トピックス・レポート
働く人に伝えたい!薬との付き合い方
-薬・サプリとセルフメディケーション-

⑪薬剤耐性について知り、正しい指導・対策を

日本くすり教育研究所

 本連載では「大人」でも意外と知らない「薬」の知識やセルフメディケーションの基本を、加藤哲太先生(日本くすり教育研究所 代表理事)にご解説いただきます。

 保健指導や健康だよりで取り上げたい「薬」の話題を隔月ペースで紹介しますので、ぜひご自身の学習、業務での情報発信にご活用ください。

これまでの「働く人に伝えたい!薬との付き合い方」

薬剤耐性とはどういうことか?

 細菌が増えるのを抑えたり、殺したりする薬として、抗菌薬があります。抗菌薬が効きにくくなる、または効かなくなることを「薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)」といいます。

 「薬剤耐性」を得た細菌(薬剤耐性菌)が増えると、感染症の治療が難しくなり、重症化や死亡のリスクが高まります。また、薬剤耐性菌はヒトからヒトや環境へ広がるため、医療現場や環境における対策が求められています。
 国連は、このまま何も対策をとらなければ、2050年までに薬剤耐性によって、発展途上国を中心に年間1,000万人が死亡し、がんによる死亡者数を超えると警告しています。

なお、「薬剤耐性」は細菌だけではなくウイルスや真菌でも認められますが、本稿では「抗菌薬(細菌による感染症の治療薬)」の話題に限定して解説します。

「薬剤耐性」の危険性

 耐性菌が増えると、抗菌薬が効かなくなることから、これまでならば感染・発症しても適切に治療すれば軽症で回復できた感染症の治療が難しくなります。これに伴い重症化しやすくなり、さらには死亡に至る可能性が高まります。

抗菌薬が効きにくい細菌(耐性菌)が増える

感染症の治療が難しくなる

感染症の流行・重症化のリスクが高まる

流行・重症化への対策が困難になる
(死亡に至る危険性が増す)

 免疫力の弱い乳幼児や妊婦、高齢者、また、持病を持つ人は、健康な人よりも感染症にかかると重症化しやすいため、ますます命の危険が高まります。

なぜ「薬剤耐性」が広がるの?

 必要のない抗菌薬を服用することで、体内にいる細菌がその抗菌薬への耐性を持つ可能性が高まります。また、抗菌薬の服用を途中で止めると、残った細菌から耐性菌が出現する可能性が高くなります()。
 こうして生まれた耐性菌が周囲の人々に感染していくことで、薬剤耐性は広がり、感染症に対する有効な治療法をどんどん狭めていきます。

図 薬剤耐性の拡大

 薬剤耐性菌感染症には、主に以下のような疾患が含まれます。

  • カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症
  • 多剤耐性アシネトバクター感染症
  • 多剤耐性緑膿菌感染症/薬剤耐性緑膿菌感染症
  • バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症
  • バンコマイシン耐性腸球菌感染症
  • ペニシリン耐性肺炎球菌感染症
  • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症

ブドウ球菌は、抗菌薬の登場で克服されたかにみえました。しかし、その抗菌薬が効かない耐性菌MRSAは院内感染の原因菌として、1970年代から大きな問題となりました。さらに現在では病院内だけでなく、市中にも広がっており、市中のMRSAをどうコントロールするかも今後の課題となります。

薬剤耐性(AMR)の拡大を防ぐための対策

 薬剤耐性の拡大を防ぐには、次のことが重要です。

  • 抗菌薬を医師や薬剤師の指示に従って、決められた量と期間服用する
  • 症状が良くなったからといって、抗菌薬の服用をやめない
  • 薬剤耐性菌の広がりを防ぐために、手指衛生を徹底する

 安易な抗菌薬の使用は体の健康を守るどころか、かえって悪い影響を及ぼすことがあります。医師と相談のうえ、抗菌薬は必要な場合に使うようにしましょう。[1]


[1]抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)」が拡大! 一人ひとりができることは?(政府広報オンライン)

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