オピニオン/保健指導あれこれ
「熱中症」の健康障害を防ぐために

No.2 暑い環境で働かざるを得ない場合の熱中症対策

山田誠二産業保健センター所長
山田 誠二

1. 暑い環境に、なるべく近づかない!
…でも、暑い環境で働かざるを得ない場合は?

 暑い環境に近づかないといっても、職業柄、暑い環境で働かざるを得ない職業も多い。建設業などはその代表的なもので、熱中症による労働災害(労災)が多い。

熱中症による労働災害について

 熱中症による労働災害は、「(1)負傷に起因する疾病」のうちの腰痛についで多い。「熱中症」は「(3)異常温度条件による疾病」に分類され、平成25年度724件で、全労働災害の9.9%を占めていた。

 平成26年度の「(3)異常温度条件による疾病」は、619件(8.3%)、内「熱中症」による障害は423件(5.7%)であった。被災者のうち12人が死亡している。この年から「(3)異常温度条件による疾病」から、「熱中症」が特別に引き出されて分類されている。それだけ熱中症による労災事故の件数が多いためであろう。

 平成27年度の労働現場での「熱中症」の罹患件数は、464件(6.3%)で、29人が死亡している。平成28年度、462件(6.3%)、12人が死亡している。

 業種別では、屋外の建設業での罹患率が高く、
・平成26年度 144件(全熱中症の34%)内6名の死亡
・平成27年度、113件(全熱中症の24.4%)内11名の死亡
・平成28年度、113件(全熱中症の24.4%)内7名の死亡

 製造業全体としては、
・平成26年度84件(全熱中症の19.9%)内1名の死亡
・平成27年度85件(全熱中症の18.3%)内4名の死亡
・平成28年度97件(全熱中症の21.0%)死亡者なし

最近の熱中症発生現場

 熱中症は歴史的には、炭鉱をはじめとする鉱業、紡績業、金属精錬所、船内作業で多く発生していたが、それぞれの企業で独自の対策をたてて障害発生は抑えられていた。

 最近の発生現場としては、建設業、土木業などの屋外作業、空調の切れた空間における改築工事などの屋内作業などの労働現場やスポーツ(参照:N0.4 スポーツにおける熱中症死と賠償責任 )で多く発生している。建設業では、「熱中症」の罹患者数に著明な減少は見られていないし、環境温はさらに暑くなっており、熱中症対策は喫緊の課題である。ビルの建設現場では環境温度を少しでも下げるために、水のミストを噴霧して環境温度を下げている工事現場もある。

 高所の工事現場から休憩時に降りてこない現場作業者のために、地上にいる監督者が補給水(水・塩分、スポーツドリンク)等持ち上げて、現場作業者に与えている事例もみられる。地上では冷房を備えた休憩室や巨大な扇風機の回っている休憩室などが設けられ、外界からの熱を遮断し、体温を下げることを試みている。

 作業は、仕事の強度により一連続時間を短くして労働による熱負荷を軽減し、筋肉使用による体内に発生する熱量を少なくする必要がある。また、クールジャケットなどの浸透性・通気性の良い服装にし、熱量の放散をたやすくできるようにしている。冬服や通気性の悪い防護服などを用いないようにすることも大切である。

熱中症になりやすい時期は、ゴールデンウィークやお盆休み明け

 さらに、温度と高さ(に伴う酸素濃度の低下)には順化(「馴化」)期間が必要で、暑さに対する順化は1週間ぐらいかけて獲得され、暑さに曝露されていないと順化はなくなってしまう。5月のゴールデンウィークの急速な暑さの上昇時に「熱中症」が多いのは、暑さに慣れていないからである。

 また、お盆休みでクーラーの効いた部屋での生活をした後のお盆休み明けに「熱中症」の件数が多いのは、暑さに対する順化がなくなったためである。このことから、作業の前半部分と作業中断後の再作業時には注意を要する。

2.脱水と水分補給
脱水回復過程の遅れ「自発的脱水」に気を付けよう

 発汗による体液不足(脱水)を補う必要があるが、ヒトなどは、すぐに喪失した水分量を自発的に補うことができない。

 ヒトなどでは脱水後に飲水を許しても、直ちに脱水量に相当する水分に相当する水分を摂取しているわけではなく、その後食事とともに脱水の回復をはかる。この点においてヒトと同類の動物としては、ウマ、ラット、モルモットがある。この種の動物のことをlate drinkerと呼んでいる。

飲んだ水分の40~60%ほどしか補給されていない

 本人は十分に脱水に相当する量の水を飲んだと思っているが、40~60%ほどしか水分を補給されていない。ヒトでは約一日かけて、脱水を調節している。ラットなどは汗腺がないので、発汗はしないが、唾液を体中に塗って、その唾液が乾燥する際に体の熱を奪うのである。

 一方、イヌ等では、水を与えた場合、直ちに脱水量に見合った水分を摂取して脱水量を補う。イヌと同類の動物をしては、ラクダ、ヒツジ、カバがある。この種の動物のことをearly drinkerと呼んでいる。ラクダなどはオアシスからオアシスまで水を飲まなくて行動ができる。

水のみの摂取では熱中症予防に不十分

 late drinkerにおける脱水回復過程の遅れを「自発的脱水」と呼んでいる。汗をかいたときに水のみを摂取し続けると、体液の濃度(浸透圧)を一定に保とうとする働きによって、過剰な水分が尿として排出されてしまい、また、これ以上電解質(イオン)濃度を下げないようにと喉の渇きが治まったりするが、これが「自発的脱水」で、十分な水分量が補給できなくなる。

 この「自発的脱水」が起こっている時に、熱中症や体調不良に気をつけなければならない。水分補給の際には、塩飴等により塩分も同時に摂取することが求められているのは、電解質濃度を補うためである。

 発汗により、循環血液量は減少するが、血液による身体の冷却効果について考えてみる。

 発汗の最大量は、1.0~1.5L/時間であり、1Lの発汗で580kcalの熱を奪う。皮膚表面から1gの水が蒸発すると0.58kcalの気化熱を奪い、ヒトの身体の比熱は0.83である。体重70kgと仮定すると、この人の熱容量は0.83×70=58.1kcalで、100gの水が蒸発すると、計算上は体温を1℃下げることになる。その意味では水分蒸散による体温の低下は効果的である。

0.1 ~0.2%の塩分の入った飲料を定期的に摂取しよう

 汗の成分は、99%以上が水で、あとの固形成分がNaCl(塩化ナトリウム)である。NaClは、100mLにつき45~240㎎含まれている。生理的食塩水は、100mLに90mgのNaClが含まれている。汗は生理的食塩水より薄い低張性のものが多く、暑熱に順化するに従って汗のNaClの濃度が低下するので、補給水としては、0.1 ~0.2%の塩分の入ったものでよい。

 さらにナトリウムが小腸で吸収されるときには、糖との共輸送体があるためにナトリウムと糖があるときに、吸収しやすくなるので、糖を5g%ぐらいの濃度で加えるとよい。スポーツドリンクは、0.1%の食塩水に相当し、6g%の糖が加えられている。このような状態であっても自発的脱水のために、60%ぐらいしか脱水回復はみこめない。したがって補給水は口渇を感じなくても、定期的に飲水する必要がある。

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