No.3 コロナ禍での対応の効果を示す
本連載での初回でご紹介したとおり、コロナ禍での特定保健指導で目指したのは以下の3点です。
①うまく回す(=実施数を減らさない)
②きれいに魅せる(=スムーズに面談を実施する)
③効果を示す(=アウトカムを明確にする)
今回は最後の「③効果を示す」について、現状とこれからの課題をお示しします。
コロナ禍での保健指導の「③効果を示す(=アウトカムを明確にする)」ために
2020年度は「コロナ禍で特定保健指導実施数を減らさざるを得なかった」という声を耳にしますが、デパート健保の面談数は過去2年の平均と比較すると1.3倍でした(この中には電話面談が含まれるため、国への報告数とは差異があります)。
実施数が増えた要因は、以下のようにさまざまなものが考えられます。
①対面式面談では、少人数または遠隔地の面談が実施しにくかったが、オンライン面談では対象者に公正公平に実施できたこと
②対面式面談では時間的に困難だった朝や夕方の面談が実施できたこと
③「ニューノーマルに乗り遅れないように」と世間が沸いていたタイミングを見逃さなかったこと
④コロナ禍での従業員の不安解消に、事業所が健保を利用しようと思ってくれたこと
⑤「オンライン面談は簡単!」と思ってもらえるアプローチしたこと
しかし、これは「コロナ禍」以前からの積み重ねがあったからこそと考えています。
デパート健保では、新型コロナ流行以前からコラボヘルスで保健事業を進めるため、スタッフが事業所、人事・総務等の担当者、特定保健指導対象者および職場環境等を熟知しており、それぞれにマッチングしたオペレーションを準備できる知識が前提として備わっていました。
特に保健師・管理栄養士は、各事業所のHPをくまなく閲覧し、関連ニュースを共有するなど、経営状況から新商品のことまで把握しています。もちろん事業所との関係が良いことは言うまでもありません。
ただし、上記の通りアウトプットとしての効果はありましたが、オンライン面談のアウトカムを明確にするための分析には、まだ時間がかかります。また、アウトカム指標も今までの形だけで良いのかという検討も必要となってきます。
今後、さまざまな形で分析・検証を進め、より効果的な特定保健指導に取り組んでいきたいと思っています。
オンライン面談により変えてきた、私たち専門職の働き方
オンライン面談の確立を進めると同時に、在宅勤務を取り入れるための働き方を整備し、デパート健保の専門職は、1度目の緊急事態宣言時から在宅勤務体制を取り入れられました。
私たち専門職は、もともと事業所での特定保健指導や健康教育等を「外勤」で行うことが多かったため、10数年前からリモートワークの体制を取り入れていたことが大きくプラス面に働きました。
とはいえ、10数年前はシステムやネットワーク面でもリモートワークへのハードルが高く、健保経営職の理解を得ることから始めなければなりませんでした。
理解を得た後には、使いやすさと併せて一番にクリアすべき「セキュリティ」の観点を重要視してデバイスの選定・起案、購入を行い、さらにスタッフへの貸与等の管理、クラウド型グループウェア(現在はMicrosoft365)の契約、導入などを、すべて自分たちで実施しました。
ちなみに、機械周り等に強いわけではないので、慣れない作業で時間も取られ、大変な思いをしたことを記憶しています。
上記のように、デバイス面ではリモートワークの体制はほぼできていたものの、健保オフィス内にはオンライン面談を実施する場所や通信状況などで望ましい環境がなく、その環境改善と併せて、スタッフの在宅勤務を推進することは喫緊の課題でした。
健康保険組合は要配慮個人情報を取り扱う業務の関係上、今まで在宅勤務の概念がほとんどなく、当健保も規定・規約を整備しない限り在宅に切り替えられない状況でしたが、コロナ禍が後押しとなり、まずは専門職からモデルケースとして始めることを検討し、在宅勤務が開始されました。
オンライン面談と在宅勤務の2点に取り組んだ結果
オンライン面談を取り入れたことで、コロナ禍以前に比べ、保健指導関連の実施件数が増えただけでなく、実施者側・対象者側双方にとって、時間・場所の選択肢が広がりました。また、現時点でオンライン面談とリアルでの対面型、それぞれのメリット・デメリットもある程度見えてきました。
当初、オンライン面談に対しては、対面型に比較して保健師の五感を活かしてキャッチできる情報量に差があると感じていましたが、その問題は私たちのオンライン面談技術の向上やツールの進化などで埋められるかもしれません。メリット・デメリットは今後の私たちの成長やDX(デジタルトランスフォーメーション)により変わってくるのだと思います。
また、在宅勤務を取り入れるための働き方についての整備は、必要とあらばさらに進めていきたいと思います。ただ、私自身としては1人で在宅勤務をするよりは、スタッフの顔を直接見ながら、時には息抜きの会話を楽しみながら仕事をするのが大好きです。
今回は主に特定保健指導について紹介させていただきましたが、当然のことながら、私たちの業務の中で特定保健指導は一部でしかありません。今後、常に加入事業所や加入者のことを考えながらDXを推進し、同時に対面式も大切にして他の業務も進めていきたいと考えています。
最後に:自らの力でよい環境を作り出すことが大切
連載の冒頭にも示しましたが、保健事業を良い形で対象者に展開するには、また、効果的に仕事を進めるには、専門職としての自分たちが「より効率的に働ける場を作ること」が大切であると考えています。
そのためには、与えられた環境に甘んじるのではなく、自らの力でよい環境を作り出すことへも労力を使うべきだとの考えのもと、コロナ禍を通じて「自ら動くことが大切である」ことを再認識しました。
「緊急事態宣言下で前進した特定保健指導のオンライン化と働き方 ―総合健康保険組合の取り組み―」もくじ
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