オピニオン/保健指導あれこれ
「熱中症」の健康障害を防ぐために

No.4 いま、求められている熱中症予防策

山田誠二産業保健センター所長
山田 誠二

スポーツにおける熱中症死と賠償責任

 熱中症による死亡者数を年齢階級別に調べた実験結果(1968年~2014年)によると、15歳で約180人死亡している。これは練習や試合中のスポーツで起こった熱中症のため死亡した少年・少女の数である。身体を鍛えるために行なっているスポーツで死亡することは許されない。中・高等学校の部活や少年クラブ中に熱中症が起こり、部やクラブの責任者がその責任を問われることが多くなり、新聞などで繰り返し報道されているが、事件は毎年起こっている。

事例①

 硬式野球部のコーチの指示で、全員の練習後、ある生徒が100m走を100本以上走ることを命じられ、さらに30本追加された。あと数本というところで意識が朦朧となって倒れた。この間の給水は2度だけだった。コーチは「気合いを入れ直さないといけない」と考えたが、体罰に近いものだった。県高校野球連盟よりコーチは無期限指導停止となり、監督は厳重注意となった。この事例では、生徒は熱中症から回復しているが、死亡した事例もある。

事例②

 中学校の部活練習で熱中症を起こしたのに、すぐに対応がなされずに死亡した事例がある。ラグビーの練習中に熱中症で倒れた中学1年生の部員を運動場で放置し、1時間以上の後、保健室に運び、緊急対応をしたが本人は死亡した。裁判所は、緊急対応をしなくてはいけないのにしなかったのは「安全配慮義務違反」だとして、市に賠償を命じた。この際、部長として指導をしていた教員の責任は、国家賠償法により問われなかった。両親はこれを不服として、県の検察審査会に審査請求をし、審査会は裁判所が出した“不起訴”は不当であると結論付け、この教諭は「業務上過失致死罪」で起訴された。

 その後、元教諭(すでに依願退職)に対して「早い段階で救護措置を取っていれば死に至らなかった」として「業務上過失致死罪」で起訴した。簡易裁判所は50万円の罰金刑とした。たかが50万円と思ってはいけない。50万円という額は、労働安全衛生法の第119条、第120条という一番多く事業者に適応される罰金刑の最高額である。罪は重いものであると考えている。

熱中症への対応の遅れは、「安全配慮義務違反」あるいは「業務上過失致死罪」

 若い人が死ぬと最低1億円の損害賠償が必要になるが、死亡せず介護が必要な場合には、介護料として、さらに最低1億が加算される。

 一学期の期末テストが終えた直後の部活の練習でキャプテンだった女性が指示された練習メニューをこなそうとして練習中に熱中症で倒れ、一時心停止になった。命はとりとめたが、重度の意識障害が残り、寝たきりになった。裁判所は、「学校側が熱中症への注意義務を怠り、部活動中に倒れて重い障害が残った」として、県側の責任を認定して約2億4千万円の賠償請求を命じた。将来の介護費用として、約1億円を算出している。

 このように、熱中症への対応の遅れは、「安全配慮義務違反」あるいは「業務上過失致死罪」を問われることになり、スポーツに係る監督やコーチは意識していなければならない。最近の少年野球には、暑熱をさけるためのテントが必ず張られ、テントでできた日陰に冷たい飲物が置かれている。また、監督やコーチには熱中症に関する研修を受講することが義務付けられている。

熱中症予防策を考え、実践しよう

産熱の抑制と放熱の促進

 人間は寒冷環境には比較的強く、暑熱環境には弱い。体温上昇の安全域は3℃ぐらいしかない。

 体温上昇を防ぐために体内水分(体液)を発汗により蒸発させ体温上昇を防ぐ。しかし体液量が不足してくると循環血液量を維持することを優先させ発汗は止まり、体温が上昇することによる温熱障害(「熱中症」)が起こる。喪失水分量の補給を定期的に行うことにより体温上昇は抑えられる。補給水分量の温度は、5~15℃ぐらいに冷やしたものがよいが、温度は関係なく水分量さえ確保されていれば十分である。脱水による体温上昇は、脱水が体重の1%ごとに0.3℃の体温上昇が認められる。

 体温を一定の温度を超えない条件にするには、産熱と放熱の平衡で定まる。暑熱状態では、①産熱の抑制、②放熱の促進が重要である。

①産熱の抑制
 伝導・対流、輻射などの物理的熱伝導因子が高い環境に近寄らない。断熱服などを利用する。また、作業などによる筋肉からの熱産生を抑えるには、一連続作業時間の短縮、作業・運動強度の上限の設定、休息時間の設定を行なって対処すべきである。

②放熱の促進
 放熱がもっぱら発汗による暑熱条件下では、1Lの発汗により580kcalの熱が放出される。それゆえ有効な発汗を行う。汗は皮膚面から蒸発して、はじめて熱を奪う。それゆえ、サウナ風呂などで、ボトボトと落ちる汗は蒸発していないので、水を蒸発させるという体温調節には役だっていない。そのために、有効発汗を起こしやすくすることが大切である。風を起こす、服装などにも注意することである。暑熱環境に適応した作業者を作業に就かせることにより、有効発汗による水分喪失量を減少させる。

現場での処置の重要性

 いかに早く体温を下げて意識を回復させるかが予後を左右するので、現場での処置が重要である。

体温を下げる方法
・身体に水を掛けたり、濡れタオルを当てて扇いで、身体の体温を下げる。
・頸・腋の下・足の付け根など太い動脈の走る部分に氷やアイスバックをあてる。

循環が悪い場合の対応
・足を高く(頭を低く)してマッサージをする。

症状としての意識状態への留意
・意識障害が軽い場合もみられるが、応答が鈍い、言動がおかしいなど少しでも異常が見られる時には重症として処置する。

熱中症予防には

1) 熱中症に関する労働衛生教育が必要である。とくに屋外作業を行う建設業や土木作業作業者などの中小企業への教育・啓発が必要である。

2) 「自発的脱水」により脱水量に相当する水分量を一度に補給できない我々は、高温熱環境下では、口渇 がなくても定期的に水分・塩分補給をする必要がある。

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