ニュース
母乳が赤ちゃんの腸内フローラを健康にする メカニズムを解明
2018年11月21日

母乳育児は子の生体機能に有利に働くことが知られている。
母乳に含まれる成分が、赤ちゃんの腸内で乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌以外の細菌を増やさない門番のような役割を担い、腸内環境を健康に保っていることを、東京農工大学などの研究グループが明らかにした。
母乳に含まれる成分が、赤ちゃんの腸内で乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌以外の細菌を増やさない門番のような役割を担い、腸内環境を健康に保っていることを、東京農工大学などの研究グループが明らかにした。
哺乳期につくられた腸内フローラは一生変わらない
人を含む哺乳類は進化の過程で、母乳で子を育てる戦略を選択してきた。一方で、哺乳類にとって腸内フローラは生体の恒常性維持に重要であり、これが乱れるとがんや糖尿病などの生活習慣病、認知症の発症リスクを高めることが分かっている。
腸内フローラは生まれて間もなく形成が開始され、離乳などを経て徐々に大人の菌叢へと近づいていく。哺乳期間を含む腸内フローラの形成過程に獲得した腸内細菌は、多少のバランスの変化は起こるものの生涯不変とされている。
老化とともに乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌は減少するが、基本菌叢のパターンは大きく変わらないと考えられている。ヨーグルトなどの乳製品を摂取すると、一時的に菌叢を変えられるが、摂取をやめると元に戻ってしまうのはそのためだ。
つまり、赤ちゃんの哺乳期に、腸内フローラを正常な菌叢に整えることが重要ということだ。そしてその秘密は母乳中に隠されている。
関連情報
母乳に含まれる活性酸素が腸内フローラをコントロール
これまでは母乳成分の生化学的なメカニズムについてはよく分かっていなかった。今回の研究で、過酸化水素をはじめとする活性酸素を有効に利用することで、腸内フローラがコントロールされていることを、東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の永岡謙太郎准教授らの研究グループがマウスを用いた実験で明らかにした。
母乳に含まれる過酸化水素は乳子の消化管内で、外部から侵入してくるさまざまな細菌に対して門番のような役割を担っており、過酸化水素に抵抗性を示す乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌が優先的に腸内に定着するのを助けているという。
研究は、母乳中に含まれる過酸化水素の重要性を示したもので、アミノ酸や活性酸素による腸内細菌をコントロールする新たな方法の開発につながる可能性がある。
母乳中に含まれる過酸化水素が乳酸菌を増やす
研究では、マウスの母乳中に多く含まれる過酸化水素を産生する酵素である「LAO1」が欠損したマウスを用いて、母乳にLAO1が含まれるか否かで子の腸内フローラのどにような変化が起こるかを、遺伝子レベルと培養レベルで調べた。
その結果、LAO1を欠損していない母マウスから母乳を摂取している子マウスの腸内フローラは、そのほとんどが乳酸菌で占められていたが、LAO1を欠損した母マウスの母乳を飲んでいる子マウスでは腸内フローラにはさまざまな菌があり、すでに大人の菌叢に近い状態になっていた。
また、LAO1は乳子の消化管内でも機能を失わずアミノ酸を分解して過酸化水素を産生することで、乳酸菌以外の細菌に対して抗菌性を示すことが判明した。

母乳を飲むと腸内で善玉菌が増えるメカニズム
これらから、母乳を飲むと乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌を増やすメカニズムとして、乳子の消化管内で産生される過酸化水素が外部から侵入してくる細菌群から選別し、乳酸菌などを優先的に届けていることが示された。
人においても母乳を飲んでいる赤ちゃんの腸内では菌の多様性が抑えられ、母乳摂取を止めると増えていくことが分かっており、同じメカニズムが働いているという。
この研究は、東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の重野佑布子氏、Haolin Zhang氏、および永岡謙太郎准教授らと、理化学研究所科技ハブ産連本部バトンゾーン研究推進プログラム辨野特別研究室の辨野義己特別招聘研究員ら、東北大学大学院農学研究科の野地智法准教授、京都府立大学大学院生命環境科学研究科の井上亮講師、中国科学院動物研究所のWanzhu Jin教授らの共同グループによるもの。詳細は米国の科学誌「FASEB Journal」に発表された。
東京農工大学大学院農学研究院Gut microbiota development in mice is affected by hydrogen peroxide produced from amino acid metabolism during lactation(FASEB Journal 11月15日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2021 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「保健指導リソースガイド」に関するニュース
- 2020年10月08日
- 10月8日は「糖をはかる日」ー「新型コロナウイルス感染症と糖尿病」「血糖コントロールとQOL]をテーマに Web講演会公開中(視聴無料)
- 2020年10月01日
- 【書籍プレゼント】加倉井さおり氏「勇気づけ保健指導®&健康教育ハンドブック」を10名の方に
- 2020年09月18日
- 【健やか21】AI健康アドバイスアプリを利用した肥満妊産婦への共同研究を開始(国立成育医療研究センター・リンクアンドコミュニケーション社)
- 2020年09月15日
- 【レポート】オンラインセミナー「コロナで変わる保健指導の"いま"を語ろう」開催報告!
- 2020年09月03日
- 【9/8開催】オンラインセミナー「コロナで変わる保健指導の"いま"を語ろう」※見逃し配信決定!
- 2020年08月24日
- メタボへの関心は腹囲測定から!「腹囲メジャー」決算セール実施中♪ ~健診やイベントの配布用にも~
- 2020年06月11日
- 保健指導リソースガイド「第1回オンラインセミナー」開催報告
- 2020年05月26日
- 保健指導の情報提供に大活躍!「健診・予防3分間ラーニング」をYouTubeにて公開
- 2020年02月04日
- 「健診・予防3分間ラーニングDVD」決算セール実施中♪ ~健診待合室や保健指導の情報提供にも!~
- 2019年11月20日
- なぜ漢方便秘薬は効くのか 腸の水分分泌メカニズムを解明 便秘以外にも応用
最新ニュース
- 2021年04月20日
- 中年期に運動と食事を改善すると人生後半は健康に 肥満・メタボは体重を3%減らしただけでも改善
- 2021年04月20日
- 口の中の健康状態が悪い高齢者は認知機能低下リスクが高い 口腔の健康を維持すれば、認知症を減少できる可能性
- 2021年04月19日
- 【新型コロナ】運動不足が重症化リスクを高める 肥満・メタボよりもさらに深刻 コロナ禍でもウォーキングなどの運動を
- 2021年04月19日
- 出生体重が少ない女性は「妊娠高血圧症候群」のリスクが高い 「妊娠糖尿病」のリスクも上昇 日本人女性4万人超を調査
- 2021年04月19日
- 不妊治療を受ける女性へのメンタルヘルス支援が必要 54%に軽度以上の抑うつ症状が 成育医療センター
~保健指導・健康事業用 教材~
-
アイテム数は3,000以上! 保健指導マーケットは、健診・保健指導に役立つ教材・備品などを取り揃えたオンラインストアです。 保健指導マーケットへ