薬剤耐性菌「MRSA」の市中感染が増加 AMR臨床リファレンスセンターが啓発
薬剤耐性菌の1つであるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の院内感染が長らく医療現場では問題となってきたが、AMR臨床リファレンスセンターがこのほどレポートを公表した。
レポートは『薬の効かない薬剤耐性菌「MRSA」の皮膚感染症における市中感染型が増加~最近のMRSAの動向?』というタイトルで、東京薬科大学薬学部薬学科 臨床微生物学教室の中南秀将教授に話を聞き、まとめたもの。市中で検出されたMRSAの中には毒性の高いタイプも確認されているという。
今後AMR関連の死亡者数は毎年1000万人に上る試算
薬剤耐性(AMR)とは、細菌などの病原体が薬への耐性を獲得し、抗菌薬などが効きにくくなる現象を指す。抗菌薬の過剰使用や不適切な使用は、耐性菌が増える要因の一つとされる。
不適正使用の例としては、抗菌薬を5日分処方されても3日目で症状が改善したからと自己判断で服用をやめたり、医師から指示された服用量や回数を守らなかったり、過去に処方され飲みきっていなかった抗菌薬を別の機会に勝手に使ったりする、などがある。抗菌薬が必要ないのに処方・使用されるケースもある。
耐性菌が増えると、これまで一般的な抗菌薬で治療できた感染症でも効きにくい例が増え、治療の選択肢が狭まる。社会の中で目立ちにくい形で進むことから、AMRは「サイレント・パンデミック」とも呼ばれ、WHOも対策を呼びかけている。
海外の試算では、このまま何も対策を取らないと2050年には全世界でAMR関連の死亡者数が毎年1000万人に上り、がんによる死亡者数を上回るという予測もある。
黄色ブドウ球菌は常在菌で、多くの場合は無害だが、免疫力が低下している人や、手術やカテーテルなどの医療処置で体に負荷がかかっている人には、さまざまな感染症を引き起こすきっかけとなる。この黄色ブドウ球菌のうち、抗菌薬に対する耐性を獲得したものがMRSAで、日本では1980年代後半から各地の医療施設で問題となってきた。
今日まで院内感染対策が取られてきているが、2020年の国際比較では黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性は48.1%で、EU平均の16.7%などと比較して高い。また厚生労働省の院内感染対策サーベイランス事業を利用した研究では、MRSAによる血流感染の推定死亡者数は2023年に4505人と推定されており、薬剤耐性大腸菌の4827人と並んで疾病負荷が大きい。
一方、レポートでは、市中感染型のMRSAが増えていると指摘。皮膚感染症由来の市中株では、MRSAの割合は2016年の21.4%から上昇し、2021年も34.4%と高水準だった。また2021年に分離された皮膚感染症由来MRSAのうち、PVL(白血球破壊毒素)陽性株が44.8%を占めていた。実際、大学の寮内や家族内など市中感染が確認され、健康な若者でも重症化している例があるという。
厚生労働省は「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023-2027」を策定しており、成果指標の一つとして、黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を2027年までに20%以下とする目標を掲げている。
レポートは、この目標の達成には病院内の感染対策に加え、市中で増加が指摘されるMRSAを減らす視点が欠かせないとし、診療所や高齢者施設なども含めた多様な現場で、抗菌薬の適正使用と感染対策を一層推進する必要があると結論づけている。
薬の効かない薬剤耐性菌「MRSA」の皮膚感染症における市中感染型が増加(国立健康危機管理研究機構国立国際医療センタ─AMR臨床リファレンスセンター/2025年11月11日)
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