オピニオン/保健指導あれこれ
緊急事態宣言下で前進した特定保健指導のオンライン化と働き方 ―総合健康保険組合の取り組み―

No.1 うまく回す(=実施数を減らさない)ための視点

デパート健康保険組合 保健事業部長
冨山紀代美

 健康保険組合は、主業務として要配慮個人情報を扱うことやその組織の体質などから、ICT化を推し進めることが容易ではなく、特に小売業を加入事業者の主とする総合型の当健康保険組合にとっては、より困難なことでした。

 その状況下で、特定保健指導等の保健事業をよい形で対象者に展開するには、また、圧倒的なマイノリティである私たち保健師たちが、効果的に仕事を進めるには、専門職として自分たちがより効率的に働ける場を作ることが大切であると考えました。
 そのためには「自ら動くことが大切」であること、つまり、与えられた環境に不平不満を唱えるのではなく、自らの力でよい環境を作り出すことに労力を使うべきだとの考えのもと、新型コロナウイルスが流行する以前から、少しずつリモートワークの体制を整えていました。

 あわせて、今回の新型コロナウイルス感染症の猛威はつらいことでしたが、緊急事態宣言は私たちの仕事や働き方を考え直す機会としては、必ずしも悪いことばかりではありませんでした。
 私たちは2020年度の2回の緊急事態宣言を、いままで遅々として進まなかったさまざまな分野の体制を一気呵成で整えられるチャンスととらえ、まずは①オンライン面談②リモートワークを取り入れながらの働き方の2つの点の確立を目指しました。

「コロナ禍」で目指したこと

 まずは「コロナ禍のピンチをチャンスに」と捉え、特定保健指導等については、

①うまく回す(=実施数を減らさない)
②きれいに魅せる(=スムーズに面談を実施する)
③効果を示す(=アウトカムを明確にする)

 の3点を目指しました。

①うまく回す(=実施数を減らさない)ための視点

 私が所属するデパート健康保険組合(以下、デパート健保)では、2020年春以前、特定保健指導のほとんどを自前で、また、そのほとんどを対面式にて実施してきました。

 そんな私たちにとって、新型コロナウイルスの感染拡大は、とても大きな転換期でした。そこで私たちは「保健指導をやるか、やらないか」ではなく、「どうやるか、どう進めるか」という視点に立ち、以前から検討を重ねていたオンライン面談を積極的に進めていくことにしました。

 状況が日々変わることに加え、デパート健保に加入してくださっているスーパーマーケットやホームセンターなど、毎日大変な中で出勤しているエッセンシャルワーカーの方々、およびその方々を抱える加入事業所のことを考えると、保健指導を実施しない選択肢はなかったことも一因です。

 「前進する(どうやるか、どう進めるか)」というスタンスに立ってからは、保健師・管理栄養士・事務職らスタッフが一丸となり、全員で役割分担をしながら詳細を詰めて、マニュアルを作成し、日々試行錯誤しながらオンラインでの面談方法をブラッシュアップしていました。

今まで以上に事業所と信頼関係を築く保健指導を

 2020年3月の時点では、オンライン面談のオペレーションが間に合わず、すでに予定されていた特定保健指導を電話で対応しました。もちろん国への実施報告数にはカウントできません。

 しかし、エッセンシャルワーカーである従業員は、新型コロナウイルス感染への不安を抱え、また、今までにないような緊迫した忙しさに振り回される毎日を送っていました。
 さらに残念なことに、お客さんから直接罵声を浴びせられたり、コロナ禍に仕事に出ていることで、ご家族(特にお子さん)が周囲から心無い言葉や不当な差別を受けているなど、メンタル面でも大きな負担があると聞き、何か私たちにできることはないかと考えた結果でした。

 そのため、面談の内容は特定保健指導に終始せず、新型コロナウイルスの感染不安や生活上の注意点、ご家族へのメンタルフォロー、さらには必要以上の受診控えへのサポートなど、今まで以上に多岐にわたりました。

 このような状況を事業所担当者と話せたこと、また、健康保険組合の保健指導は、コロナ禍でも重要であり、やる価値があると思っていただき保健指導を実施できたことは、そのベースに今までコラボヘルスを推進してきたことでの信頼関係があってこそと思っています。また、結果としては、さらに事業所との信頼関係を築く要素のひとつとなりました。

OODAループでオンライン面談を確立

 データヘルス計画の推進のため、以前から保健事業は「PDCAサイクルで実施するように」と言われていますが、PDCAサイクルでは、コロナ禍のような先々が見えない状況においては、計画の策定だけで時間をとられてしまい、実際のオンライン特定保健指導の実施には至らなかったように思います。

 そこで、今回のオンライン面談のオペレーションの策定については、まさに「OODA ループ(Observe=観察、Orient=状況判断、 Decide= 決定、Act= 行動)」を素早く回した形となりました。OODAは、まずは観察して、状況判断し、意思決定して動く……の繰り返しのことで、その回転が速いほど効果を生むという考え方とも言われています。

 PDCAにのっとり業務を展開するのは望ましいことですが、現状に合わせて臨機応変に仕事を進めることも、現場で仕事をしている私たちにとっては大切なことだと思います。
 日ごろから忙しい職場ですが、特に2020年度は全スタッフ一同、特定保健指導数を減少させないためにOODAループを最速で回し、本当によく考えてしっかり仕事をした日々だったと自負しています。

 次回はその方法(冒頭で紹介した「②きれいに魅せる」)を具体的にお話しします。

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