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働く女性のがん診断が離職リスクを上昇 協会けんぽ2500万人データで検証【秋田大学】

 乳がんや子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなど、働く世代にも多い婦人科がん。秋田大学と全国健康保険協会(協会けんぽ)の研究班は、協会けんぽの全国データを解析し、がん診断が女性の就業継続に与える影響を明らかにした。
 その結果、がんを診断された女性は、そうでない女性と比べて離職率が有意に高いことが明らかになった。

 がん検診の推進だけでなく、診断後の「治療と仕事の両立」をどう支えるか。今回の研究は、職場や産業保健スタッフが取り組むべき課題を浮き彫りにしている。

国内最大規模の協会けんぽデータが示す実態

 秋田大学の野村恭子教授らの研究班が、日本最大の被用者保険である協会けんぽの診療報酬請求・特定健診データベースを用いて2,500万人の大規模コホート研究を行い、このほど分析結果を公表した。働く女性のがんと離職の関係を疫学的に検証した国内初の大規模研究として注目される。

 研究では、年齢や居住地域、事業の種類(法人・自営)、業態、勤続年数、月収、体格指数(BMI)、生活習慣(喫煙、飲酒、身体活動)、うつ病の既往歴を調整した上で、乳がんや婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん)の診断を受けた女性が有意に離職しやすいことを実証した。がん種ごとのハザード比でみると、乳がん1.18、子宮頸がん1.31、子宮体がん1.24、卵巣がん1.44であった。

 これまで、がんと離職の関係については小規模な調査や患者団体の声として語られることが多かったが、今回の研究によって全国規模での実態がデータとして明確に示された。研究成果は「JAMA Network Open」誌に2025年8月25日に掲載された。

出典:「働く女性における乳がん・婦人科がんと離職 協会けんぽ2500万人の就労女性のデータベース分析」P.2
(秋田大学・全国健康保険協会、2025年9月3日)

離職リスクを高める要因とは

 研究によると、離職リスクが特に高まる背景として、「年齢が高いこと」「月収が低いこと」「勤続年数が長いこと」「うつ病の既往があること」が示された。
 加えて、特定健診を受診していた女性では、受診していない女性に比べて離職率が低い傾向も認められた。健診受診者は健康意識が高く、早期発見や治療開始が比較的スムーズに行われることで、結果として就業継続につながる可能性があると考えられる。

 研究班は、これらの結果を踏まえ、職場でのがん検診受診勧奨をさらに強化するとともに、診断後の働き方に配慮した制度整備が急務であると指摘している。特に、低所得層やメンタルヘルスに課題を抱える女性、高年齢層など、離職リスクが高いとみられる層への重点的な支援が求められるとしている。

就労世代女性に潜む健康と社会的課題

 日本では女性の非正規雇用が半数以上を占め、男性と比較して賃金格差も大きい。世界経済フォーラムのジェンダーギャップインデックスでは146カ国中118位と、先進国の中でも女性の社会的地位の低さが際立っている。

 また、乳がんや婦人科がんは、肺がんや大腸がんと比べて就労世代に発症しやすく、働く女性の人生設計に深刻な影響を与える。一度離職すると経済的負担が増し、治療の継続にも支障をきたす悪循環が生じる。
 特に注目すべきは、OECD加盟国と比較して日本の婦人科領域のがん検診受診率の低さだ。直近の国民生活基礎調査でも50%を下回っており、早期発見・早期治療の機会を逸している女性が多数存在する現状が浮き彫りになっている。

治療と仕事の両立支援を法的に後押しへ

 今回の研究結果は、がんと診断された後の離職リスクが現実に高いことを裏付けた点で意義深い。予防と早期発見の推進だけでは不十分であり、診断後の両立支援が不可欠であることを示している。

 研究班は次のようにコメントしている。
「本研究の結果から、これらのがんの診断を受けた女性に対し、治療と仕事を両立する支援を一層拡大する必要があることが示されました。さらに、うつ病の既往がある、年齢が高い、賃金が低い、在職期間が長い女性では離職が生じやすいため、メンタルヘルス対策や経済的支援・カウンセリングなど、焦点を絞ったサポートの充実が求められる可能性を明らかにしています。事業者及び保険者が働く女性の健康施策を考えるための基礎資料としての活用が望まれます」。

 働く女性は、妊娠・出産や更年期、介護などライフステージ特有の課題も抱え、健康課題は多岐にわたり、乳がんや婦人科がんはその一部にすぎない。しかし、この研究は、がん診断がキャリアの継続に与える影響を大規模データで疫学的に検証した点で大きな意義がある。

 来年度(2026年4月)からは、事業主に対して、治療と仕事の両立支援のための必要な措置を講じる努力義務が課せられ、ガイドラインから法的根拠に基づく指針へと移行する。両立支援の重要性は、今後さらに高まるだろう。
 ともに働く人たちが、がんと診断されても安心して働き続けられるような「職場環境づくり」が、多くの事業場に求められる。

参 考

働く女性における乳がん・婦人科がんと離職 協会けんぽ2500万人の就労女性のデータベース分析|秋田大学
Resignation in Working Women With Breast and Gynecologic Cancers | JAMA Network
治療と仕事の両立について|厚生労働省

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