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日本の認知症の38.9%は予防可能と推計 最大の寄与因子は難聴―14の修正可能リスクを解析

 東海大学とデンマークの国際共同研究グループは、日本の公的統計および疫学データを用いて、認知症の修正可能な14の危険因子について集団寄与危険割合(PAF)を算出した。その結果、日本における認知症の38.9%が理論上予防可能であることが示唆された。
 最も寄与が大きかったのは難聴(6.7%)で、次いで運動不足(6.0%)、高LDLコレステロール血症(4.5%)であった。各危険因子を一律10%低減した場合、約20.8万人の発症抑制が見込まれると推計されている。

2060年の認知症推計は645万人超 治療技術の進歩と並走する「予防」の重要性

 世界的に認知症は急増しており、認知症に伴う世界の経済的負担は2030年には1.7兆米ドル、最大2.8兆米ドルに達すると見込まれている。
 日本では高齢化が急速に進行しており、65歳以上人口の割合は2024年に29.3%に達し、2045年には3人に1人を超えると予測されている。加齢は認知症の最大の危険因子であるため、日本は認知症の影響を受けやすい状況にある。

 厚生労働省の推計によると、国内では2022年時点で65歳以上の約12.3%が認知症、約15.5%が軽度認知障害(MCI)とされ、合わせて約1,000万人が何らかの認知機能低下を抱えている。2060年には認知症が高齢者の17.7%(約645.1万人)、MCIが17.4%(約632.2万人)に増加すると予測されている。

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出典:「共生社会の実現へ向けた認知症施策の推進について」P.2(厚生労働省、2025年2月18日)

 近年、アミロイドβを標的とした抗体医薬など治療法の進歩はあるものの、費用や適応条件の制約から普及には限界があり、治療と並行して「予防」の重要性が一層高まっている。
 国際的には、生活習慣や環境要因への介入により、世界全体で認知症の約45%が予防可能とされている。しかし、従来の推計は欧米のデータが中心で、日本の実態を十分に反映していなかった。
 そこで本研究では、日本の公的統計や疫学データを用いて、国内で優先的に取り組むべき危険因子を定量的に評価した。

日本の有病率データを用いて定量化 14因子で「約4割」予防可能と推計

 本研究は、東海大学医学部の和佐野浩一郎教授およびデンマーク・コペンハーゲン大学認知症センターのカスパー・ヨーゲンセン上席研究員らによる国際共同研究である。2026年1月12日付で「The Lancet Regional Health - Western Pacific」に掲載された。

 2024年ランセット認知症委員会が科学的根拠に基づき特定した、以下14の修正可能な認知症危険因子を対象に解析を行った。

①教育歴の低さ ②難聴 ③高LDLコレステロール血症 ④うつ ⑤外傷性脳損傷 ⑥運動不足 ⑦喫煙 ⑧糖尿病 ⑨高血圧 ⑩肥満 ⑪過剰な飲酒 ⑫社会的孤立 ⑬大気汚染への曝露 ⑭視力低下

 これらの因子について、日本の国民健康・栄養調査、政府統計、疫学研究、環境データなど、信頼性の高い国内データを用いて有病率(該当者の割合)を推定した。さらに、集団寄与危険割合(PAF)*1および潜在的影響割合(PIF)*2を算出し、日本における認知症予防の潜在的規模を定量的に評価した。

出典:「日本における認知症予防の可能性-認知症の約4割は「予防」可能- 」(東海大学、2026年1月13日)

*1 集団寄与危険割合(PAF:Population Attributable Fraction)
特定の危険因子が存在しなかったと仮定した場合、全体の認知症のうちどの程度が予防可能であったかを示す指標。例えばPAFが10%であれば、「その因子がなければ認知症の10%は発生しなかった可能性がある」ことを意味する。

*2 潜在的影響割合(PIF:Potential Impact Fraction)
危険因子を完全に除去するのではなく、10%や20%といった現実的な範囲で低減した場合に、認知症がどの程度減少し得るかを示す指標。PAFが「理論上の最大予防効果」を示すのに対し、PIFは政策や介入によって実際に達成可能な効果を見積もるための指標である。

 14の危険因子を相互の関連を調整したうえで解析した結果、日本における認知症の38.9%が理論上予防可能であることが示唆された。
 特に寄与が大きい因子は、難聴(6.7%)、運動不足(6.0%)、高LDLコレステロール血症(4.5%) であり、これらが主要な介入ターゲットとなる可能性が高い。
 また、各危険因子の潜在的影響割合(PIF)を用いた推計では、危険因子を一律に10%低減した場合には将来的に約20.8万人、一律20%低減した場合には約40.8万人の認知症を予防できる可能性が示された。

 なお、これらの推計は観察研究に基づく相対危険度を用いた理論値であり、個人レベルでの因果関係を直接示すものではない。

「難聴」は最大の寄与因子 予防戦略の重要な柱に

 ランセット委員会の世界推計(2024年)では、難聴への介入により認知症の約8%が予防可能とされている。本研究で示された日本の推計値(6.7%)はこれに次ぐ高い水準であり、世界的にも国内的にも、難聴対策は認知症予防の最重要課題の一つと言える。

 難聴が認知症につながるメカニズムとしては、「認知負荷仮説」と「カスケード仮説」が代表的である。認知負荷仮説では、難聴のある人は音声情報を処理するために多くの認知資源を割かざるを得ず、その結果、高次の認知活動に回せる余力が低下し、脳の萎縮が進むと考えられている。
 一方、カスケード仮説では、聞こえにくさが原因でコミュニケーションや社会参加が減少し、脳の活動が低下する悪循環が生じることが指摘されている。音声刺激の減少も脳萎縮を促す要因となる。すでに聞こえにくさがある場合でも、補聴器装用により認知機能低下の進行が抑制される可能性が報告されているが、長期的な認知症発症抑制効果については今後の検証が必要である。

 本研究では、日本のデータを用いた解析により、難聴や運動不足といった修正可能な要因への介入が認知症予防に大きく寄与することが示された。
 特定健診や地域包括支援センターでのアセスメントにおいて、聴力や身体活動、脂質管理を包括的に評価することが、一次予防の観点から重要となる。第2位の「運動不足」、第3位の「高LDLコレステロール血症」は、特定健診・特定保健指導における主要な介入項目である。これらへの介入が、生活習慣病予防のみならず「認知症予防」にも直結するというエビデンスは、対象者の行動変容を促す強力な動機付け材料となるだろう。

 研究グループは、「2024年に施行された認知症基本法や、今後の認知症施策の具体化に向けた科学的根拠として活用してほしい」と述べている。

参 考

日本における認知症予防の可能性-認知症の約4割は「予防」可能- ~主要因子は「難聴」、次いで「運動不足」。危険因子10%の低減で20万人の発症抑制へ~|東海大学(2026年 1月13日)
The potential for dementia prevention in Japan: a population attributable fraction calculation for 14 modifiable risk factors and estimates of the impact of risk factor reductions|The Lancet Regional Health - Western Pacific(2026年1月12日<日本時間>)
第179回市町村セミナー 資料|厚生労働省(2025年 2月10日)
共生社会の実現へ向けた認知症施策の推進について|厚生労働省(2025年 2月10日)
難聴と認知症の関係 認知症予防に難聴対策を|日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

[保健指導リソースガイド編集部]