オピニオン/保健指導あれこれ
病気になっても仕事を続けるための支援

No.2 仕事について情報を得る

荒木労働衛生コンサルタント事務所 所長
荒木 葉子

 医療機関と事業所をつなぐ最初のステップは本人が勤務情報を主治医・看護職に伝えるところから始まります。

 医療機関にいる医療職と職場にいる医療職で、できることは異なりますが、根本的には、本人の治療と仕事の両立に対する意向の確認する、不安な点を明確にする、情報を整理する、情報収集を助ける、ことが基本になります。今回のガイドラインは主として事業所向けに作成されていますので、産業保健職および人事が対象となっています。

 本人の思いは刻々変化しますので、決定が変化した場合も受容的にとらえること、不明な部分を追及しすぎない、話したがらないことを深追いしない、なども大切です。

 仕事の情報収集に入る前に、まず、医療職として以下の点を把握しましょう。

 重篤度、緊急度を把握する

 がんと診断された方の重篤性、緊急性をまず把握しましょう。身体的、心理的、職業的、経済的、場合によっては家庭的な観点から、重篤度、緊急度を把握します。

  •  ○身体的:体重減少、出血、麻痺、呼吸困難、痙攣、意識消失、激しい痛みなど、
  •  ○心理的:希死念慮、抑うつ、不安、不眠、食欲不振など
  •  ○職業的:解雇、降格、異動、退職、契約の打ち切りなど
  •  ○経済的:失業、貯金や保険、借金、ローンなど
  •  ○家族的:育児・介護・家事ができなくなる、家族がショックを受けるなど

 重篤度や緊急度が高い場合は、自分だけで解決できる問題か、他の方の協力を求めた方が良いか、なども検討します。

 重要性と本人の認識について把握する

 がんと診断された際の受け止め方は様々です。主治医から説明を受けていても、頭が真っ白でほとんど把握できていない場合もあります。上記のような観点から、重要性を把握し、本人の認識にズレがないか把握しましょう。

 

 現在の状態がかなり重篤であるにもかかわらず、楽観的過ぎる場合、逆にそれほど重篤ではなさそうなのに、悲観的過ぎる場合など、現実と本人のとらえ方にかい離が大きい場合には、特に注意深く聞く必要があります。

 重大だと考えられる状態であるにもかかわらず、皆に迷惑をかける、解雇される、などの不安が大きく、治療したがらない方もいます。また、仕事のせいでがんになってしまったのだから、この際、きっぱりと仕事を辞めたい、という方もいます。

 病気と仕事のバランスのとり方は、医学・医療からの側面と社会的側面、本人の価値観によって様々です。

 産業保健職、人事担当者は、本人の希望を把握すると同時に、安全配慮義務、個人情報の保護に留意した対応をするように心がけましょう。

 何を一番心配しているのか、を明確にする。

 診断された直後は、頭の中が整理されておらず、複数のことがバラバラと頭に浮かび、混乱している状態であることが多いです。

 病気、仕事、家庭、生きがいなどカテゴリー別に、具体的に何を心配しているのか整理していきましょう。

 NPO法人キャンサーリボンズでは、がんと診断された場合の「大事なもの整理シート」を発行しています。無料でダウンロードできますので、活用してください。  

 サポートの方法

 サポートの方法には5つの種類があると言われています。本人がどのようなサポートを希望しているのは把握するようにしましょう。

 その際に、留意したいことは、

  •  ○本人の主体性を引き出すことが重要、
  •  ○依存心、過度な期待を持たせないようにする、
  •  ○情報の正確性に留意する、
  •  ○本人の人間関係を把握する、
  •  ○誠実な対応が必要、

ということです。

 わからないことを不正確に伝えるよりも、正直にわからない、と伝え、一緒に調べる、という共助のスタイルが良いのではないか、と思います。

 勤務情報の把握

 本題の勤務情報の把握についてです。

 仕事を継続したいかどうかは、本人の状況や価値観によりますので、本人の意志を最も尊重します。ただし、不確実な情報に基づいて判断している場合もありますので、情報的支援はとても重要です。

 ガイドラインには本人が勤務情報を主治医に伝える様式が掲載されています。本人が自営業の場合もありますが、今回は、主に雇用されている社員への支援に関し、述べることにします。

