産業保健専門職育成現場レポート
②日本産業保健師会「新任期産業保健師養成研修」【前期】

「健康診断」から健康管理の基本を学ぶ

　午後のセッションでは、日本産業保健師会副会長・椎葉倫代氏が「健康診断の実施から保健指導場での計画・実施・評価」を講義した。
　「健康診断」は健康管理の柱であり、保健活動の仕組みや業務の進め方、保健師として必要なスキルを学習するうえで最適なため、本研修の主要テーマに設定されたことを椎葉氏が解説。実際に健康診断に取り組むための基礎知識や、健康診断の各工程、健康診断の保健計画（事業計画）を作成するために必要な事項などが網羅的に取り上げられた。

　来年１月に実施する後期研修では、この講義も含めた前期研修で解説された内容をもとに、各自が各事業所での「定期健康診断の作業工程表」を作成することが課題とされている。本研修で得た知識を実践の中で活用できる機会となっており、その過程で自組織の動き方を調べたり、さまざまな関係者に話を聞く機会が発生することも、学びの機会として目論んでいる。

さまざまな視点を知るグループワーク

　グループワークでは、約30名の参加者が5グループにわかれて討議した。各グループには、事前にファシリテーターとしての準備を重ねてきた岡田会長をはじめとした日本産業保健師会キャリア形成担当理事が加わり、グループワークの目的に沿ったサポートがなされていた。

　本研修の参加対象者である「経験５年目未満の新任期産業保健師」といっても、事業所や所属先によって、さまざまな違いがある。臨床看護からキャリアチェンジしてギャップを感じたと述べる参加者が過半数を占めたが、すでに産業保健体制の確立された職場やいわゆる一人職場で従事する保健師、産業保健業務をゼロから立ち上げるフェイズに立ち会った者や、健康管理システムの開発に携わる者など、さまざまなバックグラウンドがある。
　グループワークの討議テーマとして、講義を聴いてこれまでの自己の実践と対比しての感想や、知識の充足を目指したいと感じた点を述べ合うこと、および「健康診断に対する考え方や関与の必要性について」が設定された。各自の職場ならではの観点や悩みが持ち寄られ、いずれのグループでも議論が盛り上がっていた。

"前向きに考える"受講者が集う研修

　プログラムの最後に、参加者全員が感想を述べる時間が設けられた。
　参加者からは「これまでは任されたタスクしかかかわってこなかったが、まずは業務全体を把握することの大切さがよくわかった」「（キャリアチェンジ前の）看護師時代は手技で成長を実感できたが、保健師になってからラダーが明確でなかった。産業保健師版キャリアラダーを知ることができて有意義だった」「産業保健活動を事業所での取り組みとして捉えることで、コスト感覚という視点を持つことができた」といった声が聞かれた。

　ファシリテーター陣からもフィードバックがあり、本研修の特色である「考える」ことへの積極性を評価する声が相次いだ。岡田氏も「参加者の皆さんが、前向きに"考える"ことに取り組んでもらえて嬉しかった。今回一緒になった仲間と励まし合って頑張ってほしい」と述べ、2024年１月の後期研修に向けて期待が膨らむ中で、前期研修は盛会裡に終わった。

　キャリアを積み始めたばかりの産業保健師は、目前のタスクに邁進することが業務の中心となり、企業活動から俯瞰的にみた「産業保健業務」を見渡すことは困難である。本研修のように、意識的に全体を把握する機会を得ることは、有意義な経験となるだろう。今後数年間でのキャリアの方向性が明確になることで、産業保健師自身のモチベーション向上にも繋がるはずである。

　「事業場における保健師・看護師の活動実態に関する調査報告書」[1]でも産業保健師の基礎研修機会の少なさが明らかになっているが、「新任期産業保健師養成研修」のような取り組みが広がることで、この課題の解決に繋がるはずである。

2024年1月開催【後期研修】のレポート記事はこちら▶

参考文献
[1]令和２年度事業場における保健師・看護師の活動実態に関する調査報告書（労働者健康安全機構）（2023年12月現在）