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肥満は認知症リスクも高める 食事と運動で脳の老化に対策 中年期の保健指導は効果が高い

 中年期を通して健康的な食事をとり、肥満を予防し、内臓脂肪をためすぎないことが、年齢を重ねてからも脳の健康状態の改善と、認知能力の低下の防止につながることが明らかになった。

 中年期に食事を改善した人は、高齢になっても脳と認知機能が良好だという。

 一方、不健康な食事を5日間とっただけで、肝臓の脂肪量は増加し、脳のインスリンの働きが低下することも示された。

 食事改善に加えて、ウォーキングなどの運動に取り組むことで、体重や内臓脂肪が減り、脳でのインスリンの働きが改善することも分かった。

健康的な食事をとり内臓脂肪をためないことが脳の健康につながる

 中年期を通して健康的な食事をとり、肥満を予防し、内臓脂肪をためすぎないことが、年齢を重ねてからも脳の健康状態の改善と、認知能力の低下の防止につながることが、英国のオックスフォード大学などの新しい研究で明らかになった。

 「食事や運動などのライフスタイルを見直して、内臓脂肪型肥満を予防するための介入は、48歳から70歳のあいだに行うのが効果的であることが示唆されました」と、オックスフォード人間脳活動センターなどのダリア ジェンセン氏は言う。

 「この期間に行う保健指導は、認知症のリスクを軽減するための予防的介入としても重要です」としている。

中年期に食事を改善した人は高齢になっても脳と認知機能が良好

 研究グループは今回、英国で実施された2件の大規模なコホート研究に参加した計1,176人の成人のデータを解析した。48~60歳の参加者を11年間追跡し、また48~68歳の参加者を21年間追跡し、食事の質と健康状態の関連を調査し、磁気共鳴画像診断(MRI)などによる検査も行った。

 その結果、中年期から老年期にかけて、食事の質が良好であることは、脳の後頭葉や小脳への海馬の機能的な連結性の高さや、白質の健康などに関連していることが示された。

 さらに、ウエスト周囲径をヒップ周囲径で割ったウエストヒップ比(WHR)についても調査した。

 中年期を通じて健康的な食事をとっていた人は、WHRの値が小さく、高齢期の脳と認知機能が良好である傾向が示された。

 WHRは英国で、肥満の体型指標として用いられており、その値が良好であると、腹部の脂肪の蓄積が少ないとみられている。

脂肪がたまりすぎると脳のインスリンの働きも低下

 血糖値を下げるインスリンは、肥満の発症でも重要な役割を果たしており、体に脂肪がたまりすぎて肥満になると、脳のインスリン感受性も低下し、食欲を抑えられなくなるということが、ドイツのテュービンゲン大学やドイツ糖尿病研究センター(DZD)などによる別の研究でも示された。

 「ポテトチップスやチョコレートバーなど、高カロリーで栄養バランスの悪い超加工食品を、短期間とっただけでも、脳でのインスリンの働きが低下することが分かりました」と、同大学糖尿病・内分泌・腎臓病学部のステファニー クルマン教授は言う。

 「健康な人では、インスリンは脳内で食欲を抑制する働きもしていますが、肥満のある人ではインスリンが効きにくくなり、摂食行動を適切にコントロールできなくなる可能性があります」としている。

不健康な食事を5日間とっただけで脳のインスリンの働きは低下

 研究グループは、普通体重の男性29人を対象に実験を行った。参加者を通常の食事をとる群と、高カロリーの超加工食品をとる群に分けた。磁気共鳴画像法(MRI)などによる検査を行い、肝臓にたまった脂肪の量や脳のインスリン感受性などの変化を調べた。

 その結果、不健康な食事を5日間とっただけで、肝臓の脂肪量は大幅に増加し、さらには脳のインスリン感受性は著しく低下することが示された。通常の食事に戻してから1週間経っても、この状態は持続した。

 肥満や過体重のある人では、インスリンの働きが悪くなるインスリン抵抗性が起こりやすいことが知られている。インスリン抵抗性は脳にも起こり、認知力の低下や認知症の発症のリスクを高めるとみられている。

 「すでに世界保健機関は、肥満は流行病だと宣言しており、世界中で10億人以上が肥満に悩まされています。食事と運動などのライフスタイルを見直して、肥満に対策する必要があります」としている。

ウォーキングなどの運動で脳のインスリンの働きを改善
少しの運動でも脳の健康を高められる
 テュービンゲン大学やドイツ糖尿病研究センターによる別の研究では、ウォーキングなどの運動に取り組むことで、体重や内臓脂肪が減り、脳でのインスリンの働きも改善することが明らかになった。

 座ったまま過ごす時間を減らし、なるべく体を動かすようにし、睡眠を十分にとることが、脳の活性化につながるとしている。

 運動は、仕事や家事、学業などの合い間の、ちょっとした時間にも行うことができる。本格的なスポーツや運動をしなければいけない理由はないとしている。

 「運動は、代謝を改善し、健康全般に良いだけでなく、脳の機能も改善することが明らかになっています。今回の研究で、とくに糖尿病や肥満のリスクのある人にとって、運動の効果は高いことが示されました」と、同大学で代謝神経イメージングを研究しているステファニー クルマン教授は言う。

 研究グループは、過体重や肥満があり、1日に座ったまま過ごす時間の多い、運動不足の21〜59歳の21人の参加者に、ウォーキングなどの有酸素トレーニングに8週間取り組んでもらう実験を行った。

 その結果、運動に取り組むことで、体重や内臓脂肪が減り、脳のインスリン感受性が改善することが明らかになった。骨格筋の細胞のミトコンドリアのエネルギー代謝も良くなり、空腹感が減り、認知機能も改善した。

 ミトコンドリアは、細胞内にある小器官で、エネルギー生成などの役割を担っており、「細胞のエネルギー工場」とも呼ばれている。

 「今回の研究により、運動不足の人がわずか8週間の運動に取り組むだけでも、脳のインスリンの作用を回復できることが実証されました。運動に取り組み、体重を減らすのに成功した人だけでなく、わずかな体重減少しか得られなかった人でも、脳機能の改善がみられました」と、クルマン教授は言う。

 「運動を習慣として行うことは、肥満や糖尿病を予防するために役立つだけでなく、脳の健康の改善にもつながります」としている。

Association of diet and waist-to-hip ratio with brain connectivity and memory in aging (JAMA Network 2025年3月12日)
Association of Diet and Waist-to-Hip Ratio With Brain Connectivity and Memory in Aging (JAMA Network Open 2025年3月12日)
Tübingen Study: The Brain Plays a Central Role in the Development of Obesity (ドイツ糖尿病研究センター 2025年2月27日)
A short-term, high-caloric diet has prolonged effects on brain insulin action in men (Nature Metabolism 2025年2月21日)
Blue light at night increases the consumption of sweets in rats (摂食行動学会 2019年7月9日)
Exercise restores brain insulin sensitivity in sedentary adults who are overweight and obese (JCI Insight 2022年9月22日)

[Terahata]
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