オピニオン/保健指導あれこれ
保健師の活動と放射線について

No.7 対象別協働実践報告(1) 母子

保健師の活動と放射線 研究班
川崎 千恵
国立保健医療科学院生涯健康研究部
公衆衛生看護研究領域
経歴:
同志社大学文学部社会学科卒業、京都府立医科大学医療技術短期大学部専攻科修了、聖路加大学大学院看護学研修科博士前期課程修了。看護師、保健師、社会福祉士。

臨床看護師、行政保健師(大阪府、東京都特別区)、厚生労働省(雇用均等児童家庭局児童虐待防止対策室、老健局老人保健課)勤務を経て、2013年から現職。

 私たちはどうすれば放射線防護文化をつくっていくことができるかについて、A市の保健師とチームを組んで、協働で研究を行いました(No.1参照)。

 母子を対象とした協働実践では、既存の母子保健事業(「子育てサロン」や「ママクラブ」など)の一部に、放射線に関するミニ講座を組み込み、車座のかたちで子育てにおける放射線に関する不安や悩みについて対話を行う機会を、4地区で計5回得られました(2014~2015年度)。

 協働実践の概要
 いつもの雰囲気の中で、誰でも自由に発言できる雰囲気づくりや、住民と同じ目線で話をすることを心がけながら、放射線防護の専門家が15~20分程度講話を行いました。

 講話の内容は、事前に保健師が参加予定の母親に対して「放射線に関すること」について聞き取りをして把握した、母親が抱えているニーズや不安の内容をもとに検討し、「放射線に関する基本的な知識」、「地域別の被ばく線量」、「不安やストレスによる健康被害への懸念」、「日常生活にかかわる食べ物と飲料水や、日光浴、外遊び」としました。

 資料を見ながら理解できるように、講話の内容をA4サイズにまとめて配布し、A市のデータを用いながらお話しするとともに、子どもの健やかな成長と将来を考えながら、リスクと向き合っていくことの大切さを伝えていきました。

<<講座の様子>>

 最初に、「どのようなことが気になっていますか」「どのような話が聞きたいですか」と問いかけ、挙手してもらうなどして、参加した母親が最も気になっていることを中心に講義を始めるなどの工夫も行いました。

 その結果、次第に誰でも発言できる雰囲気がつくられていきました。その後、質疑応答を含めた対話の時間を20~30分設け、わかちあいました。

 協働実践を行って
 参加した母親から聞かれた質問や発言、感想を、「母親が抱えていた不安や悩み」と「母親が講話を通じて得たもの(感想)」として図1に整理しました。

図1

*画像をクリックするとPDFにて資料をご覧いただけます。

 参加した母親は、潜在していた放射線に対する不安や、不安ゆえに普通に生活していなかったことに自ら気づくきっかけになっていました。

 また、放射線に関する不安や悩みは、その人の置かれた状況に応じて、時間の経過とともに変化していました。そのため、通常の子育て支援のなかで、継続的に放射線に関する支援のニーズに対応していく必要があると考えられました。

 協働事業に取り組んだ当初、保健師は「もう住民からの放射線に関する訴えや悩みの相談は少なくなっており、目立ったニーズはない」と考えていました。

 しかし、協働事業に取り組むなかで、参加した母親が漠然とした不安や悩みを抱いており、なかなか表出することができなかったことなどがわかりました。

 保健師は、参加した母親の反応から、「住民にニーズがないということではない」と気づいて、今後の関わりについても考え始めていました。

 また、住民との対話は、保健師にとっても自分の状況を整理でき、自身も放射線への疑問や不安を表出できる機会となっていました。このことから、保健師にとっても放射線への疑問や不安、悩みを表出し、共有する機会が必要であると考えられました。

 まとめ
 自治体が行う母子保健事業は母親が参加しやすく、保健師はその地域の人びとや文化、地域特性について熟知しており、母親にとって身近な存在です。

 そのような既存事業の一部で保健師と協働で放射線に関するミニ講座を行うことで、放射線に関する話題も受け入れられやすく、母親もいつもの雰囲気のなかで不安や疑問を表現しやすいのではないかと考えられました。車座になって触れあいながら行ったことも、効果的であったと考えられました。

 また、既存の母子保健事業の一部に組み込み、育児相談の一部として放射線に関する疑問や不安も表出できる機会として認識してもらうことによって、今後も放射線に関する新たな不安や疑問が生じた時、表出することができるのではないかと考えられました。

 私たちは、保健師と組んで行ったこのような協働実践が、住民とともに放射線防護文化を形成していくうえで、有効なアプローチであると確信しています。

 しかし、保健事業への参加は会場に来ることができる人に限定されるため、開催場所を増やす、あるいは民生児童委員や子育てサポーター(地域のボランティア)等を対象に開催して、地域の人たちに草の根レベルで共有してもらうことも必要と考えられました。

 おわりに
 子育てをする母親や父親は、子どもの成長過程をとおしてそのつど新たな不安や悩み、疑問に直面し、ときに誰かの支援を必要とします。

 福島に暮らす子育てをする母親や父親の放射線に関する不安や悩み、疑問、支援のニーズも、時間の経過とともに形を変え、支援を必要とするときが、またいつやってくるかもしれません。

 保健師と専門家・研究者が今回の協働実践のように連携して、子育てをする親を継続的に支援することができる体制をつくることも大切です。私たちは、今後も引き続き放射線防護文化の形成における保健師活動のあり方について、考えていきたいと思っています。

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