オピニオン/保健指導あれこれ
「熱中症」の健康障害を防ぐために
No.3 熱中症を理解し、危険信号を察知しよう
山田誠二産業保健センター所長
2018年08月21日
3.熱中症を理解する
熱中症には、次の4段階がある。
(1)熱失神:heat syncope
(2)熱疲労:heat exhaustion
(3)熱けいれん:heat cramp
(4)熱射病:heat stroke
この4段階が順を追って生じるのではなく、第1段階から急速に第4段階に移行して死亡することがある。
(1)熱失神
貯まった熱を放出するという体温調節のために皮膚血管が拡張して血圧の低下が起こり、脳血流の減少が起こる。そのために、自覚症状として、めまい、失神などの症状がみられる。顔面は蒼白となり、脈は速くて弱くなる。
(2)熱疲労
発汗による高度の脱水により起こる症状である。そのために、自覚症状として、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などがみられる。
(3)熱けいれん
大量の汗をかき、水だけを補給して血液の塩分濃度が低下した時に、足、腕、腹部に痛みをともなった“けいれん”が起こる。“コムラがえり”と呼ばれるもので、下肢腓腹筋にひどい痛みを訴える。
(4)熱射病
体温の上昇のため中枢機能に異常をきたした状態である。自覚症状としては、意識障害(応答が鈍い、言動がおかしい、意識がない)が起こり、死亡率が高いので、すぐに病院へ搬送する。
4.熱中症になる危険信号 暑さ指数「WBGT」を知っていますか?
熱中症の時に使用される指標として、WBGT(Wet Bulb Globe Temperature;暑さ指数)が利用される。WBGTとは、気温だけでなく、湿球温度で湿度と風速、黒球温度で輻射熱と気流とを測定して、「暑さ」を指標化したものであり、次の式で計算される。 ■屋内で日射のない場合、 WBGT=0.7×(湿球温度)+0.3×(黒球温度) ■屋内で日射のある場合、 WBGT=0.7×(湿球温度)+0.2×(黒球温度)+0.1×(乾球温度)WBGTは熱中症予防情報サイトで確認できます!28℃を超えると熱中症発生率が急増
湿球温度は、水の温度の関与が70%で、黒球温度で測定される輻射熱の関与が30%である。黒球温度は6インチの真っ黒な球体の中に温度計を入れて測定する。湿球温度は寒暖計をガーゼに包み水に浸けて測定する。 かつて学校では日直が乾湿計で気温と相対湿度を計算して黒板に板書していたが、今の学校ではまったくしていない。黒球温度計はみたことがない人が多い。日射がある場合には、乾球温度が10%関与している。WBGTをリアルタイムで測定できる装置が市販されているが、労働局ではJIS規格にあったWBGT計を推奨している。 輻射熱を測定するには黒球が必要であるが、黒珠がない場合には、湿球温度計あるいは乾球温度計から推定してWBGT値を推定することもできる。WBGTを乾球湿度や乾球温度との相関関係図から求める方法があり、現場での簡易な方法である。 ■湿球温度との相関 WBGT=2.446+1.052×(湿球温度)(r=0.957、n=421) ■乾球温度との相関 WBGT=2.814+0.804×(乾球温度)(r=0.961、n=421) また、WBGT値を気温と相対湿度からも求めるモノグラフが、日本生気象学会から提出され、利用されているが、若い人たちは相対湿度を計算したことがないので、WBGTはWBGT計の値を読むか、上記の概算値から求めるとよいと思う。 WBGTは、25℃以下は「注意」、25℃~28℃は「警戒」、28℃~31℃は「厳重警戒」、31℃以上は「危険」と考えられ、スポーツ等は原則禁止に分類されている。「警戒」、「厳重警戒」になると熱中症の数が増え、死亡者も増えてくる。 WBGTが28℃を超えると熱中症発生率が急増するというデータが環境省「熱中症予防情報サイト」で示されているので注意すべきである。 【参考】 ・暑さ指数(WBGT)の実況と予測(環境省) ・晴子さんの健康オフィス漫画(創新社)
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