夜型の人に腰痛が多い傾向 日本人労働者4,728人を対象にした大規模分析【藤田医科大学・名古屋大学】
藤田医科大学と名古屋大学大学院の研究グループは、人が1日の中で最も活動的となる時間帯(クロノタイプ)に着目し、日本人労働者4,728人を対象に、生活リズムと腰痛の関連を検証した。
その結果、夜型の人は朝型の人に比べて腰痛を有する割合が有意に高いことが明らかとなった。
日本人労働者を対象としたこの規模の研究は初めてであり、今後の腰痛予防対策や生活リズムを考慮した保健指導の重要な手がかりとなる可能性がある。
腰痛は国民病 男女とも自覚症状の1位
腰痛は令和4年の国民生活基礎調査でも日本人が最も多く訴える自覚症状として挙げられている。男女とも1位に挙げられており、人口1,000人に対して男性は91.6人、女性は111.9人という結果が示されている。
出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」P.17
腰痛は休業4日以上の業務上疾病の6割を占める労働災害となっており、生活の質を低下させる要因の一つとなっている。 腰痛の原因には、長時間のデスクワークや運転、立ち仕事、重量物作業といった職業要因のほか、ストレス、運動不足、肥満、喫煙など生活習慣要因も挙げられるが、これら以外の要因が関与している可能性も指摘されてきた。
公務員4,728人を対象 夜型に腰痛持ちが多い傾向
夜型の人に腰痛を有する割合が高いとする報告はいくつかあったが、日本人を対象とした研究はこれまでなかった。
そこで今回、藤田医科大学整形外科学 藤田順之教授・松永美佳大学院生、公衆衛生学 太田充彦教授・桶川龍世大学院生、精神神経科学 北島剛司教授、名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学の八谷寛教授(藤田医科大学客員教授)らの研究グループは、クロノタイプ(人が1日の中で最も活動的である時間帯)の健康への影響に着目し、日本の公務員4,728人を対象とした横断的分析を行った。
その結果、夜型の人ほど腰痛を有する割合が高いことが明らかになった。
本研究成果は、ドイツの学術ジャーナル「European Spine Journal」(2025年7月3日付けオンライン版)に公開された。
腰痛の有無は自己申告にて評価した。なお、夜型の人は朝型の人に比べ、運動習慣が少なく睡眠時間が短いなど、クロノタイプ以外の腰痛と関連する要因もみられるため、結果に影響を与えうる要因(交絡要因※1)を統計学的に除去する、多重ロジスティック回帰分析※2を行った。
- クロノタイプ:中間型(51%)朝型(38%)夜型(11%)
- 交絡要因:年齢、性別、職業、残業時間、インターネット・メールの使用時間、体格指数(BMI: body mass index)、喫煙、運動習慣、座位時間、睡眠、抑うつ症状
※1 交絡要因:ある要因と結果の関連を調べようとする時に、その要因と関連する第三の要因で、結果に影響を与えうるもの。
※2 多重ロジスティック回帰分析:多変量解析(ある結果に対して複数の要因がかかわる場合に、その要因と結果の関連を明らかにする統計学的解析方法)の一つ。
生活リズムに応じた保健指導が鍵に
夜型の生活は、不眠や眠気のほか、胃腸障害、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、発がんのリスクが高いことが知られているが、腰痛予防対策でも生活リズムに応じた保健指導が求められることになりそうだ。
「たかが腰痛」とも思われがちだが、日本人の自覚症状1位で国全体の労働損失額は年間約3兆円を超えることが明らかとなっている。プレゼンティーズム(何らかの疾病や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態)の主たる要因は、「頚部痛・肩こり」「腰痛」「精神の不調」というデータもある。
夜型の生活が腰痛の原因そのものかはまだ明らかでなく、その生物学的メカニズムの解明が今後の課題である。今後の腰痛予防対策では「クロノタイプを考慮することになるかもしれない」と研究者は指摘している。
参 考
夜型の人には腰痛が多いことを発見 ~腰痛予防への新知見~|藤田医科大学(2025年8月21日)
2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況|厚生労働省(2023年7月4日)
腰痛予防|職場のあんぜんサイト
業務上疾病発生状況等調査(令和6年)|厚生労働省
痛みを抱える就労者の実態把握および汎用性のある評価尺度の基礎的検討 |厚生労働科学研究費補助金 慢性の痛み政策研究事業 令和元年度-3年度 分担研究報告書
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