日本人の平均寿命と健康寿命の差は拡大 健康格差が拡大 肥満や認知症のリスクも深刻 30年間の健康傾向を分析

認知症が死因の1位になり、健康改善が鈍化していることや、肥満などのリスクが増加していることなども示された。
「日本の健康指標が長期的に向上している一方で、その改善ペースは鈍化していること、また地域間の健康格差は依然として解消されていないことなどが明らかになりました」と、研究者は述べている。
「認知症などの増加や、肥満やメンタルヘルスの悪化も顕在化しており、平均寿命は延長しているものの、健康でない期間が長期化しています」としている。
日本人の平均寿命と健康寿命の差は拡大 健康格差も拡大 健康改善が鈍化
日本人の平均寿命と健康寿命の差は広がっていることや、47都道府県の比較でも地域の健康格差が拡大していることが、慶應義塾大学や米国のワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)などによる、日本人の30年間の健康傾向を包括分析した研究で明らかになった。
主な結果は次の通り――。
健康問題を抱えて生活する期間は11.3年に
日本は世界有数の長寿国だが、超高齢社会を迎え、さまざまな健康課題がある。日本人の健康状態の変遷を包括的に分析した結果、30年間で平均寿命が延長したが、健康寿命との差は拡大していることが明らかになった。
健康寿命は、健康上の問題が生活の質に与える影響を考慮した平均余命であり、健康状態が反映された寿命をあらわす。平均寿命と健康寿命の差は、なんらかの健康問題を抱えて生活している期間とみられている。
日本人の2021年時点の平均寿命は85.2歳となり、1990年から5.8年延長した。しかし、健康寿命との差は拡大し、1990年の9.9年から2021年には11.3年になった。
男女別にみても、この差は男性で8.7年から9.9年に、女性で11.1年から12.7年に、それぞれ拡大した。
さらに、47都道府県間の健康格差が拡大していることも分かった。平均寿命の地域差は、1990年の2.3年から2021年には2.9年に拡大した。
とくに男性で格差が顕著で、女性の格差は2.9年から2.6年に縮小したのに対し、男性では3.2年から3.9年に拡大した。
健康寿命の格差も1.8年から2.3年に拡大している。
年齢調整死亡率は、1990~2021年に41.2%減少したが、その減少率にも都道府県差があり、最大で49.0%、最小で29.1%と開きがある。
DALYsは、早期死亡や障害によって失われた健康的な生活年数をあらわす疾病負荷。年齢調整DALYs率も24.5%減少したが、都道府県間での減少率には最大で27.7%、最小で19.6%と差がある。
日本では都市部で医師が多い一方で、地方では医師不足が深刻であり、医師の地域偏在が起こっている。厚生労働省は2024年に医師の地域偏在への対策について公表したが課題は多い。
日本人の2021年の主な死因は、アルツハイマー病などの認知症(10万人あたり135.3人)、脳卒中(114.9人)、虚血性心疾患(96.5人)、肺がん(72.1人)、下気道感染症(62.3人)となっている。
認知症は、1990年の6位から2021年には1位に上昇した。DALYsも2015年から2021年にかけて人口あたり約2割増加しており、予防・ケア体制の整備が急務であることが示された。
肥満のリスクも高まっており、過体重・肥満の問題が深刻化しており、対策の強化が求められている。
糖尿病の状況も悪化しており、年齢調整した糖尿病に起因するDALYsは、2015年以降に年率2.2%で増加していることが示された。
過体重・肥満(高BMI)や高血糖によるDALYs率の悪化は顕著で、高血糖の年率換算変化率は2005~2015年にはマイナス0.8%だったが、2015~2021年には0.8%に悪化した。高BMIも1990~2005年のマイナス0.3%から2015~2021年には1.4%に悪化した。
平均寿命の延伸に貢献しているのは、脳卒中(1.5年)、虚血性心疾患(1.0年)、がん(1.0年)、下気道感染症(0.8年)の、それぞれの死亡率の低下で、これらが7割以上を占める。
一方、脳卒中や虚血性心疾患を含む、主要疾病の年齢調整死亡率の減少ペースは鈍化している。全死因の年齢調整死亡率の年率換算変化率は、1990~2005年にはマイナス2.0%だったが、2015〜2021年にはマイナス1.1%へと縮小した。
なお、GBD2021で評価した88のリスク要因は、2021年の全死亡の41.9%に寄与しており、このうち代謝リスク(高血圧など)が24.9%、行動リスク(喫煙、不健康な食事など)が21.6%、環境・職業リスクが9.1%をそれぞれ占める。
日本の健康指標は長期的には向上 しかし改善ペースは鈍化 地域間の格差も大きい
研究は、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)の野村周平特任教授らと、米国ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)による国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Lancet Public Health」にオンライン掲載された。
研究グループは今回、世界疾病負荷研究(GBD)2021のデータを用い、新型コロナを含む371の疾病・傷害および88のリスク要因について、日本および47都道府県での各種健康指標の推移を詳細に評価した。
「日本の健康指標が長期的に向上している一方で、その改善ペースが鈍化していること、また地域間の健康格差が依然として解消されていないことが明らかになりました。また、認知症や肥満、糖尿病の増加や、メンタルヘルスの悪化が顕在化しており、平均寿命と健康寿命の差が拡大しています」と、研究者は述べている。
「こうした状況をふまえ、国や各地域での疾病負荷の軽減を目的とした保健活動(ヘルスプロモーション)の推進や、社会環境の整備が、これまで以上に求められています」。
「今回の研究は、日本が世界に先駆けて経験している超高齢社会の健康課題を明らかにしたもので、健康格差の縮小や疾病構造の変化への対応など、保健医療・社会政策での優先課題を科学的に提示しています。日本の健康課題に関する知見は、高齢化が進む諸外国からも大きな関心を集めています」としている。
慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)
ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)
Three decades of population health changes in Japan, 1990-2021: a subnational analysis for the Global Burden of Disease Study 2021 (Lancet Public Health 2025年3月20日)


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