 ところで、皆さんは、ご自分の雇用契約や就業規則をご存知でしょうか。 雇用形態は多様化しており、正社員、パートタイム社員、派遣社員、委託社員などがあります。

 パートタイム労働者とは 1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用される通常の労働者(正社員)の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者のことで、「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、呼び方は異なっても、パートタイム労働法の対象となります。フルタイムで働く方であっても「パート」扱いの場合もあります。

 派遣社員は、派遣会社に所属し、派遣先で労働する社員で、派遣労働法の対象になります。雇用形態が、本人―派遣会社―派遣先会社の三角関係になり、直接雇用とは大きく異なります。

 では、正社員はどのように定義されるか、というと明確な定義は無く、一般的に有期雇用ではない、フルタイム、社内での育成や昇進・昇格制度がある、というイメージの社員ということになります。

 労働者である限り、いずれも労働基準法、労働契約法、安全労働衛生法などの適応を受けます。

 労働条件通知書と雇用契約書

 労働条件通知書は労働基準法第15条(労働条件の明示)に基づくものであり、雇用契約書は労働契約法第4条(労働契約の内容の理解の促進)に基づくものです。

 前者は使用者が雇用者に提示するもの、後者は両者で合意し契約を結ぶもの、という違いがあります。前者は違反した場合には罰則がかかりますが、後者は罰則規定がありません。

 労働条件通知書は使用者が書面として以下を示す必要があります。

  • 1. 労働契約の期間
  • 2. 業務を行う場所、業務内容
  • 3. 業務の開始・終了の時刻、残業の有無、休憩時間・休日・休暇など
  • 4. 賃金(退職金、賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法など
  • 5. 退職に関する事項

口頭でも良いものは、以下の内容です。

  • 1. 昇給に関する事項
  • 2. 退職手当がある場合は、適用される人の範囲や計算方法など
  • 3. 賞与など
  • 4. 負担させる食費や作業用品の費用など
  • 5. 安全衛生に関する事項
  • 6. 職業訓練に関する事項
  • 7. 災害補償、業務外の傷病扶助
  • 8. 表彰、制裁に関する事項
  • 9. 休職に関する事項

 パート労働者の場合も、労働条件通知書は必要ですし、提示されない場合の罰則金は更に高くなります。

 就業規則には、それぞれの企業で定めた規則が記載されています。

 例えば、時間有給のような有給の取り方、病気療養のための休職制度、フレックスタイム、在宅勤務制度など、会社によって様々です。上記のように法律で定められているものが記載されていることは必須ですが、法律で定められていないものも就業規則に記載されていることがあります。

 病気療養のために、特に重要になるのは、雇用期間の定め、使用期間の定め、有給休暇、病気休暇制度、休職制度、解雇事由などです。

 チェックシートについて

 今回のガイドラインでは以下のようなひな形を提示しています。

 また、キャンサーリボンズホームページから、右に仕事面、左に治療面を書き込めるシートを無料でダウンロードできます。

 療養に重要な点は、下記をまず把握することです。

  •  ○正規雇用か非正規雇用か、
  •  ○雇用期間が有期か無期か、
  •  ○労働時間および柔軟性
    (深夜労働、休日勤務、交代制勤務、フレックス勤務、在宅勤務など)、
  •  ○有給休暇(日数および取得方法)、
  •  ○欠勤および休職の取り扱い

 本人が自分の雇用条件を十分把握していない場合もあります。その場合は、担当者につなぐ、資料を探すなどが必要ですし、わかりにくい場合は、病気と就業に関する情報をまとめて提供できるようにしていく工夫が求められます。

 さらに詳しい情報を

 雇用条件だけではなく、仕事の内容(内勤外勤、専門性、対人業務など)、作業内容(立位座位、重量物運搬など)、職場の環境(温熱状況、トイレや休憩室、クリニックの有無、産業保健職の有無など)、人間関係、職場の雰囲気を把握することも重要です。

 離職の原因の上位に「病気を言い出せる雰囲気ではなかった」があり、いわゆるダイバーシティ文化(多様性を尊重し、受容する文化)の有無は、病気と仕事の両立をするうえで大事なポイントになります。

本人が一番気になっている部分を優先的に、把握していきましょう。

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