オピニオン/保健指導あれこれ
働く女性と乳がん -がん治療と乳房再建のいま

No.5 シリコン乳房インプラントの実際

セルポートクリニック横浜院長、 杏林大学形成外科非常勤講師
辻 直子

 一般的な乳房再建の方法は皮弁移植と乳房インプラントの2つがあり、前回は皮弁移植についての説明をいたしました。

 今回はもう一つ、いまや乳房再建のスタンダードともいえるシリコン乳房インプラントによる再建についてお話していきます。

 乳房インプラントの変遷
 乳房インプラントの歴史は古く、1960年代からつくられてきました。その素材や構造は絶えず改良が重ねられ、現在はシリコンのシェル(殻)にコヒーシブシリコンジェルが充填されたものが一般的に使われています。

 乳房再建で用いられているのは、しずく型(アナトミカルタイプ)で、表面がざらざらした(テクスチャータイプ)が最も多いです。

 長年、シリコンインプラントは保険適用がなく自費(60-100万円)での再建でしたが、2013年~2014年にかけて保険承認となり、乳房再建を目的として、承認施設で再建する場合は保険での治療が可能となりました。

 そのため乳房インプラントでの再建数は増え、これまで乳房再建をためらっていた人も保険での治療が可能ならやりたい、と希望するケースも増えたことから徐々に乳房再建数自体も増加してきています。

 乳房インプラントを用いた再建の方法
 乳房切除(全摘)後に乳房インプラントで再建する場合、通常はインプラント挿入の前にティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)を挿入する手術が必要になります。全摘後に平らになってしまった胸の皮膚では、インプラントを覆う分量が足りないためです。

ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)
写真提供:アラガン・ジャパン株式会社

 エキスパンダーの挿入は乳房切除と同時に行うことも多いですが(一次再建)、乳房切除後にしばらくたってから改めて挿入することもあります(二次再建)。

 術後、外来で徐々に水を注入することでエキスパンダーを膨らませ、それと共に乳房の皮膚が伸展・拡張されていきます。その間は通常の生活や運動が可能です。

 充分に皮膚が拡張したら、乳房インプラントへ入れ替えます。位置や乳房下溝線などを修正して閉創したら終了で、その時点ですでにインプラントと同じ形の乳房が出来上がっています。

 乳房インプラント再建の利点
 このように、乳房インプラントを用いた乳房再建の特長は、皮弁と比べてとても簡単で低侵襲であることです。

 新しい傷も増えず、短時間(1-2時間)で手術が終わりますので患者も治療者側も負担が少なく済みます。そのため、保険適応になってからは多くの患者が乳房インプラントでの再建を選択しています。

 乳房インプラント再建の欠点・注意点
 乳房インプラントで再建した乳房は、インプラントと同じ形になりますので画一的な、マネキンの胸のような形になります。

 綺麗な形なのですが、健側の乳房が下垂していたり、離れていたりすると左右差が生じます。またデコルテや腋窩などが切除により陥凹している場合にインプラントではその変形を修正することはできません。このように、切除の仕方や健側乳房の形によっては、左右差や変形が残ってしまうのです。

 また、乳房インプラントは人工物ですので破損と被膜拘縮のリスクがあります。データによると10年で約10%に破損がみられるとのことです。乳房再建後も定期的な検診とメンテナンスが必要ということになります。また、被膜拘縮が生じると固く変形してきます。

 簡単だけど、すこし気になる「作り物感」、いずれは入れ替えも必要?
 このように、体の負担が少なく綺麗な形が簡単に作れる乳房インプラントによる再建。その保険適用により、多くの患者さんにとって乳房再建のハードルを下げた功績は大きいと思います。

 医療側からしても、特殊な技術も不要ですから、新しく再建治療を始めることも容易です。

 ただしオーダーメイドではない人工物ですので、多少の左右差は生じやすいこと、将来入れ替えなどのメンテナンスが必要なことを忘れてはいけません。

 違和感も多少はありますから、乳房の形やさわり心地に強いこだわりのある患者さんには、自家組織のほうが向いているかもしれません。

 以上が、乳房インプラントによる再建についてでした。正しい知識で再建方法を選ぶ必要があることがわかりますね。

 次回は、新しい乳房再建の選択肢、脂肪注入について解説していきます。

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