オピニオン/保健指導あれこれ
より効果的な行動変容の促しを行うために必要なこととは?
No.1 なぜ受診率が低いのか? 受診する側、促す側の本音を探ってみた
医療・保健ジャーナリスト
2016年04月13日
受診率編~受診者の気持ちを知る~
まず最初に調べたのは、生活習慣病対策の入口となるであろう、特定健診受診率が国保(とくに市町村国保)において、なぜ低いのかという問題です。そこで都内在住の比較的健康に対する意識の高いと思われる、健康関連の講演会参加者、脳卒中患者団体会員、医療機関従事者など約100人ほどに対象にアンケートを実施。すると、健診を受けていない人が約30名いまして、その理由ベスト3は
1. 自己都合:忙しかった/面倒臭い、など2. PR不足:知らなかった/予約しようにも空きがない、など
3. 通院中:高血圧で病院にかかっている/主治医の指示、など でした。この中で注目すべきは、PR不足と答えた方の半分が、健診が実施されていること自体知らなかったと回答していること。通院中と答えた方のなかに医師の指示が入っていることでした。
2. もっと上手にPR:もっとメリットのアピールを/情報化社会に遅れている、など の2つが出てきました。
自分たちも健診を受けて感じたこと
限られた時間でのアンケートだったため、母数は少ないものの、おおむね受診する側の不満が出ている内容だと思います。また、グループのメンバーのうち、私を含め2名が国保被保険者であり、健診の受診経験から見えてきた問題もありました。
東京都下在住のメンバーは、健診会場が単なる流れ作業になり、自身がまるでモノ扱いされているような気分だったといいます。窮屈な場所にパイプ椅子を並べられ、問診も後ろの人たちに丸聞こえ状態なのが嫌だった。こんな雰囲気では気持ちも落ち込むし、たとえ無料でも、わざわざ時間を割いて受けようと思わない……と。
私は東京23区内なので近隣の開業医に予約をして受診しています。それなりのプライバシーを守ってもらえたものの、血液検査の結果は数日後。それに対する医師の説明も短く、掛かりつけの大病院で処方されている薬があることを理由に、本来なら必要なはずだった保健指導も「必要なし」と判定されていました。通院中&処方薬あり=どこかの医師がすべて診ている=わざわざ保健師の保健指導を受ける必要はない、との判断のようです。果たしてこれでいいのだろうかと思いました。なぜって、大病院でちゃんとした保健指導をしてもらったことなどないからです。
ちなみに、私は開業医に予約を入れる前、少し規模の大きい、自前で血液検査を行える病院にも予約を入れてみました。しかし、結果が速く分かることや大病院信仰が大きいのでしょう。「もう予定人数に達しているため予約を受けることはできません」と断られていることも付け加えておきましょう。
受診を促す側の気持ちは?
受診を促す側の市町村保健師へのアンケートも行っています。母数は全国32市町村の65人分で、まず、健診受診率が上がらない理由は何だと思うかを尋ねています。すると、以下の表のように、
・住民の無関心・周知不足
・通院中
・時間やお金の無駄と思われている が大きな理由としてでてきました。
両者の想いは一緒?
さて、皆さんはこれらのアンケートから何を感じますか?
住民側の受診をしない理由の代表(自己都合)と、保健師側の受診率が上がらない理由の代表(住民の無関心)から読み取れる結論は「住民の健康に対する意識が低いせい」ということになるでしょうか?
間違いではありませんが、裏を返せば、住民の健康に対する意識を高めることがまだまだできていないことが原因と私は思います。そして、その役目を担う保健師や市町村、関係機関が、共通認識を持たないままバラバラに動いているように思えてなりません。
健康に関心を持たず、生活習慣病を悪化させ、苦しむのは本人であり、自己責任です。ただし、世の中にはまだまだ、正しい健康知識や健診の意義を理解していない人も多いのです。今回アンケートに答えてくれた、企業を定年退職されたばかりの60代男性は、
「うちの妻は高い人間ドックに行くんだよ。でも、自分は自治体の特定健診のパンフレットの読み方もわからないし、どう検討したらよいのかすら分からず、1人で悶々としていた」と話てくれました。
世界でも類を見ないスピードで超高齢化社会に突入している我が国では、退職にともない、企業健保から市町村国保への切り替えが進み、市町村国保被保険者の数は増すばかりです。その人たちが、前述の男性のような戸惑いを持たないよう、今まで以上に促す側が努力する必要があると思いませんか?
このシリーズでは、順を追って、その方法を提案していこうと思います。
次回は受診率を上げるアイディアについて、アンケートからヒントを導きだしてみますので、お楽しみに。
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