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産業保健師の実態と課題が明らかに―メンタルヘルス対応の最前線で奮闘も、非正規・単独配置など構造的課題も―
【日本看護協会「産業保健に関わる保健師等の活動実態調査」】〈前編〉

 企業で働く人々の健康を守る産業保健師。日本看護協会が公表した最新の調査結果からは、法定業務である健康相談・健康指導に尽力する姿や、メンタルヘルス対策の最前線での活躍が見られる一方、3人に1人が非正規雇用という厳しい雇用実態も明らかとなった。

「事業場における保健師等の活動実態の把握」調査

 日本看護協会は、2024年度に実施した「産業保健に関わる保健師等の活動実態調査」の結果をとりまとめ、2025年6月24日に公表した。
 この調査は、厚生労働省の「先駆的保健活動交流推進事業」に基づき実施された3つの調査で、産業保健分野で活動する保健師・看護師(以下、産業保健師等)の現状と課題を明らかにする貴重な資料となっている。

 本稿では、調査のひとつ「事業場における保健師等の活動実態の把握」について紹介する。<残りの調査については、来週公開予定の【後編】にて紹介>

最多の健康課題は「メンタルヘルス」ー健康相談・復職支援に多くの時間

 調査によると、約9割の産業保健師等が「事業場全体の健康課題を把握している」と回答しており、「把握している主な健康課題」の中で最多だったのは「メンタルヘルスで不調を抱えている方の人数・割合が多い(47.9%)」で、後に続く「喫煙者(35.0%)」「肥満者(34.7%)」といった課題を大きく上回った。
 メンタルヘルス対策が職場の喫緊の課題であることが明確に示された結果といえる。

出典:日本看護協会「ニュースリリース・3人に1人が非正規雇用 産業保健師等の活動体制の整備が必要」P.7(2025年6月24日)

 産業保健師等の健康管理・労働衛生教育に関する業務から「過去1年間で時間をかけた業務」をみると、法定業務である「健康相談・健康指導(75.3%)」を筆頭に、「休職・復職支援、治療と仕事の両立支援(58.8%)」「メンタルヘルス対策(46.8%)」が続いている。

経営層の理解が専門職の活動を後押し

 産業保健師等の活動は「個別の健康相談」にとどまらず、より専門的で個別性の高い複雑な課題への対応に変化してきており、労働者のQOL(生活の質)向上と企業の生産性の両方に直結する重要な役割を担っている。

 「総括管理等に関する業務」の取組状況をみると、産業保健師等が衛生委員会などへの参加を通じて、職場の健康課題を把握し、改善提案を行っていることも明らかになった。「衛生委員会への参画(59.3%)」が最も多く、「職場組織の健康課題の把握と改善に向けての提言(56.3%)」などが高水準で続いている。
 健康経営が注目されるなか、管理職や人事部門と連携し、保健師の専門性を活かした組織的アプローチも徐々に広がっていることがわかる。

出典:日本看護協会「ニュースリリース・3人に1人が非正規雇用 産業保健師等の活動体制の整備が必要」P.8(2025年6月24日)

 また、興味深いことに、従業員の健康保持・増進や健康づくりにより積極的に取り組んでいる事業場では、「メンタルヘルス対策」に時間をかけて取り組んだ者の割合が54.8%と、そうではない事業場より17.0ポイント高かった。
 さらに、健康経営の企画立案に参画している割合も42.1%(消極的事業場は27.7%)と高く、経営層の理解と協力が現場支援を後押ししていることが数値として示された。

地域保健との連携に課題ー多様な協働の可能性も

 地域保健(保健所、市町村保健師など)との連携状況については、産業保健師等の約7割が「地域との連携を十分に行っていない」と回答しており、地域の健康づくりの方針を「よく知っている」あるいは「知っている」としたのは38.8%に留まっていた。

 一方、地域保険関係者との連携・協働を実施している場合は、すでに個別支援・受療勧奨・家族支援といった多様な連携が実現されていた。今後は、産業と地域の「面」での連携による相互支援が、働く世代への包括的支援につながることが期待される。

非正規雇用・単独配置が専門性発揮の壁に

 このように活躍の場を広げている産業保健師等だが、その雇用環境に目を移すと、課題が多い状況であることが明らかとなった。

 調査を通じて、産業保健師等の3人に1人にあたる31.4%が非正規雇用で、しかも34.6%が単独配置であることが判明している。さらに、75.6%が「職位なし」と回答し、業務の重要性に比べて立場が不安定である実態が浮かび上がった。
 これは、産業保健師等の活動体制の整備と正規雇用の促進が喫緊の課題であることを示している。

 以上のような状況から、産業保健師等の専門性が組織内で十分に評価されず、戦略的な位置づけが確立されていない現状を浮き彫りにしており、産業保健活動の質と持続可能性に直接的な影響を及ぼす可能性もある。

継続学習とキャリア支援の不足が課題に

 また、産業保健分野の研修制度や継続的な実働支援は不十分で、新任期研修を受けた者も39.0%に留まっていた。産業保健師等として働き始める際に、必要な基礎知識やスキルを体系的に学ぶ機会が不足している現状を示唆している。
 結果として、産業保健師等は自己学習やOJTに頼らざるを得ず、知識やスキルの習得にばらつきが生じ、産業保健サービスの質の安定性に影響を及ぼしている可能性がある。

 実際に、産業保健師等が産業保健活動に取り組む上で必要なサポートとして、87.0%が「情報的サポート(問題解決に必要な情報提供や助言など)」が必要と回答しており、70.5%は「道具的サポート(専門的・実践的な実働の支援など)」がないと回答している。
 また、自身のキャリア形成や継続学習に関する課題としては、「産業保健分野に就職後の体系的な学習機会の整備(70.3%)」「産業保健に関する基本的な知識習得機会の拡充(55.8%)」などが挙げられていた。

出典:日本看護協会「ニュースリリース・3人に1人が非正規雇用 産業保健師等の活動体制の整備が必要」P.18(2025年6月24日)

 これらは「単独配置」「役職なし」といった孤立した環境で働く産業保健師等が多いことと関連しており、彼らが職場で十分なサポートを得られていない現状を反映している。産業保健師等は、就職後も継続的に専門性を高めるための体系的なキャリア支援の体制整備が大きな課題であることが明らかとなった。

*  *  *

 後編では、引き続き活動実態調査より「調査②:地域・職域保健における保健所保健師の活動実態の把握」「調査③:小規模事業場の健康を支援する保健師等の活動実態の把握」を紹介する。

参考資料

保健師関連事業|日本看護協会
ニュースリリース「3人に1人が非正規雇用 産業保健師等の活動体制の整備が必要」|日本看護協会
ニュースリリース|日本看護協会

[保健指導リソースガイド編集部]
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