オピニオン/保健指導あれこれ
保健師の活動と放射線について

No.5 保健師の実践へのヒント(3)住民への放射線に関する支援(相談・教育)

保健師の活動と放射線 研究班
吉田 浩二
福島県立医科大学 災害医療総合学習センター助手/看護師、保健師
経歴:
群馬大学医学部保健学科看護学専攻卒業、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻放射線看護専門看護師養成コース修了(看護学修士)
所属学会:
日本放射線看護学会(理事)、日本看護研究学会、日本医学教育学会、日本集団災害医学会、日本放射線影響学会
福島県への関わり:
平成23年3月東日本大震災当時は、長崎大学病院で看護師として勤務する傍ら、社会人大学院生として放射線看護を学んでいた。震災直後より福島県内へ医療支援(長崎大学緊急被ばく医療チーム)として入り、活動を開始した。平成25年9月より現職に就き、主に災害医療に関する人材育成や被災住民の健康相談に従事している。
 東日本大震災後の状況
 2011年3月11日の東日本大震災(以下震災)に伴う東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故後、福島第一原発より20km圏内や飯舘村のような年間線量20mSvに達する地域住民は避難を余儀なくされ、4年以上たった今でもその避難は続いています。

 そういった中で地域住民の震災後の生活環境は一変し、生活上の問題や不安、そして何より放射線に関する問題が多く聞かれました。

 地域医療に関して、通常、地域住民の健康管理や生活状況の調査、住民の一次・二次予防などの主たる業務を担うのは保健師ですが、東日本大震災後は保健師自身も被災者である一方で、原子力災害後の避難生活や放射線健康影響に関する住民の不安への対応など多くの業務が求められました。

 保健師・看護師に対する放射線看護教育
 放射線の不安に対する業務が必要である一方で、看護職者(看護師・保健師など)の放射線に関する正しい知識の不足や、保健師として役割を果たす上での不安に、知識不足や自分の安全性が影響を与えていることが懸念されています1),2)

 保健師の知識が不足している場合、質問に対して曖昧に返答することで間違った情報が伝わってしまう可能性があり、さらなる不安や混乱を引き起こすといったケースに陥ることが考えられます。放射線知識が多い人の方が、より不安が少なかったことから、放射線知識の普及の必要性が結果として示されています3)

 保健師自身が放射線に関する正しい知識を持ち、地域住民に正しい知識を提供することが大切であることは言うまでもありませんが、現在の保健師や看護師の基礎教育課程では、有事に必要とされる知識・技術に関する教育の提供はなされていないばかりか、現任教育においても放射線教育はほとんど実施されていない状況です。

 保健師養成教育のあり方については全体的な見直しが必要で、特に「段階的」「継続的」な学習方法を構築する必要性や、より実際的・具体的な内容の放射線に関する教育の実施の必要性が求められています4,5)

 私自身、2011年の震災以後福島県立医科大学で緊急被ばく医療体制の構築に携わり、その中で医療者、特に看護師の放射線に対する不安の声を多く聞き、看護師の放射線に関する知識不足を痛感しました6)

 また、現在、住民の健康相談の中で福島県内被災地の住民と実際に会話し、住民の不安や健康問題が震災後に増大していること、そして、その多くが福島第一原発事故に由来しているものだと実感し、それらの諸問題に対応できる保健師の育成こそが重要課題であると考えます。以下に、その重要課題の具体策を思案するための取り組みを一部紹介します。

 保健師に対する放射線教育研修の紹介
 地域保健事業に従事する県内自治体の保健師等を対象に、住民が抱える放射線に関する諸問題に対応できる人材育成を目的として、各地の保健センターに出向いて、知識を身につけることも大切ですが、得た知識を如何に活用できるか、伝えることが出来るかを念頭に置いた研修会を実施しています7)

 研修会は2~3時間で実施し、

(1)講師による1時間程度の講義で放射線の基礎的な内容に加え、放射線の健康影響や福島県内農作物の放射能量の紹介など、実際の住民からの質問に沿った内容を伝える。

(2)小グループに分かれ、ファシリテーターのもとで講義内容に関するKJ法を用いた討論と発表:「今日、新しく知ったこと」「最も印象的だった内容」「もっと知りたかったこと」「住民に伝えたいこと」のテーマに沿った参加者の様々な意見を得て、参加者間での情報共有を図る。

(3)講師による講評。

 の3部構成としています。

 興味深いことに、講師による講義の後には質問は出ないのですが、小グループに分かれた討論で「もっと知りたかったこと」について問うと、様々な意見が出てきます。

 また、これまで研修会等で聞いたであろうことが、「今日新しく知ったこと」として抽出されることは多々あります。例えば、「セシウムは尿に排出される」、「造血器障害、胎児障害、不妊となる具体的な被ばく線量(しきい線量)がある」、「野菜からは(放射性物質は)ほとんど検出されない」などです。

 住民からの質問内容を基にした実践的な講義を展開したことにより、参加者の学習意欲や基礎知識の向上につながっており、また、KJ法の導入により各自の意見を平等に抽出出来たことや、各グループにファシリテーターを配置し、話し合いがスムーズに行えるように配慮したことで、参加者同士の活発な情報交換や放射線問題の抽出につながっていました。

 震災後に福島県内の保健師は放射線に関する研修などを受けてはいますが、今回の研修では「(放射線の基礎知識ですら)初めて知った」、「(聞いたことを)忘れてしまっている」などの意見から知識の定着までに至っていない状況が伺え、これまでの一方的な知識を与える教育方法への問題が示唆されました。

 今回の研修会の機会に、現在の放射線知識の習得状況を保健師自身が気づけたことで、住民の放射線不安への対応が求められている保健師としての自覚につながっていきました。

 実際の状況に即した講義と参加者間で知識の共有をセットにした組み立てが有用な評価を得たことから、今回の教育体系を足掛かりに知識を与える教育から使える教育、すなわち住民教育等の保健師の実践に活かせる教育へのシフト、かつ保健師の学習ニーズに沿った継続的な放射線教育の実現に向けた現任教育を展開していく必要があると考えます。

 さらに、各自治体内の保健師同士の縦のつながりだけでなく、地域を越えた保健師同士の横のつながり、医師および大学等の専門機関とのつながりなど、様々な情報交換の場を持つことで、より住民のニーズに沿った保健活動を展開できると考えます。
 ※現在では、同様の構成で行う研修会を住民対象にも拡大して実施しています。

<参考文献>
1)橋口香菜美ら、看護職者の放射線に関する知識と不安度の実態、日本看護学会論文集:看護教育 41 318-321、2011
2)北宮千秋、放射線災害を想定した地方自治体および保健所保健師の取り組みと認識、日本公衆衛生雑誌58(5) 372-381、2011
3)岡崎龍史ら、福島県内外の一般市民および医師の福島第一原子力発電所事故後の放射線被曝に対する意識調査、産業医科大学雑誌 34(1) 91-105、2012
4)綾部明江ら、保健師志望学生が望む保健師教育のあり方A大学4年生の意見を通して、茨城県立医療大学紀要17 51-58、2012
5)西紗代ら、看護職者の放射線に関する知識の現状と教育背景、三重看護学誌9 63-72、2007
6)吉田浩二ら、東京電力福島第1原子力発電所事故による放射線汚染等に対する緊急被ばく医療放射線看護の専門看護師を目指した取り組みと課題、日本放射線看護学会誌1(1) 37-42、2013
7)福島県立医科大学性差医療センター 出前講座のご案内
http://www.fmu.ac.jp/byoin/06seisa/06demaekouza/index.html(報告書vol.7, vol.8)

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