オピニオン/保健指導あれこれ
ケアのちから

No.2 医療と介護の事前指示を考える

ノンフィクション・ライター
中澤 まゆみ

 最近、私の講座でも「医療と介護の事前指示」について取り上げることが多くなりました。私が事前指示書=リビング・ウィルに関心をもったのは、医師の日野原重明さん、生命倫理学者の木村利人さん、死生学者のアルフォンス・デーケンさんのお三方による「いのちを語る」(集英社)という本の、編集とまとめを手がけたのがきっかけでした。

 生前遺言である「リビング・ウィル」の存在を"自分事"と感じたのは、意識不明に陥ったまま終末期を迎えたり、認知症で意思の疎通ができなくなったとき、誰が代わって治療や延命、さらに延命拒否の決定を下すのか、という問題が私にはあるからです。家族がいれば「母はこう望んでいました」「姉は延命をしたくないと言っていました」と、本人に代わって医師に希望を告げてくれることもあるでしょうが、ひとりっ子でおひとりさまの私の場合は、代わって決定をしてくれる人はいません。

 「いのちを語る」が出版されたのは2009年です。その少し前までは日本尊厳死協会の会員になって「尊厳死の宣言書」にサインするか、「主治医への要望書」を公正証書で作成しておき、家族や託された人が医師に手渡す、という方法しかありませんでした。

 ところが日野原先生にお聞きすると、聖路加国際病院ではすでに症状の重い入院患者を対象に事前指示の希望を受けつけている、というお話です。調べてみると愛知県の国立長寿医療センターをはじめ、患者の意思確認を行っている病院がいくつか見つかり、先進的な医師会や市民グループも動き始めていました。

 とはいえ、本人が受けたい治療や受けたくない治療について記す「事前指示書」や「リビング・ウィル」が、ふつうの人に関心をもたれるようになったのは、ごく最近のことです。その背景には"平穏死"のブームや"終末期医療"への関心の高まりがあります。厚生労働省が今年3月に行った「人生の最終段階における医療に関する意識調査」でも、あらかじめ「事前指示書」をつくっておくことに賛成する人は7割にのぼるようになりました。

 しかし、この調査でつくることに賛成はしていても、実際に「つくっている」と答えた人はわずか1割です。「書かなくっちゃ」と思いつつ、ついつい延び延びになっている・・・という人が多いのだと思います。それともうひとつ、「今、書いておいても、いざとなると気持ちが変わるかもしれない」という気持ちの揺れもあるようです。

 確かに、そのときは「こうしたい」と思っていても、本人や家族の気持ちは揺らぎます。本当に終末期なのか、回復の可能性があるのか、というのは判断がつきにくい場合がありますし、緊急時に医師から「人工呼吸器をつければ助かる率は50%あります」などと説得されると、本人が「延命はいらない」と希望していたとしても、家族がつい「お願いします」と言ってしまうかもしれません。

 あるいは家族が「これは延命だ」と思っていても、病院の医師から「これは救命です」と言われ、それを受け入れてしまうこともあるでしょう。「救命」と「延命」の境目に線を引くのはそもそもむずかしいし、医師と家族のとらえる意味もちがうからです。

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