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母乳が赤ちゃんの腸内フローラを健康にする メカニズムを解明

 母乳育児は子の生体機能に有利に働くことが知られている。
 母乳に含まれる成分が、赤ちゃんの腸内で乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌以外の細菌を増やさない門番のような役割を担い、腸内環境を健康に保っていることを、東京農工大学などの研究グループが明らかにした。
哺乳期につくられた腸内フローラは一生変わらない
 人を含む哺乳類は進化の過程で、母乳で子を育てる戦略を選択してきた。一方で、哺乳類にとって腸内フローラは生体の恒常性維持に重要であり、これが乱れるとがんや糖尿病などの生活習慣病、認知症の発症リスクを高めることが分かっている。

 腸内フローラは生まれて間もなく形成が開始され、離乳などを経て徐々に大人の菌叢へと近づいていく。哺乳期間を含む腸内フローラの形成過程に獲得した腸内細菌は、多少のバランスの変化は起こるものの生涯不変とされている。

 老化とともに乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌は減少するが、基本菌叢のパターンは大きく変わらないと考えられている。ヨーグルトなどの乳製品を摂取すると、一時的に菌叢を変えられるが、摂取をやめると元に戻ってしまうのはそのためだ。

 つまり、赤ちゃんの哺乳期に、腸内フローラを正常な菌叢に整えることが重要ということだ。そしてその秘密は母乳中に隠されている。

関連情報
母乳に含まれる活性酸素が腸内フローラをコントロール
 これまでは母乳成分の生化学的なメカニズムについてはよく分かっていなかった。今回の研究で、過酸化水素をはじめとする活性酸素を有効に利用することで、腸内フローラがコントロールされていることを、東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の永岡謙太郎准教授らの研究グループがマウスを用いた実験で明らかにした。

 母乳に含まれる過酸化水素は乳子の消化管内で、外部から侵入してくるさまざまな細菌に対して門番のような役割を担っており、過酸化水素に抵抗性を示す乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌が優先的に腸内に定着するのを助けているという。

 研究は、母乳中に含まれる過酸化水素の重要性を示したもので、アミノ酸や活性酸素による腸内細菌をコントロールする新たな方法の開発につながる可能性がある。
母乳中に含まれる過酸化水素が乳酸菌を増やす
 研究では、マウスの母乳中に多く含まれる過酸化水素を産生する酵素である「LAO1」が欠損したマウスを用いて、母乳にLAO1が含まれるか否かで子の腸内フローラのどにような変化が起こるかを、遺伝子レベルと培養レベルで調べた。

 その結果、LAO1を欠損していない母マウスから母乳を摂取している子マウスの腸内フローラは、そのほとんどが乳酸菌で占められていたが、LAO1を欠損した母マウスの母乳を飲んでいる子マウスでは腸内フローラにはさまざまな菌があり、すでに大人の菌叢に近い状態になっていた。

 また、LAO1は乳子の消化管内でも機能を失わずアミノ酸を分解して過酸化水素を産生することで、乳酸菌以外の細菌に対して抗菌性を示すことが判明した。
母乳を飲むと腸内で善玉菌が増えるメカニズム
 これらから、母乳を飲むと乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌を増やすメカニズムとして、乳子の消化管内で産生される過酸化水素が外部から侵入してくる細菌群から選別し、乳酸菌などを優先的に届けていることが示された。

 人においても母乳を飲んでいる赤ちゃんの腸内では菌の多様性が抑えられ、母乳摂取を止めると増えていくことが分かっており、同じメカニズムが働いているという。

 この研究は、東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の重野佑布子氏、Haolin Zhang氏、および永岡謙太郎准教授らと、理化学研究所科技ハブ産連本部バトンゾーン研究推進プログラム辨野特別研究室の辨野義己特別招聘研究員ら、東北大学大学院農学研究科の野地智法准教授、京都府立大学大学院生命環境科学研究科の井上亮講師、中国科学院動物研究所のWanzhu Jin教授らの共同グループによるもの。詳細は米国の科学誌「FASEB Journal」に発表された。

東京農工大学大学院農学研究院
Gut microbiota development in mice is affected by hydrogen peroxide produced from amino acid metabolism during lactation(FASEB Journal 11月15日)
[Terahata]
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