オピニオン/保健指導あれこれ
健診機関での保健師活動 ~活動の場面が違っても保健師活動の基本は同じ~

No.2 当会が目指す保健師活動

(公財)神奈川県予防医学協会 健康創造室 相談課
飯塚 晶子
 当会は神奈川県全域を中心に、地域保健・学校保健・産業保健の対象に健康診断等のサービスを提供する「健診機関」兼「労働衛生機関」です。私の所属する健康創造室相談課は、保健師が健康診断結果を活かす保健指導をはじめとする、事業場の産業保健推進に産業保健師として寄与しています。

 企業の大小にかかわらず、すべての人がいきいきと働ける職場環境づくりや、働く人自身が健康を推進できるシステムを創造するように、支援しています。その中でも、特に、産業医や産業保健師等の産業保健スタッフをおいていない中小規模事業場のすべての人々が、産業保健サービスを受けられるように、活動することを目指しています。

 私たちが目指す保健師活動は、初めて当会に保健師が配置された、昭和48年からの歴史に、根ざすところが大きいと思います。当時、当会では中小企業の衛生担当者から、「健康診断がやりっぱなしになっているので、何とかならないか?」という課題を投げかけられていました。

 また、ちょうどそのときに大手企業の産業保健師を経験した6人のグループが、「何とかグループでまとまった仕事がしたい」といろいろ計画を練った結果「中小企業の健康管理をしようではないか」ということになりました。

 そして、そのスタイルに苦慮していたときに、当会の営業スタッフとの出会いがあり、同様の思いで模索していたところで話がまとまり、『外部の「健診機関」兼「労働衛生機関」から、中小企業の健康管理を総合的に支援する。』というスタイルが生まれました。

 まずは、準備として昭和48年1月から3ヶ月間、神奈川県下の事業場を回り、衛生担当者は何を望んでいるか調査したうえで、4月から正式に活動をスタートさせています。

 やはり、当初の予想どおり、健康診断(一般・特殊)をしても、そのためのフォロー体制がないという悩みを抱えていました。まず、それに応えるべく、年間契約として保健師が月1回、医師が年1回、年間25万円で事業場を訪問するスタイルを考えていました。

 しかし、予想に反し、なかなか契約にいたらず、保健師自ら営業スタッフに同行して、事業場に渉外しました。そのような努力も実を結び、昭和48年度末になってようやく、1社が1日だけの定期健康診断事後指導を短期の契約(現在の部分サービス)の形で実施され、昭和49年になってやっと4社が年間の契約(現在の総合サービス)となり、徐々に増加したのは、昭和52年以降のことだったようです。

 そして、この料金をいただいて、保健師業務を行うという全国で初めての試みは、当時の保健師にもプロ意識を芽生えさせ、引かれたレールの上を走る活動と違った面白さがあったようです。

 現在は、健康創造室相談課として、その歴史を引き継いでいますが、ゼロから「中小企業の保健師活動を外部から総合健康支援する」という新しいスタイルを創造した、6名の保健師のエネルギーには頭が下がる思いです。その歴史があるからこそ、今日のように当会では保健師活動のほとんどが、料金化されているのではないかと思います。

 また、現在の保健師活動にはプロとしての意識を重視する歴史を引き継ぎながら、保健指導の品質管理の概念を導入し、標準化により品質を確保するとともに、保健師それぞれが個性を活かし、より専門的で、総合的な産業保健サービスを提供することを目指しています。

 それでは、具体的に当会の保健師活動の概要をご紹介します。
 まず、サービスの形態としては、総合サービス(年間契約)と部分サービス(短期契約)の2種類があります。図1をご参照ください。

図1 サービスの形態

*図をクリックすると大きい画像でご覧いただけます

 この2つの形態は、事業場の多様なニーズにお応えするために、組み合わせて提供します。中小規模事業場への支援は総合サービスを基本としています。しかし、予算がない場合には年1回、定期健康診断事後指導だけでも従業員に提供する目的で、部分サービスとして提供する場合もあります。

 事業内容は産業保健・健康管理型メンタルヘルス・特定保健指導の3種類があります。図2をご参照ください。

図2 事業内容

*図をクリックすると大きい画像でご覧いただけます

 産業保健・健康管理型メンタルヘルスは総合・部分サービスの組み合わせで事業場と契約して実施します。特定保健指導は部分サービスとして健康保険組合と契約して実施します。

 図3は2011年に当会の保健師サービスをPRするために作成したリーフレットです。

図3 リーフレット

*図をクリックすると大きい画像でご覧いただけます

 タイトルは「保健師の総合健康管理支援のご案内~私たちだから出来る、総合健康管理支援があります。~」としました。この、『総合健康管理支援』のイメージとしては、部分サービスだけでなく、部分サービスを総合サービスと結びつけ、事業と事業を結びつけ、契約した事業場の産業保健全体が促進するように、総合的にかかわるといったことをあらわしています。

 No.1の「木と森」にたとえると、今回の「木」は部分サービスであり、従業員個人であり、「森」は総合サービスであり、事業場全体です。
 ▶No1. 改めて「保健師活動とは」

 このように私たちは、すべてのサービスにおいて、対象事業場や健康保険組合へのサービス提供が産業保健の何に寄与しており、今後どのようなサービス提供が必要かアセスメントし、事業場の産業保健の推進を目指しています。

 ご紹介したように、当会は昭和48年から、40年間産業保健を中心に保健師活動を料金化して、展開した歴史的背景があります。この背景の違いで、各々の機関での保健師活動の展開方法が違ってくるかもしれません。

 例えば、健診受診団体にもれなく無料で、保健相談を実施している場合にはすぐに料金化するのは難しいかもしれません。当会でははじめから料金化していたので、お客様からの健診結果のお問合せ電話等の一部の相談を除いて、事業化・料金化しています。それは、料金をいただける商品としての「保健師の質の確保」に、教育や品質管理等の取組みで努力をしているという自信にもつながっているし、料金に見合うだけの活動を提供しようという保健師自身の責任感にもつながっていると思います。

 また、活動が独立しているので、健診の契約がなくても単独で、契約することができ、その保健師活動が認められて、健診の契約につながることもあります。その活動は健診結果を有効に活用した健康管理とつながる活動となり、他の事業と連動し、発展していきます。このように、保健相談事業が、健診機関にとっても有益であることを自機関にアピールすることも重要かもしれません。

 これから、中小規模事業場の健康管理の担い手として、健診機関の保健師の役割は大きくなると思います。そのため、当会でも自機関の歴史や特色などの特徴や現状をアセスメントし、強みを活かした、保健師活動の展開、発展を目指したいと思っています。

参考文献:
1)30年の流れと課題、財)神奈川県予防医学協会30年記念誌編集委員会編、昭和60年7月19日版

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