オピニオン/保健指導あれこれ
保健師の活動と放射線について

No.6 放射線と公衆衛生看護

保健師の活動と放射線 研究班
北宮 千秋
弘前大学准教授
教育研究院医学系
経歴:
弘前大学教育学部卒業、秋田県保健所保健師を経て、産業保健師等として勤務。

その後、弘前大学教育学部教務職員、同大医学部保健学科助手、同大大学院保健学研究科講師、同研究科准教授を経て、2015年10月より現職。

弘前大学大学院教育学研究科修了(修士(教育学))、弘前大学大学院地域社会研究科修了(博士(学術))。

2011年3月福島県において放射線スクリーニング、同年6月一時立ち入りプロジェクトに参加。2013年から「放射線関連事故への保健所の対応の手引き」作成に協力。

 放射線と公衆衛生看護を結びつけて考える人は、これまでどのくらいいたでしょうか。私がこのことを考え出したのは、福島での原子力発電所の事故の起こる2年前のことでした。事故が起こったら保健師としては何を行うことになるのだろうといった漠然とした疑問をもつようになったことからです。

 思い立って原子力関連施設を設置する自治体の保健師達と話す機会を持ったところ、物品保管についてはご存じでしたが、事故が起きた場合に保健師が何かをするという危機感はお持ちではなかったように記憶しています。

 日本でも、第2次世界大戦において原爆による被災経験があり、1999年に茨城県東海村のJCO臨界事故の経験があります。そのとき、保健師は何を行ったのでしょう。ここでは茨城県の保健師達の活動を振り返ってみます。

 2010年に事故発生地周辺の3市の保健師へのインタビューを行い1)、保健師の経験知の構築を試みました。
 1つに「住民の不安軽減を優先した活動」があげられました。避難所での健康支援、放射線スクリーニングと相談を優先した活動を行い、次第に保健事業を通して継続的に支援して行くことが述べられました。
 次に、「原子力災害時の心構え」として、住民対応するという強い意志を持ちながら住民を気遣うこと、相談ルートの確保と情報ルートを確保することでした。そのよりどころとなったのが、過去に受講した研修とその資料でした。
 最後に、「平常時から原子力災害を想定し、組織の一員として研修する」ことの重要性でした。原子力災害は起こりうるという考えを共有することや組織の一員として役割を担うこと、研修等の機会を継続させることでした。この地域では周辺保健所が持ち回りで年1回の放射線事故を想定した研修会を保健所および市町村職員に向けて開催しています。

 いかがでしょうか、JCO事故10年後に保健師達の語りから得た経験知は、今の福島の活動にほぼ通じるのではないでしょうか。すでに保健師として私たちは原子力災害の経験知をもっていたのです。その経験知が十分に全体の経験に結びつかないままに過ぎてしまっていたのではないでしょうか。

 保健師達は当時の活動記録や相談者数などの資料を片手にインタビューに応じてくれました。この経験は1度切りかもしれない、けれど資料を手放す気持にはならなかったと話されました。

 このような経験はどのように活かされたのでしょうか。

 福島第1原子力発電所の事故当時、多くの住民が全国各地に避難しました。福島県からの避難者への対応は、県が避難所を立ち上げたことから自治体はそちらを紹介していました。しかしガソリンが不足したり、長距離移動をさらに行うことの難しい場合などは、市町村の裁量により現地住民避難者と同様の対応を行っていた自治体も見受けられました。過度に放射性物質に反応せず、住所やスクリーニング状況を確認することで避難所に受け入れる判断をしていたところもありました。このことは放射線の知識に基づいていました。

 放射線の相談については母乳や食品・水などに関する相談が寄せられ、国や県が出したQ&A集や専門機関のホームページから情報をえて、保健師も対応していました。より専門的な内容や回答困難な相談については専門機関への問い合わせや紹介を行い、情報を蓄積しながら保健師が相談できる体制を構築していました。

 保健師は住民の不安とどう向き合ったのでしょうか。

 保健師はメンタルケアを基本とした相談活動を行っていました。話を「聴く」、相手を「見極める」、相手に合わせた「言葉を選ぶ」によって相談に応じる関係を保ち、その上で住民に情報を仲介する「仲介」の段階、情報を自分の言葉にする「発信」の段階、知識をもとに助言する「助言」の段階が見いだせました2)

 情報を住民に伝える際は、「~するしかない」という言葉で表現され、単に伝えるではなく、これが間違いない情報だという確信が自身に持てない場合には、自身が情報伝達にコミットすることはせず、自身の役割は情報を「仲介」することに切り替えて対応していました。

 保健師は放射線の知識量に応じて住民の相談対応が異なっています。それは情報を理解し判断できるか、納得しているかが関係し、保健師に住民対応への迷いを生じさせます。この迷いは住民の不安に応じるために放射線について学ぶ意欲を高める一方で、放射線は専門家の対応にゆだねたいとする消極的な姿勢を生み出すと考えられます。

 これら「仲介」の段階にある保健師は、平常時において最低限の放射線に関する知識を学び、原子力災害を想定した訓練などを行うことが大切に思います。

 「助言」段階は「どうしようとか提案できた。それって、気づけるのは訓練とか経験です。原子力を学びながら、自然と保健師としてはどうするかが無意識に入ってくる。きっと(知識や経験を)融合させているんでしょうね」と話していました。

 今、私たち保健師が放射線について学ぶことは被災者(地)理解につながり、放射線の知識を基に地域で保健活動を展開することにより、住民の放射線の理解につなげることが可能となります。これにより福島を間接的に支援できるのではないかと考えます。

1)Chiaki Kitamiya, Shizuka Kurauchi, Ruriko Kidachi and Hitoshi Araki : Exploratory Study on the Preparation Required for Public Health Nurses Responding to a Radiation Accident, Radiation Emergency Medicine,1(1-2),84-87,2012
2)Chiaki Kitamiya : Responses of Public Health Nurses to the Consultations Following a Nuclear Disaster - Issues Associated with Level of Knowledge, Radiation Emergency Medicine,2(2),29-34,2013

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