齢者住宅などに関する情報、データ、統計、特に実態から、終の棲家を決めるときの判断根拠について詳しく述べていこうと思います。

「終の棲家を決めるときの支援者の判断根拠」もくじ

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