オピニオン/保健指導あれこれ
病気になっても仕事を続けるための支援

No.4 両立プランの策定にむけて

荒木労働衛生コンサルタント事務所 所長
荒木 葉子

 これまでの回で、産業保健職は、本人が主体的に治療と就労を計画していけるように、まず、就労の情報を整理して医療者側に伝えること、そして、診断や治療の内容や計画およびそれが就労に及ぼす影響について医療者側から聞き取り、職場に伝えることを支援することが重要であることを述べてきました。

 個人情報保護と安全配慮義務

 個人情報保護の観点からは、本人が主体的に自分の情報を扱うことが望ましいのですが、場合によっては、事業所と医療機関の間で、健康に関する個人情報を取り扱う必要が出てくる場合があります。厚生労働分野における個人情報の取り扱いに関するガイドラインは以下のサイトで確認できます。

厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等  

 また、雇用管理に関する個人情報のうち健康情報に関するものは、以下のサイトで確認できます。

雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項
(平成27年11月30日通達)

 重要な点は、取得する健康情報はその取得目的を明確にすること、内容および開示範囲は最小限にすること、本人の同意を得ることです。例えば、診断書以上の内容を医療機関に問い合わせる際には、以下のような点に留意すること、となっています。

 「事業者が、労働者から提出された診断書の内容以外の情報について医療機関から健康情報を収集する必要がある場合、事業者から求められた情報を医療機関が提供することは、法第23条の第三者提供に該当するため、医療機関は労働者から同意を得る必要がある。この場合においても、事業者は、あらかじめこれらの情報を取得する目的を労働者に明らかにして承諾を得るとともに、必要に応じ、これらの情報は労働者本人から提出を受けることが望ましい。」(「雇用に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」第3-1-(1))

 一方、事業者には労働契約法第5条において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」という規定、いわゆる「安全配慮義務」があります。

   労働者が働きたいと言っても、労働内容に鑑み、労務に耐えられないと判断される場合もあります。職場においては、個人情報保護と安全配慮義務の両者を考慮し、就労と治療のバランスを取っていくことが求められます。

 そのためには、診断書や復職の際の主治医意見書のひな形には、就労のために必要と考えられている健康情報を明示しておき、誰でも閲覧できるようにしておくこと、また、取得の際には本人のサインを入れることが推奨されています。

 がんという病名を開示したくない人に対しては、開示することのメリット・デメリットを良く相談し、開示の内容(病名以外の症状や必要な配慮)などを決定していきましょう。

 合理的配慮

 2016年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「障害者差別解消法」)が施行され、一人ひとりの困難に感じていることに合わせた「合理的配慮」の提供が行政・事業者に義務化されました。

 合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう、障害・困難さを取り除くための個別の調整や変更のことです。たとえば、肢体不自由な人の移動のためのスロープやエレベーターの設置や、視力障碍の人に読み上げ機能のついた端末提供、疲労感が強い人に休憩スペースや勤務時間の配慮などです。

 ここでいう障害者は「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」(障害者差別解消法 第2条第1号)となっており、がんによって心身および社会的障害を負った方も対象になると考えらえます。

 また、何をもって「合理的」というかは、「必要かつ適当」と考えられており、他の人との平等性をあまりにも損なったり、組織や他の人にあまりにも大きな負担が生じる場合は合理的ではないと判断されます。ただし、合理的ではないと判断した理由を本人に説明する必要がある、ともされています。 

 障害者権利条約の制定には“Nothing About Us Without Us”-「私たちを抜きに、私たちのことを決めないで」が合言葉になっており、合理的配慮にも当事者(あるいは当事者の支援者)の主体的な意思表明が重要とされています。

 医療職は、常に当事者の主体的な意思を尊重し、専門的な知識を動員し、医療機関側、企業側から可能な対応を引き出し、工夫を加えることが求められます。

 病気と仕事の両立マニュアル

 がんは他の疾患と同じ部分もあり、異なる部分もあります。一つの事業所で、疾患ごとのマニュアルを整備することは難しく、また、個々の状況すべてに当てはまるものを作成することも困難です。したがって、産業保健職は、病気と仕事の両立マニュアルとして、以下のようなものを盛り込んだものを作成しておくと良いと思います。

1. 病気と仕事に関する社内規定をわかりやすく説明する冊子やサイトの情報
2. 診断されたときから、復職するまでの大まかな流れ、必要な書式
3. 個人情報保護や安全配慮義務の説明
4. 医学的情報の案内(ガイドラインや副作用、後遺症に対する工夫など)
5. 合理的配慮の良好事例(グッド・プラクティス)
6. 心身のチェックシート

 また、がんは最初の診断時にショックを受けますが、再発時はそれを上回るショックを受ける場合が多いです。復職した後も、無理していないか、通院は継続できているか、など定期的な面談を継続していくことは大切です。

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 私はNPO法人キャンサーリボンズで「がんと働く」プロジェクトを行ってきました。
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