オピニオン/保健指導あれこれ
女性のライフステージと、体と心の健康運動

No.4 高齢期の健康運動の考え方 ~体も心も生涯現役を目指す~

ブレインラボカマクラ 代表
パーソナルフィットネストレーナー(NESTA認定)
健康運動指導士(健康・体力づくり事業財団認定)
前田 有美
 現在、65歳以上が高齢者と定義づけられていますが、特に、この世代に属する前期高齢者(65~74歳)の皆様の中には「まだ高齢者ではない!」とおっしゃる方が多いかもしれません。

 一方で、「私なんて、もう年だから・・・」とおっしゃい、まだ体力があり、体も自由に動くことができるのに、心のブレーキを踏んで活動や行動範囲を制限してしまっている方もいらっしゃったりします。高齢期になってくると、それまでのライフステージとは異なる体と心のアンバランスが生じるケースがあるように私は考えています。

 平成29年就労条件総合調査(厚生労働省)によると、一律定年制を設けている企業のうち、60歳定年が79.3%であると報告されています(※1)。

 生産年齢人口が減少している昨今、定年退職後の継続雇用の延長で、社会との関わりが維持されるようになりました。しかしながら、就労している方の場合、現状65歳で多くの企業で雇用が終わる傾向が強く、高齢期に差し掛かる時期に社会との関わりが変化することを示唆しています。

 高齢期女性の就業状況についてですが、65~69歳で33.3%、70~74歳で18.8%、75歳以上で5.5%、中年期55~59歳で69.0%、60~64歳で50.8%と報告されています(※2)。加齢に伴い就業率は低下していきますが、65歳を越えても働いている女性が多いと私は感じました。

 また、最近では、ご本人やパートナーが企業などを定年退職した後、夫婦や友人知人とともに新しい生活スタイルを築く方も増えてきています。住まいの場所を変え、全く異なる分野の仕事、あるいは趣味に勤しみ、気の合う仲間と集い、話し、毎日を楽しく元気に過ごしている方々を紹介するテレビ番組もあるほどです。

 地域や職域など、社会との関わりにおいて「人と話す(言葉や言葉以外で表現する)、話を聞く、考える、考えを修正する、挑戦する、および再挑戦する(行動する)」といった一連の行動は、体と心の両者がともに充実し、健康であることで円滑に行えることが可能になると考えています。さらに、1人ではなく、仲間がいることは、日常生活においても健康でいることへの励みとなり、より健康を増進させる可能性があると考えます。高齢期は、成人期や中年期に思い描いていた「暮らしぶりやありたい姿」を「自分らしく健康で元気に、長きに渡り実践する期間」でありたいですね。

 2016年における健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳となり、前回2013年の調査時と比較すると男女ともに延伸しています。平均寿命との差は男性8.84歳、女性12.34歳と過去の調査と比較して、短縮しています(※3)。しかしながら、女性に関しては、平均寿命と健康寿命の差が10年以上もある現状、この差をさらに縮めるべく、言い換えれば、「生涯現役」であるための対策を立てるのが理想です。

 図のとおり、女性の体と心の変化は、中年期あるいは成人期で生じた疾患や症状が高齢期まで長期にもたらすケースが多くありますが、要因として2種類に大別できます。

1.加齢
 脚力をはじめとした全身体力の低下が顕著になりますが、特に70代以降、筋力低下は加速化するといわれていることからも、対策がより重要になります。日常生活のちょっとした段差、地面や床面の変化でも転倒し、骨折することになります。また、筋力低下を含む顕著な全身体力の低下や骨折はADL(日常生活動作)の制限をもたらし、寝たきりに至ります。

