オピニオン/保健指導あれこれ
健診機関での保健師活動 ~活動の場面が違っても保健師活動の基本は同じ~

No.3 企業の産業保健を外部から支援する保健師活動

(公財)神奈川県予防医学協会 健康創造室 相談課
飯塚 晶子
契約のきっかけとなる、企業の困りごとに、まずは応えること

 当会の保健師活動は、事業場や健康保険組合などの団体と保健師契約を結び、協議の上、保健計画を立案し、保健活動を実施します。

 企業の担当者が社員の健康問題の事例や健康増進の企画など、具体的な課題を抱えており、多くの場合、その解決を支援することが契約のきっかけとなっています。通常は、その団体と密に連絡をとっている営業スタッフが最初に情報を把握します。

「今、休業している社員が復職するが、どうしたらよいか困っている」
「従業員が50人以上になったので、嘱託産業医を契約したいが、保健師も一緒に契約したい」
「特定保健指導をしてほしい」
「健康診断で保健師面談によるストレスチェックをしてほしい」

 このように、きっかけや依頼内容は様々ですが、「健康課題を何とか解決したい」という要望や相談が、営業スタッフに寄せられます。

 なお、当会の営業スタッフは衛生管理者の資格を取得していますので、健康診断に関する健康管理等の相談に応じ、保健師サービスも含む、当会のサービスで協力できるかどうか、常に検討して対応しています。これを1次渉外と呼んでいます。

 その後、保健師契約を勧めることが、企業の産業保健の促進に役立つと考えた場合には、保健師に報告・相談があり、保健師が営業スタッフとともに企業を訪問します。これを2次渉外と呼んでいます。

 そこでは、より具体的に情報収集をおこない、まずは企業のニーズ「今、一番困っていて、早急に対処が必要」という緊急度と優先度の高い課題と当会の提供できる保健師サービスが一致する場合、契約となります。一致しない場合には、他の解決方法をご提案する場合もあります。

 まず、導入期は企業の困っていることをしっかりと把握し、担当者を支援しながら適切に対応することが重要です。この時期は、担当者と一緒に、優先度と緊急度の高い困りごとを解決し、次の対応を計画することで、担当者は産業医や保健師の活用方法を知り、互いに少しずつ相互理解を深めます。産業看護職としてよりよい、産業保健チームが形成されるように働きかけます。

企業と協働して、早い段階で、ハイリスクアプローチから、ポピュレーションアプローチへ移行する

 導入期では、メンタル疾患の復職支援など具体的に健康問題が起こっている事例の対応や有所見率の低下など健康問題を企業が明確にし、それの対応が求められ、多くの場合、ハイリスクアプローチ(2次・3次予防)から創めます。しかし、限られた予算と稼働時間をそればかりに費やしていては、企業のヘルスプロモーション*1は進みません。

 当初の健康問題が収束したら、それと並行して、健康相談や職場巡視など、できるだけ社員全員に出会う機会を設け、その活動を通して、保健師は職場把握を実施し、次のPDCAにつなげる活動を展開する準備を始めます。

 保健指導や健康教育といった集団・個人への対応に加え、環境や組織への働きかけを検討し、可能な限り早期の段階で、ポピュレーションアプローチ(1次予防)に移行できるよう、協議します。

 このように、具体的な活動をしながら、ヘルスプロモーションに貢献できるように、常にPDCAを回すことが重要です。

外部からの支援でも、常に産業保健の目的を達成するように活動すること

 外部から企業を支援する場合でも、「産業保健の目的*2にそって、PDCAを回すことが重要である」と当会では考えています。

 例えば依頼された内容が、保健指導や健康教育などの部分サービスであっても、企画をするためにはその企業の状況を把握し、実施目的や対象者の選定、方法などを企業の担当者や産業医とともに検討し、実施することが必要だと考えます。

 それは、部分と全体、個と集団は常に密接に関係しているため、公衆衛生看護の視点で保健計画を立案するときには切り離すことができないからです。

 また、「No.2 当会が目指す保健師活動」でもご紹介しましたが、当会の保健師活動は、事業場の産業保健推進に産業保健師として寄与し、企業の大小にかかわらず、すべての人がいきいきと働ける職場環境づくりや、働く人自身が健康を推進できるシステムを創造することを目指しています。そして、産業看護職*3として、個人・集団・組織へ支援する役割を求められています。(図1)


図1 産業看護職の役割

 しかし、外部機関の中には依頼された内容を評価せず、毎年くり返し、よりよい産業保健活動の提案をするのが難しい機関もあるようです。健診機関・労働衛生機関の保健師として、全ての機関がPDCAを回し、産業保健の目的に添って、事業を展開し、企業の健康課題の解決を支援してほしいと願っています。

外部の産業看護職として、大切な姿勢

 外部から企業を支援する場合は、年数回、月1回といったように多くは時間的な制約があります。また、職場訪問や内部の健康情報の閲覧も、直接雇用されている、看護職と比較すると限定されます。時には相談場所の会議室以外は自由に行き来できない場合もあります。

 そういった場合でも、会場までの移動の廊下ですれ違う社員の様子や食堂のメニューや盛り方など、「看護は観察からはじまる」を文字通り実践し、常にアンテナを立て健康情報をキャッチするように努力しています。

 このような限られた範囲の活動でも、専門職としてのアセスメントに基づいた適切な提案と、誠実で真摯な態度で社員や担当者との信頼関係を築くことができます。「この看護職なら信頼できる」と認めてもらえれば、外部からの支援でも、より円滑に展開できるようになります。

ヘルスプロモーションとは*1
人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス(オタワ憲章,1986)

産業保健の目的と内容(ILO/WHO,1950)*2
○すべての職業における働く人々の身体的、精神的および社会的健康を最高度に維持増進せしめること
○労働条件に起因する健康危害を予防すること
○健康に不利な諸条件から雇用中の労働者を保護すること
○労働者の生理学的及び心理学的特徴に適合する職業環境に労働者を配置し、健康を維持すること
○これを要するに、仕事の人間への適合と、人間の仕事への適応を図ることである

産業看護の定義(日本産業衛生学会/産業看護部会より)*3
産業看護とは、事業者が労働者と協力して、産業保健の目的を自主的に達成できるように、事業者、労働者の双方に対して、看護の理念に基づいて、組織的に行う、個人・集団・組織への健康支援活動である。

看護の理念:
健康問題に対する対象者の反応を的確に診断し、その要因を明らかにして、問題解決への支援を行う。その支援に際しては、相手を全人的に捉え、その自助力に働きかけ、気持ちや生きがいを尊重することが求められる。

参考文献:
「改訂5版産業保健マニュアル」
 和田攻編 株式会社南山堂(2006年1月11日 5版1刷)
「看護職のための産業保健入門」
 森晃爾編 株式会社保健文化社(2010年6月7日 初版)

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