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がん予防で1兆円超の経済負担を軽減 生活スタイルや環境の改善が必要 子宮頸がんはHPVワクチンで予防できる

 がんは、直接的な医療費に加え、治療にともなう一時的な就業中断による労働力からの離脱など、社会に重大な経済的負担を引き起こしている。

 国立がん研究センターと国立国際医療研究センターの研究グループは、予防可能ながんによる経済的負担を推計することで、がん予防による経済効果がどの程度になるかを算出した。

 がん予防により軽減できる経済的負担は、1兆240億円(男性 6,738億円、女性 3,502億円)に上ることを明らかにした。

世界がんデー がんがもたらす負担や損失は世界中で拡大

 世界保健機関(WHO)は「世界がんデー」に、世界のがんによる負担の最新の推計を発表した。

 世界の115ヵ国で2022年に、2,000万人が新たにがんを発症し、970万人が死亡したと推定している。生涯のうち5人に1人ががんを発症し、男性では9人に1人、女性では12人に1人が、がんが原因で亡くなっている。

 国際がん研究機関(IARC)は、罹患する人の多いがんとして、「肺がん」「乳がん」「大腸(結腸・直腸)がん」「前立腺がん」「胃がん」を挙げている。男性でもっとも多いのは「肺がん」で、女性でもっとも多いのは「乳がん」だ。

 新たにがんを発症する人は、2050年には3,500万人を超え、2022年から77%増加すると予想している。がんによる負担が世界的に拡大している原因は、高齢化と人口増加に加え、▼喫煙、▼飲酒、▼肥満、▼大気汚染などだ。

がんを予防して医療費の負担や労働損失を抑制

 日本でもがん患者は増加傾向にあり、がんは1981年以来、死因の第1位となっている。その罹患者数は2019年で100万人(男性 57万人、女性 43万人)、死亡者数は2021年で38万人(男性 22万人、女性 16万人)に上る。

 がんの要因とされる生活スタイルや環境要因に対して、適切な対策や予防を行うことで、がんの発症を予防できれば、がんに関連する直接医療費や労働損失を回避することが可能になる。

 がんは、直接的な医療費に加え、治療にともなう一時的な就業中断による労働力からの離脱など、社会に重大な経済的負担を引き起こしている。

関連情報

日本のがんによる総経済負担は約3兆円

 国立がん研究センターと国立国際医療研究センターの研究グループは、予防可能ながんによる経済的負担を推計することで、がん予防による経済効果がどの程度になるかを算出した。

 同センターはこれまで、生活スタイルや環境を改善することで、がんを予防し経済的負担を軽減できるという研究を発表している。

 予防可能なリスク要因に対し適切な対策を実施し、がんを予防・管理することは、大切な命を救うことだけでなく、経済的負担の軽減にもつながる。

 研究グループは、日本のがん罹患とがん死亡のデータ、リスク要因の保有率、がんの相対危険度をもとに算出したPAFを使用した。

 その結果、がんによる総経済的負担は2兆8,597億円に上り、男性は1兆4,946億円、女性は1兆3,651億円で、男女で差がないことが分かった。

 労働損失がもっとも大きいがんは、男性が肺がんで921億円、女性が乳がんで2,326億円だった。

がん予防により軽減できる負担は1兆円超

 日本でも、生活スタイルや環境要因など、リスク要因を減らすことで予防が可能ながんを示すPAFが、2022年に報告されている。

 PAF(人口寄与割合)は、特定のリスク要因の影響がなくなった場合に、その病気の発生や病気による死亡がどれだけ減らせるかをあらわした指標。

 がん予防により軽減できる経済的負担は、1兆240億円(男性 6,738億円、女性 3,502億円)に上ることを明らかにした。

 予防可能ながんの経済的負担は、男女ともに「胃がん」がもっとも多く(男性 1,393億円、女性 728億円)、次いで男性は「肺がん」(1,276億円)、女性は「子宮頸がん」(640億円)が多いことが分かった。

部位別にみた予防可能ながんの経済的負担
男女ともに胃がんの経済的負担がもっとも多い
次いで男性は肺がん、女性は子宮頸がん・乳がんが多い

出典:国立がん研究センター、2023年

女性は乳がんや子宮頸がんによる労働損失が深刻

 リスク要因別では、感染に起因するがんの経済的負担はもっとも多く、とくに胃がん(ヘリコバクター・ピロリ菌感染)や子宮頸がん(ヒトパピローマウイルス感染)は、適切な対策が講じられた場合、多額の経済的負担を回避できると考えられる。

 がんによる経済的負担に男女間で大きな差はないことも示された。その理由として、女性のがんのなかでもっとも一般的な乳がんは、働き盛りの世代での罹患が多いため、直接医療費だけでなく、労働損失が大きな影響をもたらしていることが考えられる。

 子宮頸がんも同様に、若年女性が罹患する疾患のため、労働損失が多い結果が示された。

子宮頸がんの予防でもっとも効果的なのは
HPVワクチンの接種を受けること

 子宮頸がんを予防するために、もっとも効果的な方法は、男女がともにHPVワクチンの接種を受けることだと、スウェーデンのカロリンスカ研究所が発表した。

 ワクチン接種を受ければ、個人の免疫を高められるだけでなく、集団免疫も獲得でき、子宮頸がんの発生率を大きく低下できる。

 子宮頸がんなどの原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染だ。これは、性的接触のある女性であれば、50%以上が生涯で1度は感染するとされている一般的なウイルスだ。

 HPVワクチンの接種を受ければ、HPVの感染を防ぐことができる。日本でも、小学校6年~高校1年相当の女子を対象に、HPVワクチンの定期接種が再開された。

 「HPVはスウェーデンでも、もっとも一般的にみられる性感染症で、性的に活発な男女の多くが感染しています。しかし、スウェーデンはHPVワクチンの接種率が高く、発症率を低く抑えられています」と、同研究所の上級研究員であるヴィル ピメノフ氏は言う。

 スウェーデンではHPVワクチンの接種は、当初は12歳前後の女子にのみが受けていたが、2020年以降は男子と女子の両方に提供されるようになったとしている。

 「1992年~1994年に生まれた子供を対象とした追跡調査で、男の子と女の子の両方がワクチン接種を受けると、より強い集団免疫が得られることが示されました」と、ピメノフ氏は指摘している。

 一定の年齢に達した女性は、がん検診(子宮頸がん、乳がん、大腸がんなど)を定期的に受けることも重要だとしている。

国立研究開発法人 国立がん研究センター
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
Economic burden of cancer attributable to modifiable risk factors in Japan (Global Health & Medicine 2023年5月4日)

Gender-neutral HPV vaccination best at preventing cervical cancer (カロリンスカ研究所 2023年11月8日)
Harnessing the post-vaccination era: Do emerging HPV types represent a new threat? (Cell Host & Microbe 2023年11月8日)
[Terahata]
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