ニュース
ウォーキングが糖尿病腎症を改善 腎臓を守るために運動は必要
2015年09月30日
ウォーキングなどの有酸素運動を長期間続けると、糖尿病腎症を改善できることが科学的に立証され、そのメカニズムが解明された。
運動が糖尿病腎症を改善するメカニズムを解明
ウォーキングなどの有酸素運動によって血糖値の上昇を抑えられ、インスリンの感受性が改善し血糖値が下がりやすくなる。
運動を続けると、インスリンを分泌する膵臓が大きくなり、機能も改善してインスリン分泌を高めることも最近分かってきた。運動には体重減少、脂質異常症の改善などの効果もある。運動を習慣として続ければ、寿命を延ばすことができる。
しかし、多くの臨床現場では、運動療法は推奨されているものの、血糖や脂質を下げる薬物治療が優先されることが多い。
その一因は、糖尿病の合併症のひとつである糖尿病腎症に対する有効性についてよく分かっていないからだ。
そこで、東北大学大学院の研究グループは、ウォーキングなどの有酸素運動を長期的に行うと、糖尿病腎症を改善できることを科学的に立証し、そのメカニズムを解明した。
酸化ストレスや高血糖による糖化ストレスを改善
2型糖尿病や肥満の重要な合併症として腎障害があり、進行すれば腎臓が機能しなくなり、透析や腎移植が必要になる。
腎障害の治療は、血糖や脂質を下げる薬物療法が一般的で、多くの臨床現場では、運動や食事制限については推奨する程度にとどまっている。
そこで研究チームは、2型糖尿病で肥満のラットに、トレッドミルを用いて1日60分、週5日の有酸素運動をさせる実験を行い、腎組織の一酸化窒素、酸化ストレス、糖化ストレスの変化を調べた。
一酸化窒素(NO)は、血管拡張作用により血圧を下げたり、抗酸化作用などによって心臓や血管を保護するのに加え、腎臓の保護作用にも関わっている。また酸化ストレスや高血糖による糖化ストレスは、糖尿病腎症を進展させる。
運動の強さを増していくと、筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなり、血液中の乳酸が急激に増加しはじめる閾値がある。ラットにはこの閾値に達するまで運動をさせた。
その結果、有酸素運動を長期続けることで、アルブミン尿や多尿が抑制され、腎機能が改善することが判明した。腎組織を観察したところ、血液中の老廃物が濾過される「糸球体」や血管の障害が改善されていた。
また、運動により、腎内の「内皮型」および「一酸化窒素合成酵素」が増えていた。これらの酵素は細胞内にあり、主に血管拡張と細胞間情報伝達に関わっている。さらに、運動により酸化ストレスと糖化ストレスのマーカーが軽減することが判明した。
腎臓を守るために運動は極めて有用
これらの結果から、肥満をともなう2型糖尿病では、有酸素運動を長期行うことで、一酸化窒素が増強され、酸化ストレスと糖化ストレスが軽減され、腎障害を改善することが明らかになった。
研究成果は、近年増加するメタボリックシンドロームの代表的疾患である糖尿病や肥満における腎障害の進展に対して、運動療法が極めて有用であることを裏付けている。
さらに、運動療法治療は薬物治療や外科的治療に比べ、医療経済面や安全面で優れている。糖尿病の患者や予備群に運動を推奨することの社会的意義は大きい。
この研究は、東北大学大学院医学系研究科宮城地域医療支援寄附講座の伊藤大亮助教、清元秀泰教授らの研究グループによるもので、科学誌「プロス ワン」オンライン版に発表された。
東北大学大学院医学系研究科・医学部
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「運動」に関するニュース
- 2023年08月28日
- わずか5分の運動でも「がんリスク」を32%減少 無理なく続けられる「新しい運動法」を開発
- 2023年08月28日
- 週末の「寝だめ」では平日の睡眠不足のダメージを回復できない 寝不足が心臓の健康に悪影響
- 2023年08月28日
- 高齢者の「フレイル」の発生リスクを40%低減 「要支援」の高齢者が通所系サービスを利用すると効果
- 2023年08月21日
- 肥満やメタボが「腰痛」を引き起こす コロナ禍でさらに増加 「腰痛」を改善する運動は?
- 2023年08月21日
- 「運動アプリ」がメンタルヘルスも改善 スマホアプリの導入は運動指導で障壁の低い介入に
- 2023年08月15日
- 軽いウォーキングなどの低強度の運動でも脳を活性化できる 運動で高齢者の認知機能を維持・増進
- 2023年08月08日
- 若い世代でも「脂肪肝疾患」が増加 やせていても体脂肪が蓄積 肥満とどう違う?
- 2023年08月07日
- 【がん予防の経済効果】 がんのリスク要因を減らして1兆円超の経済的負担を軽減 生活スタイルや環境の改善が重要
- 2023年08月01日
- 肥満やメタボになりやすい生活習慣は子供のうちに身についている 子供の頃から保健指導が必要
- 2023年07月31日
- 歩きやすい環境に住む人はメタボ・肥満が少ない 運動・身体活動を促す地域環境をデザイン