「引退」で認知機能はどう変わる? 機械学習で検証した"プラス影響"と個人差
京都大学、慶應義塾大学、早稲田大学の研究者らがこのほど、欧米19カ国の50〜80歳を対象に、仕事からの引退と認知機能の関係について機械学習モデルを用いて解析。
分析の結果、引退した人は、働き続けている人に比べて1.3語多く単語を記憶しており、引退によって認知機能を維持・改善する可能性が示された。一方、その影響には個人差が大きいこともわかった。
改善効果が大きかったのは女性や高学歴、運動習慣がある人など
研究にあたったのは、京都大学大学院・医学研究科教授の井上浩輔氏や、慶應義塾大学専任講師の佐藤豪竜氏、早稲田大学の野口晴子教授ら。
世界中で高齢化が進み、年金支給開始年齢が引き上げられる国も増えている。必然的に仕事を引退するタイミングは遅くなる傾向にあるが、引退が高齢者の認知機能にどのような影響を与えるかについては個人差が大きく、これまでの研究では結果が一致していなかった。
そこで研究グループは米国HRS、英国ELSA、欧州SHAREという3つの縦断研究データを統合して解析。1回目調査時に就労していた人を対象に、2回目調査で引退の有無を確認し、3回目調査で単語記憶テストにより認知機能を測定した。
健康状態が良い人ほど働き続ける傾向があるため、各国の年金支給開始年齢を"引退の操作変数"として用いてバイアスに対処。さらに因果フォレストという機械学習手法で、引退が認知機能に与える影響の個人差を明らかにした。
解析対象7432人のうち、2165人が引退。引退した人は働き続けている人に比べて、平均して1.348語多く単語を記憶していた。しかし実際は-0.506語から2.314語まで個人差が大きく、全体の1%程度に過ぎないが、マイナスの人の場合は引退すると認知機能が下がる人も中にはいることがわかった。一方、女性、高学歴、デスクワーカー、高所得・高資産、引退前の健康状態が良好で運動習慣があった人などは、引退による認知機能の改善効果が大きかった。
この結果について研究グループでは、引退によって仕事上のストレスから解放されること、余暇の時間の増加で運動などができることなどを理由として考察。女性は、男性に比べると引退後の人付き合いが活発であること、仕事と家庭を両立する難しさから解放されることに関わりがあるのではないかと考えている。
また高学歴でデスクワーカーの人は知的労働による認知機能への刺激が引退後も継続して効果を発揮。高所得・高資産の人は引退後も経済的な余裕があり、健康的なことにお金を使う余裕があること。引退前から健康状態が良好で運動習慣があった人は、活発に活動できる時間が多く、引退後に運動を継続することが認知機能の維持に役立っている可能性などを推察した。
これらの分析や考察から、引退が認知機能に与える影響には個人差が大きいものの、引退後の過ごし方の違いによって健康格差が拡大する可能性が示唆された。研究グループでは、個人の健康状態や環境に応じて適切なタイミングで引退することによって、その後の認知機能にも良い影響がある、と考察している。
「引退」は脳に良い?機械学習で解明した認知機能へのプラス効果と個人差―女性や高学歴・高所得、運動習慣がある人などで特に改善効果大―(京都大学/2025年12月09日)本サイトに掲載されている記事・写真・図表の無断転載を禁じます。

