No.1 働く人々のメンタルヘルス支援における看護職の役割
浜松医科大学院医学系研究科看護学分野 教授
巽 あさみ
産業看護職は、労働安全衛生法にその位置づけが明記されているわけではありません。しかし、全労働者に導入予定の「事業場におけるストレスチェック制度」を実践する職種として、「医師または保健師」と規定されるなど、働く人々のメンタルヘルス対策において期待される職種として広く認知されています。
平成22年に我々が行った「事業所のメンタルヘルス対策調査」(N=662社:巽ら.2011)によると、500人以上の事業場の46.7%が産業看護職を雇用しています。100~499人になると9.8%、50人~99人で4.8%、30~49人で3.9%と減少しますが、それでも50人未満でも雇用している事業場がありました。
その業務内容は「健康診断の実施、事後の保健指導」が87.2%で最も多いが、「健康相談」が79.5%、「メンタルヘルスの相談や面談」が64.1%を占めていました。本データから50人以上の事業場では産業医が選任されている場合でも、健康相談・メンタルヘルス相談となると看護職が主に実施していることがみてとれます。
実際に数年前筆者自身が、従業員約700人の事業場でメンタルヘルス担当として非常勤で携わっていたことがあります。嘱託産業医は内科医で「メンタルヘルスのことは何も知らないので看護職にお任せします」と言われました。そこでは、メンタルヘルス計画・体制づくりや社内規定の整備完了までを担当させていただきました。
従業員によると、メンタルヘルスに関して、「産業看護職だと気軽に相談に行ける」、「産業医に相談する時は、この先どうするかを決めてからでないと、その場に行けない」、「従業員側の立場にたって理解してくれる」「こわくない」などの声が聞かれました。
特にメンタルヘルス不調者からの相談で重要なことは、まだ病気に至っていない時点での相談です。健康と疾病は連続していますが、その早期境界の時期に医師(産業医)に相談することは「まだそれほどひどくないので、相談に行くのは気が引ける」のです。
メンタルヘルスの早期の相談は、万が一うつ病やうつ症状等病気が疑われる場合、速やかに専門の医療機関と連携することによって、早期治療・復職・再発防止に繋がり、従業員自身のQOLの向上と家族の安心、事業場の生産性へのプラスとなります。
一方、病気でない場合でも、しっかり話を聴いてもらっただけで感情表出欲求が満たされ、精神的安定に繋がります。また、関わりのタイミングも重要で、看護職は常勤勤務者がほとんどであり、危機介入時にタイムリーに対応することが可能です。
このような保健師等が持つスキルを踏まえた「職場におけるメンタルヘルス対策での看護職の主な役割」を考えてみますと、次のポイントがあげられます。