オピニオン/保健指導あれこれ
保健師の活動と放射線について

No.11 保健師の健康支援に必要な情報と媒体

保健師の活動と放射線 研究班
矢吹 敦子
いわき市平地区保健福祉センター 指導保健技師
経歴:
1989年3月福島県保健衛生学院卒業後、同4月よりいわき市に勤務。
東日本大震災当時は、いわき市保健所勤務で、医療及び看護チームの派遣調整等に従事。2015年4月より現職。
 保健師は災害時も平穏な日常においても、住民の身近なところで健康支援を行い、住民の健康を守る役割と責務があります。「放射線に関連した健康支援は事故が起こった緊急時だけの問題ではない」という考えにもとづき、通常の保健活動の中で、長期間にわたる健康支援をどのように行っていくことができるかを協働事業において模索しました。

 協働事業では、放射線に関連した健康支援の有効な方法として、既存事業の中で行う放射線防護教育に取り組みました。(連載No7~No10)さらに、保健師が既存事業や日頃の活動で使用できるリーフレットを作成しました。今回は、このリーフレットの作成に至る経過と、リーフレットの内容について御報告します。

 放射線に関する情報の活用の難しさ
 発災時、保健師は避難所における健康支援などにあたりました。一方、原発事故の発生により、本市は、避難指示地域外にもかかわらず、物資や支援が入らない状況が続き、住民の多くも市外へ避難、一時、街はゴーストタウン化しました。放射線に関する健康支援としては、スクリーニングの実施、安定ヨウ素剤配布、住民からの相談への対応などを行いました。

 放射線に関する情報が一番必要とされたときは、発災直後の混乱期です。情報がなく、住民は不安ばかりがかきたてられました。情報がないのは保健師も同様でした。次には、多くの情報が飛び交い、様々な専門家等から発信される情報のどれが正しいのかわからず、住民は混乱しました。

 また、状況が変わるにつれ、住民が必要とする支援や情報は変化しました。事故直後に求められた情報は、原発や放射線の危険度(原発が再び爆発するのではないか、放射線は危険なのか危険ではないのか)や、避難に関するものでした。時間が経つにつれ、放射線の身体への影響(どのような病気になるのか)、放射線から身を守るにはどうすればよいか、遺伝的な影響はあるのかなどについて情報が必要とされました。

 しかし、保健師には、放射線の健康影響や防護方法、リスクコミュニケーションに関する知識がなかったため、どれが住民にとって有用な情報か、どの情報を信頼し、どのように活用すればよいかわかりませんでした。保健師が放射線の知識を持っていれば、住民のニーズに応じ、提供すべき情報や、変化に応じた支援内容を判断できたのではないかと考えます。

 普段、保健師は住民の身近なところで、住民に必要な保健情報を発信し、相談に応じる活動をしています。住民と信頼関係を構築している保健師が、放射線防護の適切な情報を発信すれば、住民に届きやすいのかもしれません。

 また、情報が入手できるようになっても、放射線に関する健康不安は消えたわけではなく、問題がなくなったわけでもありませんでした。不安が強い方への支援、サポートグループの育成や転入者への知識の普及などの必要性があると考えられ、その方法としてリーフレット作成に取り組みました。

 リーフレット作成の取り組み
 本研究により、保健師が求めているものは、「住民が得た知識にもとづき、行動を選択し、健康な生活を実践していけるよう支援する」ために、日頃の保健活動で使用できる資料(教材)であることがわかりました。そこで、実践モデルにおいて住民の関心が高かった内容を考慮し、日常生活の中の健康課題に焦点を当て、「外遊び」「食べもの」「水」「環境」「健康管理」の5つをテーマとしたリーフレットを作成しました。

 一般的な放射線に関する知識は、インターネットやマスメディアの情報からも得ることができますが、住民は、これらの情報をどのように自分たちの生活に反映させればよいかについて支援を必要としています。作成にあたっては、「不安を抱える方には安心させるための資料は受け入れられない」という保健師の意見を踏まえ、安心させることを目的とせずに、生活の実情に合わせた内容とすることに配慮しました。また、正しい情報を得たからといって、心配が安心に変わるわけではないことも理解し、そうした気持ちを受け止めていく必要がありました。

 今回作成したリーフレットは、科学的根拠にもとづきながら、地域特性や住民の生活を反映しました。生活・健康という視点から放射線をリスクととらえ、「健康な生活を送るために」住民を支援する保健師活動にマッチした新しいタイプの教材です。集団教育にリーフレットを使用する他、子育てについての相談や、漠然とした放射線影響不安を訴える母親への助言や転入者・自主避難からの帰宅者への精神的ケアの場面など、個別支援に活用できると考えています。

 おわりに
 いまだ、約4万3千人(平成28年1月現在)の方が福島県から全国に避難しています。放射線に関する健康支援は事故が起きた地域だけの課題とは限りません。今回紹介した教材を自分の地域や住民の特徴に合わせて応用し活用することも考えられます。

 今回作成したリーフレットをさらに有効活用するためには、保健師が看護職として放射線の知識をベースに持ち、通常の健康支援と同様の自信をもって住民支援することが求められています。

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