2.女性ホルモン(エストロゲン)の分泌
 一般的には中年期の50代半ばになると、女性ホルモンの分泌が終わりますが、以降、生活習慣病や骨密度の低下を招くことで、骨粗鬆症に罹患しやすくなります。その結果、前述1とも関連しますが、転倒の際の骨折(手首、大腿骨頸部)や骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折が起こりやすくなります。特に、大腿骨頸部骨折は股関節に該当し、下肢の運動制限が長期になると、寝たきりになる可能性があります。変形性膝関節症については、男性より女性に罹患しやすく、特に50代以降に好発しやすくなりますが、女性ホルモンが関係しているといわれています。
 高齢期以前に罹った生活習慣病、骨密度の低下、変形性膝関節症などは、加齢に伴い、重症化あるいは合併症を併発することがあることから、早期に対策が必要になります。

 さて、スポーツ庁が実施した調査結果(※4)によると、この1年間に行った運動・スポーツの種目は60代女性で58.4%、70代女性で68.6%がウォーキングと回答し、種目の中で1位を占めています。ウォーキングは、日常生活の歩行動作であり、1人でもグループでも、公園や自宅周辺で気軽に実践されています。また、有酸素性能力を向上させる運動として効果を得やすく、また、生活習慣病の改善や予防に適した運動とされています。

 一方で、筋力トレーニングに相当する種目について、階段昇降が60代女性で10.1%、70代女性で17.0%、トレーニングが60代女性で10.2%、70代女性で12.9%の実施に留まっています。加齢に伴う筋力低下、転倒予防、および膝痛(変形性膝関節症)の予防に対して筋力トレーニングは有効ですが、実施率が大変低い印象です。私を含めた指導者が筋力トレーニングの重要性、および高齢期であっても効果を得られることについて、もっと世の中に広めていく必要性を感じています。

 私が大学院生だった頃、大学内で高齢者を対象にした運動教室で指導をしていました。週1~2回の自転車エルゴメータを用いた有酸素性のトレーニングと自重負荷(自分の体の重さを負荷にする)での筋力トレーニングの両者を行って頂きました。高齢者であっても、運動の継続実施により筋力をはじめとした体力の向上効果がありました。また、時に、和気あいあいと教室の仲間や私たち指導者とトレーニングの時間を過ごされ、前向きで体も心も元気な方が多かったです。

 また、この1年間での運動・スポーツ未実施者については、60代女性で26.1%、70代女性で16.3%を占めていましたが、必ずしも、年齢が運動やスポーツの実施を阻害している訳ではないと推察できます。

 高齢期において、病気やけがをしないように運動をする意識は大変重要です。あまりにも「○○しないように運動する」という意識、つまり、マイナス要素を予防する目的だけで運動を継続するのは、精神的につらくなるかもしれません。また、前述のとおり「私は年だから体が衰えても仕方ない。だから、運動しなくていいや」と考え始めると、運動を辞めてしまい、結果的に健康を害することになります。

 高齢期は、加齢に伴う体の変化が大きく数多くあります。体の変化に伴い、心への負の作用(不安や心配、恐れなど)もあわせて生じる可能性が高いですし、ライフイベントにおける介護の問題も切り離せなくなってきます。人生や日々の生活において、物事の大小に関係なく、日常的に「心が躍る楽しいこと」や「心を豊かにすること」を持ち合わせているならば、健康運動に対する取り組みが前向きになり、「私は体も心も健康である!」と感じる機会が増えると考えています。内閣府の調査結果によると、日本人が幸福感を考える際、「健康状況」を1位に挙げています(※5)。ぜひ、健康運動により体と心の状態を良くし、幸せを日々感じながら「生涯現役」を目指してください!

 今回、女性の一生を成人期・中年期・高齢期の3つのライフステージに分類し、各ステージにおける特徴を挙げながら、健康運動の考え方をご紹介しました。女性だけでなく男性の皆様にもご理解頂き、ひとりでも多くの皆様が健康で幸せになる一助となれば幸いです。

※1:厚生労働省, 平成29年就労条件総合調査 結果の概況, 定年制等
※2:内閣府, 平成29年版高齢社会白書(全体版)
※3:厚生労働省, 第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料
※4:スポーツ庁, 平成29年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」
※5:内閣府, 2010年「国民生活選好度調査」

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