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高齢者の社会参加を促すには「得より損」 ナッジを活用し関心を2倍に引き上げ 低コストで広く展開でき効果も高い 健康長寿医療センター

 高齢者の社会参加の意欲を高めるのに、「ナッジ」の手法が効果的で、「社会参加活動をしないと、あなたにとって損である」といった、"損失に訴求したメッセージ"は効果が高いことが、東京都健康長寿医療センターの研究で示された。

 損失に訴求したメッセージより、関心、意欲、印象を刺激できることが示された。「参加しないと損するかも」といった一言が、高齢者の心を動かす鍵になる可能性がある。

 メッセージフレーミング(情報の見せ方の工夫)は、制作コストが低く、広く展開しやすいという利点がある。

ナッジの手法で高齢者の社会参加の意欲を高める

 高齢者の社会参加の意欲を高めるのに、行動経済学にもとづく「ナッジ」の手法が効果的と言う研究を、東京都健康長寿医療センター研究所が発表した。

 ナッジは、強制ではなく働きかけることで、反発をまねくことなく、自発的な行動変容を引きだすための理論。情報の伝達などを工夫することで、低コストで効果を得られる可能性がある。

 高齢期の健康長寿を支える柱として「社会参加」が注目されており、とくに地域活動への参加は、孤立の予防や心身の健康維持に寄与することから、重要性が高まっている。

 しかし、多くの高齢者は「きっかけがない」「時間がない」「人間関係が面倒」などの理由で、活動参加への第一歩をふみだせないでいる。

 そこで研究グループは、ナッジを用いて、高齢者の社会参加を引きだす効果的なメッセージを検証した。

「参加しないと損するかも」という損失に訴求したメッセージの効果は高い

 これまで、高齢者の社会参加を促す方法は、たとえば「社会参加の活動は健康づくり・生きがいづくりにつながります」といった、社会参加の好ましい影響を周知するパンフレットを作成する程度にとどまっていた。

 一方、ナッジは人々の行動を自然に後押しするアプローチであり、これまでに健診(検診)受診や食生活の改善といった、望ましい健康行動を促す手法として効果が示されている。

 研究グループは今回、ナッジの手法のひとつである「メッセージフレーミング」(情報の見せ方の工夫)を応用し、「どのようなメッセージが高齢者の社会参加活動を促すのか」を観察研究によって明らかにした。

 その結果、「社会参加活動をしないと、あなたにとって損である」といった、"損失に訴求したメッセージ"が、とくに社会参加の経験がない高齢者の態度や意欲を高める可能性があることが示された。

個人損失メッセージにより社会参加活動への関心は2倍に上昇

 研究の対象としたのは、新潟県十日町市と山形県川西町に住む65歳以上の高齢者1,524人。社会参加活動を行っている人といない人が半数ずつだった。

 研究グループは、対象者を4つのグループにランダムに割り振り、以下に示す社会参加活動に関する異なるメッセージを読んでもらったうえで、参加への態度や意欲を尋ねた。

(1) 個人利得メッセージ
あなたが社会参加活動をすることで、やりたいことを継続でき、自己負担の医療介護費が抑制される
(2) 個人損失メッセージ
あなたが社会参加活動をしなければ、やりたいことを諦めることになり、自己負担の医療介護費が高くつく
(3) 地域利得メッセージ
あなたが社会参加活動をすることで、地区に住む人同士のつながりや絆が強まり、皆が元気に安心して住み続けられる
(4) 対照群
メッセージなし

 その結果、個人損失メッセージ群は、対照群に比べ、社会参加活動を行っていない人に関する分析で以下の結果になった。

個人損失メッセージの効果
社会参加活動への関心1.96倍
社会参加活動の開始意向1.74倍
社会参加活動への印象1.56倍

 個人利得メッセージも、関心の高さと関連したが、個人損失メッセージに比べると、その関連は弱かった。

 一方で、すでに社会参加活動をしている人に対しては、どのメッセージも大きな違いはなかった。すでに行動している人は、高い意欲をもっているため、効果が出にくかった可能性があるとしている。

社会参加活動を行っていない人では「参加しないと損である」と強調する個人損失メッセージは効果が高かった
出典:東京都健康長寿医療センター研究所、2025年

メッセージフレーミングは制作コストが低く広く展開しやすい

 研究は、東京都健康長寿医療センター研究所の村山洋史研究副部長らの研究グループによるもの。研究成果は「BMC Public Health」に掲載された。

 「今回の研究は、"社会参加を促すにはどのようなメッセージが効果的か"という実践的課題に、エビデンスをもって答えた国内初の大規模研究です。とくに、社会参加活動をしていない人に対しては、"参加しないことのリスク(=損失)"を強調したメッセージが、関心や行動意欲の向上に有効であることが示されました」と、研究者は述べている。

 「これは、人間がもつ"損失回避バイアス"と呼ばれる認知バイアスと深く関係しています。私たちは、何かを得たときの喜びよりも、同じ価値のものを失ったときの苦痛を2〜3倍強く感じる傾向があると言われています」。

 「社会参加活動をしないことによる損失に訴求したメッセージより、関心、意欲、印象が強く刺激された可能性があります」としている。

 メッセージフレーミングは、制作コストが極めて低く、広く展開しやすいという利点がある。研究成果は今後、国や自治体などが行う広報活動や介護予防事業などで、効果的なメッセージの設計が求められるなか、重要な知見になるとしている。

 なお、今回の知見を用いた無作為化比較試験による大規模介入研究(損失に訴求したパンフレットを読んでもらうと、本当に社会参加活動に参加するようになるのかを検証する実験)も実施しており、近く結果を公表する予定としている。

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム
Message framing effects on attitude and intention toward social participation in old age (BMC Public Health 2023年9月4日)

[Terahata]
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